35話 文化祭の謎解きと模擬店
二年一組は、一年一組ほどではないものの、繁盛しているようだ。
数人待っていたので最後尾に並ぶ。
私の姿を見つけたクラスメイトの女子が寄ってきた。
「あれ? 鈴白さんおかえり。まだ今日の片付けまでには時間あるよ?」
「違うの。妹たちが謎解きやりたいって」
「了解。鈴白さんも妹さんと一緒にやる?」
案内係には、自分の担当分以外の答えが知らされていないから、参加するのはズルにならない。
「お姉ちゃんも一緒にやろうよ」
「……って妹が言うから、やるわ」
「はーい。結構お客さんの回転が速いから、そんなに待たせないと思う」
クラスメイトが教室に戻っていく。
「レン先輩のとこは、女子だけ男装ですよね!」
「そうよ」
最初は男子も女装させようかという案があった。
しかし男子たちの「冷静に考えろ。本気でそんな姿の俺たちを見たいのか?」という言葉に、女子は一人を除いて全員が首を横に振ったのだった。
首を縦に振った子は、私に男装を熱烈指導してくれた子だ。
「諸事情で女子だけなの」
「梢江先輩も格好良かったですし、さっきの先輩も爽やかな少年って感じでしたね。恋華先輩も一年女子の間で噂になってましたよ」
「そうなの?」
一番最初のお客さんになってくれた子たちの宣伝かしら。
思ったより待たずに入室できた私たちは、複数人の席に案内された。
教室の中では、ほかのグループもカードを囲んで謎解きに挑戦している。
案内してくれたのは男子だ。
手慣れた様子でカードを取り出す。
「おかえりホームズたち。さっそくだが君たちに解いてほしい謎はこれだ」
私たちはカードを一斉にのぞき込んだ。
制限時間はあと二分。
咲愛はカードをもう一度読み返し、手元のメモと見比べ、情報を確かめている。
「……答えは多分、これ、だと思う」
咲愛が、トリックと犯人の名前を書き終えた。
案内係を呼んで、確認してもらう。
「……正解です! 『さすがだな、ホームズたち!』」
「すごいねさーちゃん!」
「本当! ほとんど咲愛が解いちゃった!」
「ううん、好きなタイプの話だったから……」
「では正解パネルの前で撮影です! こちらへどうぞ」
パネルの前で撮影してもらったあと、咲愛が尋ねた。
「この謎ってお姉ちゃんのクラスメイトが作ったの?」
「そうよ。何で?」
「私の好きな作者の作品に似てたから。日常の謎を扱ってて……。読んだあともちょっと幸せな気持ちになれる作品が多くて」
その途端、教室を区切ったバックヤードから男子が飛び出して来た。
「君、ミステリ読むの!?」
謎を作ってくれたミステリ好きの子だ。
「はい。物語が好きなので」
「もしかして君の言ってるのってこの本!?」
男子が少し擦り切れている文庫本の表紙を咲愛に見せる。
「はい、そうです、読みました! 探偵役と友人の会話が好きで……」
咲愛が嬉しそうに答えた途端、男子の表情がぱっと明るくなった。
「そうなんだ! この先生、嫌いな人は少ないけど、一番好きだって人も少なくてさ。ミス研以外で読んでる人なんて見たことなかったし。僕はこの作品の日常生活の描写と、謎を解く時のテンションに落差をつけているところが好きなんだ。そして謎自体は日常のものだから、目新しいものではないはずなのに、仕掛けをトリックとして成立させているところが素晴らしいよね。特に最新刊では」
「そこまで! ストップ!」
マシンガンのようなトークで、うちの咲愛が固まってる!
「鈴白さん、君の妹さん、是非ミス研に」
「あの、私はミステリ自体にそこまで詳しくもなくて、ご迷惑に……」
「そうよ! 咲愛は生徒会でも忙しいし! ダメ!」
私のついていけない話で盛り上がるのも悔しいし!
