↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男性向け恋愛ゲームのヒロインの姉に転生したので、妹もゲーム主人公も幸せにします  作者: 駒うさすず
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/53

39話 翔馬の部屋

 文化祭が終わってから一週間経った。

 学園内も文化祭直後はまだ興奮が抜けきらなかったものの、最近は落ち着いている。


 私は文化祭のあと、咲愛から借りていた短編集を一週間かけて読み終えた。

 参考書や問題集ならスラスラ読めるのに、何故か面白いと思っても読んでいる間に眠ってしまい、一晩で短編を一編読めるかどうかだったのだ。

 前世の私なら好きなタイプの物語なのに。

 やっと読み終えて、咲愛に本を返したときには一週間経っていた。

 咲愛に感想をせがまれたので、「まず最初の短編のどんぐりが……」と話し始めたら「それ、椎の実だよ」とさっそく訂正された。

 ……どんぐりじゃないんだ……。

 咲愛は登場人物の心理描写に注目して読んでいるらしい。

「もう一度鍋を火にかけてたところでね、主人公の気持ちが上向いたんだなって……」

 そんなシーンだったかな。私は主人公が探偵役から謎解きの解説を聞いているシーンだとしか思ってなかった。

 いつもより興奮して少し饒舌に話す咲愛が可愛い。

「……お姉ちゃん、話聞いてる?」

「聞いてる聞いてる。可愛い妹の話を聞かないわけがないじゃない」

「聞いてないときの返事じゃない」

「もう!」と怒る咲愛はやっぱり可愛い。


 そんな調子で数日経った。

 今日も晩ご飯を食べ終えて、いつも通り居間で私と咲愛と翔馬の三人で勉強道具を広げていた。

「……っくしょん!……ティッシュちょうだい」

「ティッシュ」が「ディッジュ」に聞こえる鼻声で、翔馬が手を出してくる。

 近くに置いてあるティッシュケースから二、三枚取り出して渡した。

「はい。風邪?」

「ううん、鼻水が出るだけ」

 それは風邪と何が違うの。

「部屋で薄着してるんじゃない? お風呂に入ったとき、湯船にちゃんと浸かってる?」

「……大丈夫」

 質問に答えてない。

「……宿題終わったし、部屋行く」

 鼻をすすりながら翔馬が立ち上がった。

「ちゃんと鼻をかみなさい。ポケットティッシュがあるから、あげる」

「すぐなくなるからいらない」

 だから必要なんでしょうが。

「ちゃんと暖かくして早めに寝るのよ?」

「へいへい」

「翔馬君待って。ほうじ茶をレンジで温めたの。飲んだら少し温まるから」

 咲愛が差し出した湯呑みを、翔馬はありがたそうに受け取るとゆっくり飲んだ。

「ありがと。じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい……」

 私たちの見送りに、翔馬はひらひらと手を振ると出ていった。


 次の日。

『お姉ちゃん、翔馬君が登校してないみたい』

 二時限目の休み時間、咲愛からのメッセージを受け取った私は、翔馬のスマホに電話をかけていた。

 10回ほどのコールのあと、やっと出た。

「…………な"に"」

「ごめん、今からメッセージ送るから見て!」

 私はそう言うとすぐ電話を切った。

『学校休みって伝えておく。熱は? 何かあればいつでもメッセージ送って』

『部屋に体温計ない。今起きたから病院行く。心配しないで』

 病院に行くという言葉に少しほっとする。

 咲愛に『連絡ついた。風邪悪化してる。病院行くって』と連絡を入れると、ホッとしたスタンプが返ってきた。


 それっきり、翔馬からの連絡がない。

 放課後になり、私は一目散に帰宅した。

 普段着に着替えた私はキッチンに急ぐ。

 細かく野菜を刻んでブイヨンキューブを入れて煮込み、薄切りの牛肉も入れて、少しみりんと醤油で味付けする。これで野菜スープはできた。

 粗熱をとっておく。

 さらに玉ねぎと牛肉を別のフライパンで、酒とみりんと醤油でさっと炒めて、さっきのスープと分けてタッパーに入れた。

 翔馬が置いていっていた洗濯物を大きなエコバッグに詰め込んで、料理と、念のためタオルも何枚か入れておく。

 日は傾いているが、まだ暗くない。

 私は我が家に置いている、翔馬の部屋の鍵の予備を持って家を出る。

 ちょうど出たところで帰宅した咲愛に会う。

「お姉ちゃん?」

「ごめん咲愛、翔馬のところに行ってくるわ。スープだけできてる!」

「わかった。続きはしておくね」

「お願いね!」

 私はそのまま走り出した。



 翔馬の部屋は、我が家から10分くらいのワンルーム。

 入る前にマスクをつけて、ドアをノックしたあと、そっと鍵を開けた。

 部屋の中は暗い。玄関のすぐ横にキッチンがある。

 我が家とは違う匂いがする。

「翔馬ー?」

 呼びかけてみるが、返事がない。

「あと十数えて返事がなければ入るわよー。十、九……」

 ゼロまで数えたけれど返事がないので、意を決して入った。

 さすがに散らかっていても何も言わないでおこう、と思っていたものの、意外に部屋は片付いていた。

 というより、物が少ない。

 部屋の隅には学校で借りているらしい本や、何故かテニスのラケットが置いてある。

 他に床にあるのは、小さなテーブルとテレビくらいだ。

 部屋は遮光カーテンがついていて、照明が消えているので薄暗い。

 翔馬は部屋の片側に置いてあるベッドで、掛け布団を抱き枕のようにしている。

 寝巻き代わりのシャツがめくれ上がって背中が出ていた。シャツを引き下げて背中を隠す。

 ……風邪ひいたの、この寝相のせいじゃない?

