41話 十二月の期末考査
十二月に入ると町中は一気にクリスマスムードになってきた。
しかし私たちはその前に期末考査がある。
今日は恒例になってきた、一年生たちの考査前の勉強会に私も混ざっている。
六人分の机を集めて、片側の三つの席に私、麻菜ちゃん、咲愛が座る。向かいの三つの席に、千賀屋君、来見君、翔馬が座った。
「もういくつ寝るとクリスマス……のはずなのに、なんで期末考査なんてあるんだー!」
お正月の歌みたいにクリスマスを歌う麻菜ちゃんがぼやいている。
「でも麻菜ちゃん、だんだん成績良くなったって喜んでたでしょ?」
「成績が良くなるのはいいの。テストは嫌じゃん」
なるほど?
咲愛と話す麻菜ちゃんを見ていたら、私の視線に気づいた麻菜ちゃんが、私の手元の問題集を指さした。
「レン先輩ー。先輩は試験前はどんな勉強してるんですか?」
「私? 特にはしてないわよ。一通りおさらいしてるだけ」
「ええっそれだけ?」
咲愛が麻菜ちゃんの肩を軽く叩いた。
「麻菜ちゃん。お姉ちゃんの『一通り』は『全部』なの。学期内の範囲の勉強を全部やり直してるの」
「……あたしには無理だ諦めよう」
「私と同じことをしなくていいから。麻菜ちゃんは短期集中派でしょう。基礎的なところに集中して、取れる点数を落とさないようにしましょう?」
「レン先輩ー!」
すがりついてくる麻菜ちゃんを、私は受け止めた。
「現国なら竜堂先生にお願いもできるわよ?」
「ぴぇー! それは、大丈夫です!」
竜堂先生に一度教えられてからこの調子だ。
咲愛によると麻菜ちゃんは「もう二度と呼ばれないように!」と現国を頑張っているらしい。
この間先生に会ったら、「沙月さんの成績が伸びて喜ばしいけれど、頼ってくれないのを寂しいとも思ってしまうよ」と少し寂しげに言っていた。
先生の指導を受けた生徒は、麻菜ちゃんに限らず自主的に勉強を始めるらしい。
先生、さすがです。
女子たち(ほぼ麻菜ちゃん)はにぎやかに勉強しているが、男子はどうだろう。
「なあなあ、千賀屋。フランス革命って独立宣言だっけ?」
「違うよ。独立宣言はアメリカの独立革命だ。フランス革命は王政の廃止。アメリカの独立革命はイギリスの植民地支配への不満から、フランス革命は当時の身分制と不平等への不満から起こったことだ」
「独立……植民地支配……、フランス……身分と不平等……」
「革命と名前がつくものは多いから、キーワードを見つけて関連付けて覚えるといいよ」
「なるほどー!サンキュー!」
来見君が人懐っこく千賀屋君に質問していた。
千賀屋君も翔馬相手と違って穏やかに答えている。手元には数学の参考書が見えた。
前に勧めた応用問題集を買ったようだ。
千賀屋君は勉強では、苦手科目の底上げをするタイプらしい。
すっかり風邪が治った翔馬は、来見君の横で黙々と漢文の教科書をめくっている。
私は教科書の復習は終わっているので、この間買ってきた英語の問題集を解いている。問題の作り方の傾向が担当の先生となんとなく似ていて、いい腕試しになりそうだ。
「鈴白先輩、質問してもいいですか?」
「ん? いいわよ」
千賀屋君が椅子を近くに寄せて来た。
参考書を見せてくれる。
「この問題についてなんですが、解説を見ても途中から理解ができなくて……」
「ああ、これね。つまずきやすいのよね」
手元のノートに図を書く。
「試しに適当に数字を置いてみるの。そうしたら……答えが出たけど、条件に合わないでしょう?」
「はい」
「じゃあ、ここには何の数字を入れたらいいと思う?」
「……ああ。だから、ここの数字なんですね」
「正解! そうなの!」
「なるほど。……ではこちらの問題も……できました」
「うん……合ってる。ね? ね? 気づくのが難しいのよ。あとは簡単」
「はい。何より先輩の説明が分かりやすいです」
「私のも本の受け売りよ。ほかにもわからなかったら聞いてね」
「はい」
千賀屋君も解けたのが嬉しいのかニコニコしている。
「レン姉、俺もこれ教えて」
普段は聞いてこない翔馬まで、質問してきた。
それだけ熱心に勉強してるってことなんだろうけど……。
「……翔馬。横着しないで」
翔馬は斜め向かいから身を乗り出して教科書を見せてくる。
机に寝そべっていて、行儀が悪い。
隣の来見君も迷惑そうに……してないわね。器用に翔馬を避けてる。
「読みにくいし、隣に来なさいよ」
素直に来た翔馬は、麻菜ちゃんと私の間に入ってくる。
逆に座ると千賀屋君の近くになるのが嫌なんだろうな。
「まっさん狭い」
「悪い。少し我慢して」
麻菜ちゃんは「もー」と言いながらも、咲愛の方に椅子を寄せてくれた。
翔馬が教科書を見せてくる。
「ここの読み方が、同じ字なのに違ってるのは何で?」
「ああ、ここね……これは一つずつ悩むより、形を覚えたほうが楽かも。この頭の文字と最後の文字がついてたら、こう読む、って覚えていいわよ。セットで出てくることが多いのはこれと、これ」
教科書に書かれた、同じ形式の場所を指さすと、翔馬はそこに線を引いた。
「じゃあこれの読み方は……こっち?」
「そうそう。あとは一人でもできるでしょう。頑張って」
教科書を翔馬の方に押しやる。
「……レン姉、俺には冷たくない?」
別に普通だと思うけど。
「翔馬は家でも聞けるんだから、いいじゃない」
「そうだぞまっさん、遠慮しろー。というわけで、次にレン先輩に質問するのはあたしでーす」
麻菜ちゃんが翔馬を押しのけて私の隣に椅子を持ってきた。
「ちょ、押すな!」
「レン先輩、あのですねー」
「おい、沙月!」
文句を言う翔馬を放置して、いそいそと麻菜ちゃんは教科書を見せてきた。
ニヤニヤしている。どうやら翔馬をからかっているらしい。
「うんうん、何が聞きたいの?」
おもしろそうなので、麻菜ちゃんにのっかってみた。
「レン姉まで無視するな!」
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