18話 温泉宿で晩ご飯
お揃いのストラップを選んでもらい、買った店を出て、さっそくスマホにつけた。
りんごをモチーフにしたコミカルなキャラクターがユラユラとゆれている。
最初に私が見ていたストラップも可愛かったけど、咲愛が選んでくれたこれも、ゆるキャラっぽくてとてもいい。
「見て。可愛いでしょ。咲愛が選んでくれたストラップ!」
「俺も同じの持ってるんだから知ってるよ」
「何で翔馬はスマホに付けないの? 可愛いのに」
翔馬は家の鍵につけている。
「放っとけよ。別に勝手じゃん」
「お姉ちゃん、翔馬君に無理強いしないの。私もスマホに付けたよ」
せっかくお揃いなのに。もう。
「次はどこ行く? このまま道沿い?」
翔馬がスマホで地図を見ながら聞いた。
「あまり遠くに行くわけじゃないし、まずは道沿いに行きましょう。あとソフトクリーム食べたい!」
ソフトクリームの看板があちらこちらにあり、食べている人も多い。
「あ、俺も」
「じゃあどこかのお店か、ベンチで食べよう」
ソフトクリームを三人とも買って、外で食べる。
「美味しー。咲愛のはどう?」
「はちみつ風味で美味しいよ。一口食べる?」
「食べる! 私のもあげる」
一口ずつ交換した後、翔馬も別のを買っていたのを思い出す。食べている翔馬をじーっと見たけど、
「俺のはあげない」
「えー、一口あげるからちょうだい」
「いらねー、あげねー」
そんなやりとりをしながら散策を楽しんだ。
「あ、お母さんからだ。お部屋に案内されたって。晩ご飯は六時半からだから、それまでに温泉入りたいなら早めに帰って来なさいって」
スマホを見た咲愛が伝えてくれた。それはいいんだけど。
「何で私に連絡しないの」
「それは咲愛の方が、痛っ……なんでもない」
一言、多い!
「でも結構雲が出てきたし、通り雨も来るんでしょ? 一度戻ろっか」
咲愛のその言葉に、来た道を戻っていく。
雨といえば、竜堂先生、結局帰る時間をずらせたのかしら。何もなければ良いけど……。
「お姉ちゃん、どうしたの。気になるものでもあった?」
先を歩く咲愛と翔馬がこちらを見ている。
考え事をしていたら、二人に遅れていたようだ。
「ううん、なんでもない。行きましょ」
月曜日、学園に行けばわかるだろう。
考えても仕方ない。今はせっかくの旅行を楽しまないと!
私は二人に追いついて歩き出した。
温泉宿に戻ってきた私たちは、両親の待つ部屋へ案内された。
部屋は広い畳敷き。皆で布団を敷いて寝られそうだ。
窓からは綺麗に整えられた庭が見える。
私は持ってきた荷物からお風呂セットを取り出した。
「やっぱり温泉宿なら、浴衣でご飯食べたいわよね」
「別に……?」
怪訝な翔馬に構わず、私は続けた。
「浴衣着るためには、温泉に行かなきゃいけないわよね」
「お姉ちゃん、温泉入りたいのね」
そう! ただのお風呂じゃない、温泉だもん。晩ご飯の前にも入って、後にも浸かりたい。
「じゃあ私も行こうかしら。お父さんはどうする?」
お母さんが腰を上げた。
お父さんも翔馬と男湯に行くようだ。いそいそと準備している。
「咲愛はどうする?」
「お姉ちゃんと行く」
この可愛い返事!
家族全員で大浴場へ向かう。
「言っておくけど恋華。お風呂で泳いだらだめよ?」
お母さんは私を何歳だと思っているんだろう。
「あんたが子どもの頃に、大浴場で……」
あ、いいのよ思い出さなくて。
絶対ろくなことしてないから。
温泉は露天風呂もあって最高だった。さっきより雲は増えているが、まだ明るいので木々の緑も見えている。
ホカホカになった私たちは湯冷めする前に上がる。
また夜も入りに来るから、お楽しみはまだまだあるのだ。
「次は晩ご飯ね、咲愛!」
「……お姉ちゃん、浴衣が左前になってる」
咲愛に直してもらい、脱衣場を出た。
「遅い」
部屋に戻ると、お腹が空いてきたのかイライラしている翔馬がいた。
お父さんと並んで浴衣を着ている。……左前にはなってない。
「翔馬、早いわね。私たち露天風呂でゆっくりしてたから。翔馬はちゃんと肩まで浸かった?」
「いや、子どもじゃないから」
ちょうど晩ご飯の準備の時間で、仲居さんが手際よく配膳してくれる。
お刺身に茶碗蒸し、揚げ物や一人用のお鍋などなど……
どれも彩りよく並んでいるけれど、結構品数が多い。
最後に皆のお茶碗にご飯をよそってくれた後、鍋の食べ頃を教えてくれて、仲居さんは退室した。
お父さんとお母さんには地ビール、私たちは地元で作られたジュースで乾杯して、晩ご飯が始まった。
「いただきます」
翔馬の箸が……見えない。
咲愛はおひつの横に座っている。
先に自分が食べられる量を取って、残りを翔馬のほうに回していた。
翔馬のご飯が消えるのを見計らって、自然にお茶碗を受け取って山盛りにして渡す。呼吸の合わせ方が達人の域だ。
「翔馬、私のも少し食べてくれる?」
「ん。置いといて」
私も食べられる量だけ取り、翔馬の分を分けて翔馬のほうに寄せる。
「あんたたち、おやつ食べすぎたんじゃないの。翔馬君を見習いなさい」
育ち盛りの男の子と、年頃の女の子の食事量を比べないで欲しい。
食後、もう一度温泉に入った。
外は昼間の天気が嘘のように土砂降りだ。
露天風呂はやめて、室内から外を眺めながらお湯に浸かる。予報だと、夜中に小雨になり、明け方には止むそうだ。
部屋に戻ると、すでに布団が全員分敷かれていた。
両親の布団二組と、私たち三人の布団三組に分けて敷かれている。
「私ここ!」
一番端に転がると、そのまま翔馬に真ん中の布団に蹴り転がされた。
「何よ!」
翔馬が顎をしゃくって反対側の布団を指す。
そこには咲愛が「私ここがいい」というように布団の上に座っている。いつも見ている可愛い咲愛だ。
ということは。
「うん。じゃあ真ん中が翔馬ね」
「いやおかしいだろ! レン姉が真ん中!」
強制的に、咲愛、私、翔馬の並びにされてしまった。
……翔馬、動かすなら咲愛でもよくない?
「あんたたち、はしゃぎすぎないで早く寝るのよ」
お母さんの言葉に、私たちは声をそろえてよいこの返事をしたのだった。
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