23話 ラッシュガードの攻防
リゾートプールに行く当日になった。
翔馬には借りている部屋から我が家の玄関に来てもらい、そこで合流した。
他の皆とは駅で待ち合わせだ。
「レン姉、まだー?」
玄関から翔馬の声が聞こえる。
私はリビングでショルダーバッグを漁っていた。
「ちょっと待って。財布がどこに行ったのか……」
「お姉ちゃん、玄関にあるよ。私が持っておくね」
「そっか、忘れないように置いたんだっけ。お待たせ、行きましょう」
エアコン消した。鍵も良し。
今日の咲愛はTシャツと少しフリルがついたハーフパンツに、花の飾りがついたサンダルを合わせている。
翔馬はここ最近いつも着ているTシャツとハーフパンツ。この子これしか服持ってないのかしら……。スニーカーは旅行の後買ったようで、新しいものを履いている。
私は珍しく、脱ぎ着しやすいようにシンプルなロングワンピースを着ている。足元はちょっとだけヒールのついたサンダル。
セミの大合唱が聞こえる中、私たちは駅へ向かった。
駅の改札前ですでに集まっていた皆と合流する。
麻菜ちゃんはTシャツと飾りのついたデニムのショートパンツ。スニーカーとキャップの組み合わせが麻菜ちゃんに似合っている。
千賀屋君は普段のイメージ通りだ。
綺麗めファッションというのだろうか。薄い柄のシャツと夏用の薄手のジャケット。シンプルなスラックスと一色の細身のスニーカーが身長の高さを引き立てている。
来見君は大きなオーバーサイズのシャツに、ゲームのキャラクターらしきドットの絵が大きくプリントされている。そしてハーフパンツと履きやすそうなサンダル。
「おはようございます、先輩。学園で見る制服の先輩も素敵ですが、私服は愛らしさが際立ちますね」
「おはよう千賀屋君。今日も元気そうで良かったわ」
「朝から意味わかんねーこと言ってんじゃねーよ」
「こら」
翔馬を小突く。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「大丈夫でーす! 楽しみで早く来ちゃっただけなんで!」
「オレもー!」
「ねー」と麻菜ちゃんと来見君がわかりあっている。可愛い。
改札をくぐってホームへ向かう。
電車に数駅乗り、降りると目の前に大きなドーム状の建物が見える。今日の目的地だ。
ホテルが併設されていて、プールは宿泊客以外も利用できる。
来る前にホームページも見たけど、浮き輪なども貸し出しがあり、建物の大きさからして一日遊べそうだ。
入場手続きを千賀屋君にお願いした。戻ってきた千賀屋君は全員に飾りのついたキーバンドを渡した。
「この飾りにICタグが入っています。ロッカーの施錠もこれで行ってください。買い物をする時はこれをかざして、帰る時にまとめて精算になります。防水加工はされていますが、あまり乱暴な使い方はしないようにしてください」
すごい。この飾りが鍵にもなるんだ。
「わかったわ」
「更衣室からプールに入場したら、近くに飲食店があります。その横で待ち合わせにしましょう」
千賀屋君の言葉に皆が頷いた。
「なるべく待たせないように急ぐわね」
「いえ、先輩と会える喜びに比べれば、待つ時間など一瞬です」
千賀屋君が絶好調だ。
「うわー! きれーい! 市民プールと違う!」
明るい更衣室を見て麻菜ちゃんが歓声を上げた。
確かに、プールから戻ってくる人もいるはずなのに、床がしっかり乾いている。
入口とプール側は二重のドアで区切られていた。
三つ並んで空いているロッカーを見つけたので、そこを使うことにする。
「じゃーん! もう着てきてたのでしたー!」
麻菜ちゃんがさっとTシャツを脱ぐ。
下には黄色地に花柄がプリントされたタンキニを着ていた。
シンプルな形だけど、華やかで大きな柄が麻菜ちゃんに似合っている。
「帰りの着替えも持ってきてるからバッチリだよ。さーちゃんとレン先輩は?」
仁王立ちの麻菜ちゃんに、私はワンピースを脱いだ。
咲愛もTシャツを脱ぐ。
私はシンプルだけど胸元にだけ飾りのついた黒いタンキニ。
上からショートパンツタイプのものを履いている。
