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男性向け恋愛ゲームのヒロインの姉に転生したので、妹もゲーム主人公も幸せにします  作者: 駒うさすず
第一部

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19話 旅行の終わり

 いつもと違う匂いがする。

 目を開けると、離れた場所に黒髪の後頭部が見えた。……翔馬?

 見上げると、木の天井。

 ……そうだ、旅行に来たんだった。


 音を立てないようにスマホを取り出して見てみると、まだ朝の六時。

 朝ご飯は七時半の予定だから、かなり時間がある。

 そっと起き上がる。右を見ると翔馬がこちらに背を向けて眠っている。

 掛け布団を両手と両足で抱えて、抱き枕にしているのを見ると、小さい頃を思い出す。

 左を見ると、咲愛がこちらに顔を向けてスウスウと寝息を立てていた。

 掛け布団もきちんとかけられている。


 隣の部屋からは襖越しにお父さんの大いびきが聞こえてくる。

 幼い頃は、夜中に聞こえてくるいびきが、お化けの鳴き声だと思ったこともあったなあ。

 この大音量を至近距離で浴びて、お母さんはよく眠れるものだと感心する。


 そういえば、ここの温泉、朝風呂もやっていたはず。

 ……いいことを思いついた。

 起こさないように、とそろそろと荷物を漁る。お風呂セットを取り出して、着替えも準備。

 よし。

「……レン姉、どこ行くの」

 立ち上がった私を、翔馬が目をこすりながら見上げている。

 まだ眠そうな声で、口調も少し幼い。


「おはよう翔馬。ごめん、起こした?」

「おはよう……。別にいいけど……どこ行くの」

「まだ早いから、最後に温泉に浸かろうかなって」

「待って、俺も行く」

 翔馬はぐっと大きく伸びをすると、立ち上がってさっさと自分の荷物を取り出した。


 朝のひんやりとした静かな館内を翔馬と二人で歩く。

 中庭から光が廊下に差していて、家では聞かない鳥の鳴き声も聞こえる。

 私は朝が少し弱いので、まだ頭がぼんやりしている。

 最初は翔馬と並んで歩いていたのに、いつの間にか、翔馬はしっかりした足取りで先を歩いている。


 大浴場まで来ると、翔馬がくるりと振り返り、「レン姉、風呂出たらここで待ち合わせだから。一人でふらふらすんなよ」と言うと、さっさと男湯の暖簾をくぐって行ってしまった。


「翔馬こそ迷子になったらダメよ」くらい言おうと思ったのに。

 そんなことを考えながら、私も女湯へ向かった。


「いいお湯だったわね!」

 朝風呂ですっかり目が覚めた私は、浴衣からも着替え、待っていてくれた翔馬に声をかけた。

 昨日とはまた違って、露天風呂から見える、木々の間から漏れる朝日と鮮やかな葉の緑。その影が落ちる温泉の岩と、立ちのぼる湯気で、夜とは違う風情があった。

 来て良かった!


「レン姉、遅い」

 先に出ていた翔馬はむくれている。


「ごめん」

「めっちゃ待った。……そこのフルーツジュース、飲みたい」

「はいはい。どれ?」

「ミックスのやつ」

 ジュースで翔馬の機嫌を取り、私たちは部屋に向かった。



「ああ、帰ってきた」

 部屋に戻ると、お母さんが荷物を整理していた。

「お姉ちゃんたち、朝風呂に行ってたの?」

「うん、早く目が覚めちゃって」

「誘ってくれても良かったのに」

 咲愛は少し不満げだ。

「よく寝てたから。次の旅行のときは起こすわね」

「寝てても起こしてね」

「はいはい」

 咲愛の相手をしていると、お母さんから「あんた達」と声がかけられた。

「朝ご飯を食べ終わったら、旅館出るんだからね。荷物の準備終わってる?」

「昨日やってあるから大丈夫よ」

 私が言うと翔馬も頷く。

「俺もまとめてあります」

「ならいいわ。……よし。お父さん、そろそろテレビ消して。朝ご飯食べに行きましょう」


 一家揃って、食事処に向かう。

 朝ご飯はバイキング形式だ。

 ここでも翔馬は昨日と遜色ない食欲を発揮した。


「翔馬、食べ過ぎでお腹痛くなったりしないでよ」

「大丈夫、腹八分目にしてる」


 見てるだけでお腹いっぱいになりそう。

 普段それほど食べないお父さんも翔馬の食欲を見て張り切ろうとして、お母さんに怒られていた。


 帰る前に少し観光を、ということで、近くの景勝地に向かう。

 少し離れた駐車場に車を停めて、徒歩で向かった。

 池の周りはぐるりと歩けるようになっていて、私たち以外にも多くの観光客がいる。

 周りの木々と青空が、池の水面に映っている。

 天気の良さも相まって、絶景だった。


 歩くうちに、少し開けた場所に出た。

 池も大きく、奥には池にせり出した木の枝葉が水面に映る。

 絶好の写真スポットだ。

「ねえ、ここで写真撮りましょうよ」

 両親二人の写真を撮ったあと、翔馬がカメラマンになって、両親と私と咲愛でも撮ってくれた。


「じゃあ今度は私が撮るから翔馬が入って」

「いや俺は……」

「あっ、あの人なら……すみませーん!」

 通りかかった人が快く、写真を撮ってくれた。

「撮りますよー」

 渡したスマホを構えている前で、私たちはポーズをとる。


「ちょっと翔馬、離れたら撮りにくいでしょ。咲愛も寄って寄って! ほら!」

「ちょっ」「うん」

 カシャリ、とシャッター音が聞こえた。続いてもう一度、シャッター音。


「確認してもらえますか?」

「ありがとうございます! ……綺麗に撮れてます! お手間かけてしまってすみません」

「良いご旅行を!」と、写真を撮ってくれた人に頭を下げた。

 スマホの写真アプリを再度見てみる。

 微笑みながらこちらを見る両親がいた。その前で満面の笑みを浮かべた私は、左右に立つ翔馬と咲愛にそれぞれ腕を絡めている。翔馬は少し体勢を崩し驚いた顔で、咲愛は笑顔でこちらを見ていた。


「これ、後で今日のアルバム作って共有するからね。ちゃんと保存するのよ」

 そう言うと翔馬は「わかったから」と頷いた。


 帰り道、朝にはしゃぎすぎたからか、翔馬に寄りかかって眠ってしまった。

 結局、何度も小突かれて何度も目が覚めながら家に到着した。

 私は、自分のほうに寄りかかってきた咲愛が眠りやすいように、体勢調整までしたのに、翔馬ときたら。

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