32話 文化祭の準備
文化祭が近づいてきた。
夏前から準備を進めている部活やクラスでは、最終準備に大忙しだ。
三年生も、受験準備の合間を縫って、最後の文化祭だからと張り切っているらしい。
私の二年一組では、謎解き探偵事務所をコンセプトに、謎解きゲームを提供する。
一人用と複数人用の謎をいくつか用意し、お客さんには探偵事務所に帰ってきたシャーロック・ホームズになりきって、謎を解いてもらうのだ。
制限時間内に解ければ、小道具を持って成功写真を撮影できる。
解けなくても失敗写真を撮れる仕組みで、写真撮影スポットも兼ねている。
大掛かりなセットを用意しなくても楽しめるアトラクションを提供できると、クラスのミステリ好きな子が熱弁し、皆賛成した。
謎はミステリ好きの子が中心となって用意してくれた。
それをカードに印刷して、時間帯によって出す謎を限定する。
案内役は皆、シャツにクラシカルなベストとズボンという服装で統一する。
お客さんが選んだ謎を、「おかえりホームズ。さっそくだが君に解いてほしい謎はこれだ」と言いながら提供する、らしい。
ここはミステリ好きの子のこだわり部分で、台詞を必ず言うよう念を押された。
私も案内役だ。
「せっかくだから、女子は男装っぽくしよう!」という声もあり、私も張り切ったのだが。
「恋華は眉整えるくらいで、素材のままでいいでしょ」
楓の言葉にクラスメイトが頷く。
「本当だ。男装が似合うね、鈴白さん! 背もあるし……こうして見ると、目元がキリっとしてるのね。気づかなかった」
「それ褒めてる?」
暗に、胸がない、普段は締まりのない顔って言ってない?
「褒めてる褒めてる」
明後日の方向を見て言ってる。
絶対褒めてないやつー!
楓も私と同じくらいの背だけど、彼女はクラスメイトから「梢江さんはちょっと胸を押さえたほうがいいかな」と言われていた。
辛い。
校舎内を歩いていると、大道具を運ぶ生徒や、連絡係らしい生徒会役員が走っているのを見かける。
咲愛からも「しばらく帰りが遅くなるかも」と聞いている。私たちも帰る時間がまちまちだ。
ただ、翔馬はずっと何も教えてくれない。
咲愛に聞いたら「うん、本人が言うまで私は言わないでおくね」と、意味深なことを言うし。
怪しいのは、同じクラスの千賀屋君も笑顔ではぐらかしてくることだ。
不思議に思っていたら、文化祭のパンフレットを配られて謎が解けた。
パンフレットの催し物のページには、クラスごとの出し物が並んでいた。
一年一組の欄には『男女逆転メイド・執事喫茶!!』の文字と、可愛いメイドと執事のミニキャラが描かれていた。
ふーん……。
なるほどなるほど。
「咲愛、良かったら文化祭の一日目、翔馬のクラスへ一緒に行かない?」
その日、翔馬が自分の部屋に向かったあと、洗面所で歯磨きをしている咲愛に声をかけた。
咲愛が口をすすいだあと、バツが悪そうに私を見る。
「……お姉ちゃん、見たの?」
「見たの。咲愛、生徒会なら知ってたでしょう。教えてくれてもいいのに」
「翔馬君は言われたくなさそうだったから」
「それよ! 絶対翔馬の当番のときに行ってやるんだから」
「実は麻菜ちゃんとも行きたいねって話してるの。お姉ちゃんも一緒に行く?」
「行く!」
「咲愛のクラスもゲームコーナーになってたわね」
「そう。カードを使ったテーブルゲームと、短時間で遊べる人狼ゲームがあるよ」
「面白そう。人狼ゲームってやったことないのよね」
「うん、多分お姉ちゃんは苦手だと思う」
ん?
「私は生徒会優先で当番をしないけど、麻菜ちゃんはいるから、お姉ちゃんも是非来てね」
「うん、行かせてもらうわね……?」
微笑んでいる咲愛を見て、それ以上聞くのをやめた。
次の日。
学園へ向かう途中、翔馬と会った。
普段と変わらない翔馬の様子に、つい昨日のパンフレットの内容を思い出してしまう。
笑いそうになるのを慌ててこらえた。
「おはよう翔馬。今日は帰り遅くなるの?」
何ごともなかったようなふりで聞いてみたのだが。
「レン姉、何その顔」
「何もしてないけど?」
「いやニヤついてる。気持ち悪い顔してる」
……。
絶対、文化祭当日は見に行ってやる!
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