咲愛は肩ひもの部分がフリルになっているパステルカラーのタンキニ。短いパレオがついている。私と咲愛の二人であれやこれや探して買ったものだ。
胸元がすっきりしているので、あまり強調されないのが気に入ったらしい。
「私たちも着てきてるの」
「やっぱりやりますよねー! さーちゃん可愛いね! 似合ってる」
「麻菜ちゃんも明るい色似合うよね。可愛い」
私はそんな二人のやりとりを聞きながら笑顔のまま、持ってきたラッシュガードをさっと羽織る。
……だって。
この二人、私より年下なのに。
……。
……真実を直視するのはやめよう。
「あ、あたしもラッシュガード着とこ」
麻菜ちゃんと咲愛もそれぞれ持ってきたラッシュガードを羽織った。
キーバンドの鍵でそれぞれロッカーを施錠して、腕輪として手首に巻く。
「じゃあ、行きましょう」
プールに繋がるドアを出ると、ざわめきに包まれた。
同時に、プール特有の水っぽい匂いもしている。
混雑というほどではないけど、利用者は多かった。
「あ、来たきた。鈴白先輩、こっちっすー!」
出るとすぐに来見君の声が聞こえた。
そちらを見ると、……わあ。
一角だけ、世界が違っていた。
皆、顔が良いんだなあ……。
売店の横に三人の男子が並んでいた。
翔馬はハーフパンツタイプの水着。一部に柄が入っているけれどシンプルだ。
千賀屋君は真っ黒でひざ上丈の、こちらもトランクスタイプの水着。ラッシュガードを上から着ている。
来見君は明るい色のハーフパンツタイプ。大きめのラッシュガードを羽織っていた。
周りで女の子たちが三人の方をチラチラと見ている。わかる。
私は今からあの中に入りに行くのね。……やだなあ。
しかし待たせるわけにもいかない。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「全然! 全然っす! 皆可愛くて……なんだっけ……目の保養?」
「るーみん、おっさんくさい」
「ひどっ。正直に言ったのに!」
「それはありがとねー」
にひひ、と麻菜ちゃんが笑う。
「俺も水着買ったんだけど、どう?」
「可愛いと思う。ね、さーちゃん」
「うん。可愛い」
「なんでー!? 格好良くない、これ?」
「格好いいと思っているところが、可愛いと思うわ」
「鈴白先輩まで!?」
はしゃぐ来見君に比べて、他の男子二人は静かだ。
「翔馬、ちゃんと水着持ってたのね」
声をかけると、「え、あ、は?」と返事じゃないものが返ってきた。
「水着。持ってたのね、って言ったの」
「ああ……うん」
歯切れが悪い。
「どうしたの? 待ってる間に体冷えた? 温かいもの買ってこようか?」
「い、いらない。……あのさ、レン姉」
「うん?」
「……前、閉めたら」
「前?」
「ラッシュガード! 閉めたら?」
……ああ、私が二人にコンプレックス持ってるから、せめて出すなと。
優しさなんだろうけど、人に指摘されるのって腹が立つわね。
「……」
「え、何で脱いだ!? やめろよ着とけよ!」
「なによ! 私の勝手でしょう!?」
翔馬は普段なら「着て」と言ったときは無理やり着せてきたりするのに、なぜか今日は近づいてこない。
「お願いだから!」
と言うだけだ。
「嫌ならいつもみたいに着せなさいよ」
「え、は? いやそれは……」
無理に着せるほどじゃないなら、脱いでたっていいじゃない。
「鈴白先輩、僕もラッシュガードは羽織られたほうが良いと思います」
「えっ……そう……?」
珍しく千賀屋君が真剣な表情で言ってくるので、仕方なく私はもう一度ラッシュガードを羽織った。
「せっかく買ったから、水着、見せたかったのに」
「見たから。見えてるから」
見たくないものを見せて悪かったわね!
「先輩が魅力的な事は自然の摂理ですから」
千賀屋君、それは言い過ぎです。ありがとう。
ぱちん、と麻菜ちゃんが手を打った。
「あたし流れるプール行きたい! そしたら終わりのところでスライダーやる! いっしょに来る人!」
全員が手を上げて、最初に流れるプールに行くことが決まった。
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