少なくとも私がその本を読んでからにして!
「もしミス研に興味があればいつでも来てよ。感想言い合うだけでも楽しいからさー!」
名残惜しそうなクラスメイトを残して、私たちは急いで二年一組を後にした。
「あたしが口を挟めないなんて、あの先輩凄すぎます」
「彼があんなにしゃべったの、文化祭の出し物考えてたとき以来よ」
「でも、好きな作品を知ってる人がいる! ってわかると、あのテンションになるの、わかるなあ」
咲愛は深く頷いていた。
「咲愛はあの本持ってるの?」
「うん、お姉ちゃんも読む?」
「読みたい!」
「じゃあ帰ったら貸すね」
読んだら、私も咲愛と語ろう。楽しみ。
「頭使ったらお腹空いた! さーちゃん、レン先輩も模擬店で何か食べません?」
という麻菜ちゃんの提案で、私たちは模擬店を回ることにした。
三人それぞれが、食べたいものを三人分買ってきて、校庭に設けられた飲食スペースに集合する。
周りでも模擬店に買いに来た生徒たちがくつろいでいる。
あちこちのテーブルから、生徒たちの楽しそうな話し声が聞こえていた。
「ちょっと勧誘されちゃって、ワッフル買ってきました! クリームマシマシにしてもらってます!」
「私はスモア。マシュマロが硬くなってないといいんだけど」
「二人ともしっかり甘い物買ってきたわね」
「そう言うレン先輩は、何を買ったんですか?」
「フライドポテト」
あとドリンクも買ってきてある。
「甘いのとしょっぱいので無限に食べれるやつだ!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「三人とも、文化祭は楽しめている?」
「あ、竜堂先生、こんにちは」
「ぴー!」
麻菜ちゃんが先生の名前を聞いた瞬間、小鳥みたいな声を上げた。
苦手意識が抜けないみたい。
「先生は見回りですか?」
「そう、一応ね。今日はまだ校内公開だから気楽だよ」
「明日は一般公開ですからね」
「うん。今のところ問題もなさそうだし、私もそろそろ職員室に戻ろうかな」
「ハイ、ソレガイイトオモイマス!」
麻菜ちゃんが直立不動になってる。
先生は「文化祭でまで勉強のことは言わないよ」と苦笑しながら、職員室へ戻って行った。
三人で持ち寄ったものをつつく。
「……ふー。竜堂先生、やっぱり怖い……でも格好いい……」
「そんなに怖がらなくてもいいのに。教え方、わかりやすかったでしょう?」
「先生に教えてもらうと、そのあとの記憶が飛ぶんですよ! 教えてもらったことは覚えてるんです。そのあとの記憶が! 記憶があー!」
それはたしかに怖いわね。
「私はそんなことないけど……」
「さーちゃんはさ、元々ちゃんとわかってるじゃん! あたし、そこらへん全然わかってないから!」
それは麻菜ちゃんが特殊すぎるのかもしれない。
食べ終えた頃、周りで同じように飲食していた生徒も校舎へ戻り始める。
そろそろ一日目の開催期間も終わりだ。
「じゃあ今日はお開きにしましょうか」
「はーい! さーちゃんは? 一緒に教室に戻る?」
「一度生徒会室に行ってから戻るね。麻菜ちゃんは先に戻っててくれる?」
「了解ー」
帰り道では不機嫌全開な翔馬に、咲愛がスモアをあげて機嫌を直していた。さっき模擬店で翔馬の分も買ってあげていたらしい。
「レン姉は?」
「ごめん、買ってない」
「……」
無言で圧力をかけてくる。
「あー、もう、明日好きなもの一つ買ってあげるから」
「……二つ」
「一つ!」
ちなみに帰宅してから、咲愛おすすめの本を貸してもらったんだけど……。
短編を一編読んで眠ってしまい、次の日の朝はすっきりと目が覚めた。
「……あれ?」
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