02話 皆がなんだかおかしいぞ
『君は見る、僕は瞑る(きみはみる、ぼくはつむる)』は、十八歳未満には購入できない、男性向けゲームだ。
略称は『はるはる』。
主人公の雨坂翔馬は幼い頃両親を亡くし、遠方の親戚の家に引き取られる。
その後、ゲームの舞台となる鏡水学園入学を機に、幼い頃に過ごした街へ戻って来る。
幼い頃仲の良かった子とは、ある出来事が元で疎遠になってしまい、クラスにもあまり馴染まなかった翔馬は屋上でサボることが多くて孤独を感じている――
っていう話だったはず。
「姉ちゃん、見てみて変顔ー」
「ぶっ!」
思わず吹き出してしまう。
ゲームでは、幼い頃でもこんな頬を両手で押して、フグみたいな顔をするような子じゃなかった。
せっかくの可愛い顔が! 台無し!!
「翔馬ちゃん、そういうことしたらダメでしょ!」
私を挟んで、翔馬とは逆側を歩く咲愛がぷりぷり怒っている。
それくらいの怒り方だと可愛いんだけど。
『はるはる』で翔馬と結ばれるヒロインは全部で五人。
その中でも、一番最初に翔馬と出会うヒロインがこの子、鈴白咲愛だ。
ゲームの中では、咲愛は幼い頃から翔馬が好きで、彼が学園に入学したときには、幼い頃に仲良くしていた男の子だと気づいている。
クラスが同じになった二年目からは、お弁当を作って毎日持ってきてくれる。付き合う前から甲斐甲斐しい新妻のような子だった。
プレイしていた当時、普通にこの子とくっつけばいいじゃない。一番翔馬のことを考えてくれてるのになぜ他の子と……? と何度も思ったものだ。
でも、引っ込み思案が行き過ぎて、翔馬に話しかけるのに一年かかったのはどうかと思う。
そう、彼女は奥手で引っ込み思案。
だったのに。
「お姉ちゃんも翔馬ちゃんも、今日はお家でお留守番って言われてたじゃない。お父さんとお母さん、おじいちゃんのお見舞いに朝早くから出かけたでしょ」
「はい、ごめんなさい」「ごめんなさい」
私と翔馬は二人で謝る。
全然引っ込み思案じゃないよこの子。小さいお母さんだよ。
「またお姉ちゃんが翔馬ちゃんを連れ出したんでしょ」
言うことが完璧にお母さんだよ。
「聞いてる? お姉ちゃん」
「うん、聞いてる聞いてる。ごめんね」
「その返事、聞いてないときの返事じゃない!」
「聞いてるよ。可愛い妹の話を、お姉ちゃんが聞かないわけないでしょ」
今の私は、恋華として生きてきた記憶も、前世の記憶も覚えている。
今まで何も思わなかった日常が、前世を思い出すと違和感しかない。
咲愛にお姉ちゃんと呼ばれる今の私は、鈴白恋華。
『はるはる』の攻略対象の一人だ。
ゲームでは学園の生徒会長。カリスマ性があり、支持者も多い文武両道の完璧超人。
妹の咲愛からは「お姉ちゃんみたいになれたらいいのに」と尊敬される一方、その完璧っぷりが咲愛のコンプレックスの原因にもなっている。
全然、今の私が将来そうなるとは思えない。
今の恋華の記憶では、もらった成績表に「もっと落ち着きましょう」とか書かれていた。ゲームの、冷静沈着な恋華のイメージとはほど遠い。
……今のところ、私を含めて全員性格が違ってるんだけど。
これは、詰んでるのでは……?
読んでいただきありがとうございます。




