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男性向け恋愛ゲームのヒロインの姉に転生したので、妹もゲーム主人公も幸せにします  作者: 駒うさすず
序章

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01話 君は見る、僕は瞑る

 繁忙期が明け、久しぶりに会った友人とご飯を楽しんだ帰り道。

 楽しい余韻に浸りながら、私は会社員たちで少し混み合った電車に乗っていた。最寄り駅まで寝ないように、何気なくSNSのタイムラインを眺めていると、あるゲームが目に留まった。

 ゲームクリアを報告する投稿だったが、そこには一枚のスチル絵が添えられていた。

 窓辺で頬杖をつき、横顔を見せる男の子。少し癖のある黒髪が風になびいている。どこか影のある、儚げな雰囲気の子だった。

 タイトルを検索してみると、年齢確認の画面を経て、爽やかな群像劇を思わせるパッケージが表示された。


 そのゲームの名は『君は見る、僕は瞑る(きみはみる、ぼくはつむる)』。ひらがなを拾って『はるはる』と呼ばれている。

 十八歳未満購入禁止の、男性向け恋愛アドベンチャーゲームだ。


 乙女ゲームはいくつかプレイしたことがあったものの、男性向けゲームは未体験だった。

 それでも、SNSで見た男の子――ゲームの主人公に一目惚れしてしまい、勢いのまま購入した。

 バッドエンドも何度も見たけど、それを回避してたどり着いたエンディングは格別だった。幸せそうな主人公と、その隣で微笑むヒロインを見て泣いたこともある。

 主人公をなんとか幸せにしたくて、一人クリアするたびに次のルートへ。しばらくは、休日を家事以外ほとんどゲームに費やしていた。

 そうして、隠しキャラクターも含めて全ルートをクリアした。

 クリア後、友人にも勧めてみたけれど、意外な視点から気に入ってくれた一人を除いて、全員に断られた。

 ネットでの評判も今ひとつで、続編は絶望的……。

 そんなゲームだったんだけど。



「なあ、姉ちゃんいつまで待ってりゃいいの?」

「もうちょっと。サクラが来たら、いっせーのせ、で飛び出すのよ」

「うまくいかないと思うけど。サクラちゃん、いつもみやぶってくるもん。まけっぱなしじゃん」

「大丈夫よ、今度はー……」


 いつの間にか横にしゃがみ込んでいた男の子が、葉っぱのついた木の枝を両手で握っている。

 私の手にも、同じような木の枝があった。

 その手は、男の子と同じくらい小さい。


 私は何をしているの?



 目の前には植え込み。後ろにはフェンスと大きな木。

 植え込みの向こうから、子どもたちの楽しげな声が聞こえる。どうやら公園らしい。

 私たちは何かから隠れているようだ。かくれんぼかしら。


 かくれんぼ? 大人の私が?


 いや、それより視線が低すぎる。何で?


 そのとき、一瞬のめまいとともに、前世の記憶がよみがえった。

 成人してOLをしていた頃の前世の記憶。

 そして、その前世でプレイしたゲーム『君は見る、僕は瞑る』の映像も頭の中をぐるぐる回る。


 ……


 ……あれ?


「姉ちゃんどうしたの?」

「……」


 隣にいる男の子の顔を凝視する。


「姉ちゃん?」


 きょとんとした顔で私を見上げる男の子。小学生くらいだろうか。

 少し癖のある黒髪に、日本人のはずなのに青い瞳。肌は対照的に白く、頬はうっすらピンク色でツヤツヤしている。長い睫毛も印象的で、モデルと言われても信じてしまいそうなほど綺麗な子だ。

 その美少年が、私の横で同じように木の枝を握りしめている。

 私は、この顔を知っている。


「ねーちゃーん?」


 男の子が目の前で木の枝をフリフリ振った。

 私はそれどころじゃない。


「……あ」

「あ?」

「あんた何やってんのーー!?」


 我慢できず立ち上がって叫んだ。

 この子、『はるはる』の主人公、雨坂(あまさか)翔馬(しょうま)じゃないの!!

 なんでこの子、こんな馬鹿みたいな格好で公園の茂みに隠れてるの!?


「何やってるって、姉ちゃんがついてこいって言ったんじゃん」


 翔馬は口を尖らせ、すねた口調で言った。

 ……可愛い。長いまつげに、キラキラと輝く瞳。

 手に持っている枝が、お馬鹿っぷりを測定不可レベルに引き上げちゃってるけども。

 この子が大きくなったら、あの色白な美少年になるのかしら。

 翔馬の見た目が好みで『はるはる』をプレイした私としては、ついつい浮かれてしまう。


「そうだっけ」

「そうだよ。サクラちゃんが通ったらおどろかそうって。今日こそサクラちゃんをギャフンて言わせるって」


 ギャフンて。その記憶が戻る前の私の言動に、こっちがギャフンだわ。ろくなことしてなさそう。

 サクラちゃんってゲームのメインヒロイン、鈴白(すずしろ)咲愛(さくら)のはず。

 私の知ってる咲愛ならきっと――


「……お姉ちゃん?」


 後ろから、鈴を鳴らすような声が聞こえた。愛らしいのに涼しげな声。その瞬間、なぜか冷や汗が噴き出す。

 恐る恐る振り向くと、長い桃色の髪をした、少しタレ目の女の子がいた。

 ぱっちりした二重で、まつげが長い。鼻は小さく、ほんのりピンク色の頬が色白の肌に映えている。翔馬に劣らず、ものすごく可愛い。


 でも彼女の後ろに暗雲が見える気がする! 不思議!


「お姉ちゃん、何、やってるの? まさか、公園に来るように言ってたのって、わたしを驚かそうとしたんじゃないよね?」


 ニコニコ笑う美少女小学生なのに、言葉の区切り方が怖い。

 その後、私と翔馬は地面に正座させられた。そのまま、『はるはる』のメインヒロインで、今の私の実妹でもある鈴白咲愛に、三十分ほど叱られたのだった。



 ……あれ?

 ゲームではこの子、こんなキャラじゃなかったよ?

読んでいただきありがとうございます。

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