「うう……」

 汗をかいてうなされている。さっき引き下げたシャツも汗でしっとりしていた。

 枕元には近くの薬局の紙袋が置かれている。

 ちゃんと病院には行ったらしい。

 でも汗だくで寝させるのもね……。


 部屋にある風呂場をのぞくと、やはり浴槽は普段使っていないようだ。

 さっと洗って、風呂場を暖めるために熱めのお湯を少しだけ張ってドアを閉めておく。

 持ってきたハンドタオルを濡らして絞り、レンジにかけて蒸しタオルにした。触ってみると、ほどよい熱さになっている。

 部屋に戻るとまだ翔馬は寝ていた。

 起こすのは悪いかなと思いつつ、声をかける。

「翔馬、翔馬。起きられる? ご飯、食べられる?」


 軽く肩を叩くと、翔馬が勢いよく飛び起きた。

「……っ! ……え? レン姉……何で?」

 ガラガラ声の翔馬が目をショボショボさせている。

「色々持ってきた。汗、気持ち悪いでしょ。それからこれ。測りなさい」

 体温計を渡すと、翔馬は大人しく脇に挟んだ。

 すぐにピピっと音がする。見せてもらうと三十七度五分。

「高いわね」

「病院だと三十八度超えてた……でもインフルとかじゃないって」

 そっか、インフルエンザの可能性もあったわね……。

 違うならよかった。


「その体温計、置いて帰るから使って。家に二本あったし、返さなくていいからね」

「うん……」

「起きられる?」

 ノロノロと立ち上がる翔馬に、蒸しタオルを渡した。

「洗濯物も持ってきたから、お風呂で着替えてきて。風呂場、寒くないように暖めてあるから」

「ん……」

 翔馬に着替えを持たせ、風呂場に行かせて、私は準備を始める。

 まずは部屋の空気がこもっているので、カーテンを開き、窓も開けた。少し肌寒い風が入ってくるが、仕方ない。

 ベッドを整えて、掛け布団のカバーは家から持ってきたものに変えておく。

 マットレスのカバーは替えのある場所がわからないので……家から持ってきたバスタオルを敷いた。

 持ってきたスープを翔馬の家のどんぶり鉢に入れて、持ってきた白ご飯と一緒にレンジにかけた。

「いい匂い……」

 翔馬が風呂場から出てきた。

 もう換気もできただろう。窓とカーテンを閉めた。

 テーブルの前に座った翔馬にどんぶり鉢とご飯を渡す。

「食べられる?」

「食べる……」

 スープにご飯を直接入れて、スプーンでかきこみ始めた。

 食欲があるようで、ひと安心。


 食べている翔馬に話しかける。

「牛肉と玉ねぎ炒めたやつ、タッパーに入れてあるから。冷凍うどんも買ってくるから、明日の朝ごはんは肉うどんにして食べなさい」

「え、今から買ってくるの?」

「そうよ。欲しいものある? プリン? ゼリー?」

「……プリンとアイス」

「わかった。食べ終わったらお薬を飲んで、洗い物は流しに置いておいて、ベッドで寝てなさい」

「うん……」


 近くのスーパーで頼まれた物と、水分補給用のドリンクの大きなペットボトル、冷凍うどんの五食パック、うどんだしの素を買って翔馬の部屋に戻る。

 翔馬はベッドで横になっていた。

 冷蔵庫に買ってきたものを詰めていると、「アイス食べたい」と言い始めた。

 わがまま。でも、元気になってきたということかしら。

 翔馬がアイスを食べている間に洗い物を終える。

 食べ終えたアイスのカップも受け取ってゴミをまとめた。

 持ってきたビニール袋に詰める。持って帰った方がいいだろう。

「……帰るの?」

「いたら落ち着かないでしょう? 無理させたくて来たわけじゃないから」

 そう言って玄関に向かうと、後ろから翔馬がついてきた。

「ちゃんと鍵かけるわよ?」

「こっちでかけるから、いらない」

 信用ないなあ。

「明日はもし休むなら連絡してね。冷蔵庫のものは全部食べていいから。お大事に」

 ドアを閉める寸前、翔馬の声が小さく聞こえた。

「……ありがと」


 ドアが閉まったあと、鍵をかける音がしたのを確認して、私は翔馬の洗濯物諸々を詰め込んだエコバッグを持ち上げた。

 エコバッグは持ってきた時よりも、軽々と家まで運べた。

いつも読んでいただきありがとうございます。励みになっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。