16話 旅行のはじまり
球技大会が終わった週末、久しぶりに両親と私、咲愛、翔馬の五人で晩ご飯を囲んでいた。
今日はチキン南蛮。
チキンに添えられているタルタルソースは咲愛のお手製で、お酢が控えめだ。
私の好みはもう少し酸っぱくてもいいけど、翔馬の箸が高速で動いているのを見ると、このままでいいかと思える。
お母さんが「そうそう」と口を開く。
「来週末、一泊旅行に行くから、準備しておいてね」
「一泊? どこ?」
「軽井沢。温泉宿が予約できたの。お父さんが車を出してくれるから。来年は恋華が受験でそれどころじゃなくなるでしょう? 夏休みはお母さんたち、ちょっと都合がつかないから、一泊だけど皆で行きましょう」
「へえ、いってらっしゃい」
そう言う翔馬を、お母さんが軽くにらんだ。
「何言ってるの。翔馬君も行くに決まってるでしょう。土曜の朝、荷物もって我が家に集合。いいわね?」
有無を言わせないお母さんに、翔馬は素直に「はい」と頷いていた。
「お姉ちゃんは旅行にどんな服で行くの?」
「え? カットソーとジーンズ。咲愛は?」
「私はこの前買ったフリルのトップスと、ハーフパンツにしようかな」
「あれ可愛いもんね」
「お姉ちゃんも着たら似合うのに」
「私はシンプルなのが好きだから」
ただ、私の体型はその……胸が目立たないので、なるべくワンポイント入る物を選びがちだ。
咲愛はフリルやレースが好きだが胸のせいで太って見えやすいので、選ぶのが大変と言っている。
いいなあ……。
旅行当日。
一泊の荷物を詰めたショルダーバッグを持って、翔馬が現れた。
普段から着ているTシャツとチノパン。
その辺に買い物に行くような格好だ。
我が家のミニバンの後部に宿泊荷物を載せて、運転手のお父さん、助手席にお母さん。二列目には私たち三人が乗り込む。
「咲愛、酔い止め飲んでる?」
「うん。出る前に飲んだ」
「じゃあ大丈夫ね。お母さん、これ、買っておいたペットボトルのお茶。お父さんにも渡して」「はいはい」
「はい、咲愛と翔馬も。ジュースとお茶買ってあるから好きなほう取って」
「レン姉張り切りすぎじゃない?」
「お姉ちゃん、昨日から楽しみにしてたから」
だって。久しぶりの旅行だから、しょうがないじゃない。
車は順調に高速道路に入り、途中のサービスエリアに立ち寄った。
フードコートで早めのお昼ご飯を食べて、そのまま軽井沢へ向かう。
温泉宿に荷物を預けられたので、そのまま散策に向かうことにした。
お父さんは朝から運転しっぱなしだったので、共用スペースのソファでぐったりしている。
「私とお父さんは宿で待っているから、あんたたちだけで行ってきて。チェックインしたら知らせるわ」
「わかった。ちゃんと咲愛と翔馬のことは私が見るから」
「咲愛、翔馬君、恋華のことお願いね」「うん」「はい」
何で。
宿を出て近くの土産物屋を覗く。
有名キャラクターのご当地ストラップが売っていて、なかなか可愛い。
「ねえ、これ皆で買わない? 来た記念に」
私が見せたストラップを見て翔馬が変な顔をした。
「……これ、でかいりんごに食べられてるように見えるけど」
「うん、可愛いでしょう?」
翔馬は黙ってしまった。
「お姉ちゃん、お揃いにするなら私に選ばせてくれる?」
可愛い妹のおねだりを断るなんて、私にはできなかった。
咲愛が選んでくれるあいだに、店内を見て回っていると、新しいお客さんが入ってきた。
その姿を見て、私は立ち止まってしまった。
切りそろえたボブカットに切れ長の目。翔馬と同じくらいの身長の女性。
ライディングジャケットの前を開き、細身のパンツスタイル。ジャケットの間から見える体のラインは、メリハリのあるスタイルなのがわかる。
直接会うことはなかったが、私は彼女を知っていた。
鏡水学園で現代の国語を担当し、一年生を指導している教師、竜堂あやめ先生だ。
先生は店内を見回すと、ストラップを選んでいる咲愛と翔馬を見て少し目を見開いた。
まっすぐ二人の方に向かっていく。
慌てて私も二人の方に向かった。




