17話 雨が降るから
「雨坂君、鈴白さん」
竜堂先生に声をかけられた二人が振り向く。
「え、竜堂先生? 何で?」
「こんにちは、竜堂先生。先生も旅行ですか?」
「うん。バイクが趣味なんだ。あなた達も?」
「はい、両親とお姉……姉も」
咲愛が私に目をやりながら答えたので、私も先生に挨拶する。
「竜堂先生、こんにちは。姉です」
「ああ、君がお姉さんの鈴白さんか。球技大会の」
球技大会の。
……深く聞くのはやめておこう。
「出かけた先で見知った顔がいたものだから、つい声をかけてしまった。悪いね」
「いいえ。でも先生のご趣味がバイクなんて意外です」
実は私は知ってるけど。
竜堂先生は普段、スーツをきっちり着こなしているのに、休日は大型バイクに乗って遠出するのが趣味なのだ。格好いい。
原作ゲームだと、後ろに翔馬が乗せてもらうエピソードもある。
そして、原作ゲームでは攻略対象。
……翔馬、結構いろんなタイプの女性と仲良くなるのよね。まあ、それが目的のゲームだしね。
……。
「……何、レン姉その顔。俺なんもしてないけど」
「別にー」
そう。今の翔馬とは違う、ゲームの翔馬だから。ゲームの翔馬がちょっと色んな女性と仲良くなるだけだから。
「い、痛! 急に叩くなレン姉」
「あ、ごめんつい」
つい。ゲームの翔馬への「節操ないな」という苛立ちが、軽いパンチに。
「優秀と聞いていたけれど、楽しいお姉さんだね」
「お姉ちゃん、翔馬君、お店の中で騒いじゃだめだよ」
「俺じゃなくてレン姉に言えよ!」
「だからごめんって言ってるじゃない!」
あと竜堂先生、優秀って誰が言ってたのか、後でくわしく教えてください。
菓子折りをお持ちします。
「竜堂先生は一人で来たんですか?」
私に殴られた(ごめんって)腕をさすりながら、翔馬が首をかしげた。
「いいや、学生時代の友人と。そろそろ行かないと」
学生時代の友人。……ん?
「先生、今日帰られる予定なんですか?」
「ん? そうだね、夜に帰るよ」
慌ててスマホで天気予報を見る。
今は晴れているけれど、雨雲が近づいている表示が出ていた。
「せ、先生、雨予報、見ましたか? 夜、結構雨が強いみたいですよ」
先生にスマホの画面を見せる。
「朝は見たけれど。……本当だ。雲の動きも速いな」
「そうなんです。通り雨みたいですけど、ちょっと帰る時間はずらしたほうがいいかもしれません」
「確かに。ありがとう。友人と相談してみる」
先生は「では、また月曜日に会おう」と言うと、自分のスマホを取り出した。店の外で電話するようだ。
「ああ、そうだ。一応教師らしい事を言っておこうかな。『羽目を外しすぎないように』」
去り際にニコリと笑い、先生は店を出ていった。
「……ふう」
確か、ゲームの竜堂先生は、一年前にバイク事故で親友を亡くした、という話があったはず。
事故が起きたのが今日なのかはわからない。だけど、ちょっと気になったのだ。
注意して悪いことはないだろうし、言うだけならいいだろう。
「それで咲愛、良さそうなお揃いのストラップ見つかった?」
私は気分を切り替えて、二人の手元を覗き込んだ。
原作ゲーム版のキャラクター短編も始めました。よろしくお願いします。




