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男性向け恋愛ゲームのヒロインの姉に転生したので、妹もゲーム主人公も幸せにします  作者: 駒うさすず
第一部

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13話 翔馬とテニス

 球技大会の準備期間、私と咲愛と翔馬は、帰る時間がバラバラになってしまった。


 テニスのシングルスはテニス部員の参加が禁止されていて、ダブルスのペアは片方がテニス部員でも許可されている。

 私とペアを組んだクラスメイトもテニス部員だ。

 ほかのクラスも同じようにしているらしい。

 何度かペアを組んで一緒に練習したが、特に問題もなく、あとは当日を待つだけになっている。

 私が帰るのが一番早いので、ここ数日は、私が晩ご飯を作っている。


 毎日遅くまで練習している咲愛は、苦戦しているらしい。

 沈んだ顔で帰ってきたかと思えば、次の日は顔を上げて決意を滲ませて登校したりしている。

 こっそり練習を見に行きたい。……けど、咲愛が私に何も言わないのは、自分の力でやりたいとき。

 咲愛ががんばるなら、私も我慢だ。


 翔馬は相変わらず不機嫌そうにしている。

 怒鳴ったりするわけではない。翔馬はこういうとき、逆に黙ってしまう。

 晩ご飯だけ我が家で食べると、さっさと自分の部屋に行ってしまう。

 私が作ったご飯にも、何も言わない。

「いつもより味濃い」、「今日のは味薄い」だとか。

 余計な一言だといつもは怒っていたけど、今は心配になってしまう。



 あっという間に準備期間が終わり、いよいよ球技大会本番になった。


 一日目は同学年内の戦いだ。

 教室で今日の予選について説明を受けたあと、各々は自分の場所に向かう。


「楓、じゃあ後で。お昼一緒に食べましょうね」

「うん。また鈴白伝説作ってきて」

「作らない!」

 楓は今日は記録係で登録している。「汗かきたくないしね」らしい。



 テニスコートに向かう。最初はシングルス。コートの周りには、出場する選手たちがクラスごとに固まって開始を待っていた。

 相手のクラスからガヤガヤと声が聞こえる。

「やだ! 私の相手、鈴白さんじゃない!」

「大丈夫、今年はバレーじゃないんだから、鈴白さんだとしてもいけるって!」

「チーム戦だし、負けたってあたしたちが取り返すから! 当たって砕けていこう!」


 全部聞こえてるんだけどな。

 絶望的な強敵、みたいにハードル上げないでほしい。


 そしてうちのクラスは、あっさりと相手クラスに勝ったのだった。


 チーム戦なのに、相手のクラスは私と戦った子を、「よくやった!」「あれはしょうがない」

 と皆で慰めていたのは何なの。



 午後はダブルスの試合が行われる。咲愛の試合は午後に見に行くつもりだ。

 隣のコートでは一年生男子のシングルスの試合をしている。翔馬たちも順調に勝っているらしい。


 今回は翔馬と千賀屋君、来見君が出場している。

 翔馬が先に試合するらしい。

「僕は全て勝つ。足を引っ張るなよ」

「あ?見とけよ」

 ……いつもの二人だ。翔馬、口が悪いなあ。

 翔馬がコートに向かって行く。

 試合開始の合図で何度か相手と打ち合ったあと、上手く打ち返して、勝負が決まった。

 戻ってきた翔馬は息を乱しながら、千賀屋君に話しかけている。


「ふん。お前こそ足引っ張んなよ」

「一度勝ったくらいでいい気になるなよ」

 強大な敵を前に一時的に味方になった、ライバル同士みたいな会話をしている。


 来見君があきれたように言う。


「敵はあっちの四組だぞー。なんで同じクラスで勝負してんの。……あ、今度は千賀屋が勝った」

「……あいつらはあのままにしておこう」

 同じクラスらしい男子たちがため息をついていた。

 本当にもう、あの二人は。


 体操着で汗を拭っている翔馬を横目に、私は自動販売機のほうに足を向けた。


 うちのクラスのテニス女子シングルスは難なく勝ち上がり、早々に手持ち無沙汰になってしまった。

 一年生男子の試合をしていたテニスコートを見ると、ちょうど一組が本選出場を決めたらしく歓声が上がる。


 千賀屋君を応援に来ていたらしい女の子の姿も見える。

 千賀屋君は私に気づいたものの、女の子たちに囲まれていたので、手振りだけで挨拶をして出て行った。


 皆が戻っていく中、翔馬だけはコートを出たものの、来見君に「後から行く」と言い、クラスメイトたちを見送っていた。



「翔馬」

 呼ぶと、ちらりとこちらを見た。


「レン姉か、何」

 せっかく本選出場できるのに、嬉しくなさそうだ。


「何とは何よ。おめでとう。本選出られるんでしょう?」

「そうだけど」

「翔馬、午後はサッカーも出るんでしょ? 大丈夫?」

「大丈夫だって。言っとくけどサッカーは見に来なくていいから」


 声に力がない。

 私はさっき買っておいた、少しぬるくなってしまった紙パックのジュースを差し出した。

 翔馬は酸っぱいものが苦手なので、桃のジュースにしておいた。


「試合時間が重なるから、見たいけどちょっと無理なのよね。それより、はい、ジュース。みんなの分まで買ってないから、さっさと飲んじゃって」

 私の差し出したジュースを見て、翔馬が黙った。


「桃だから。酸っぱくないほうが好きでしょう?」

「……何で」


 ふてくされたように言う。

「無理してるでしょう。昨日までずっと我慢してたみたいだし。少しはエネルギー補給しないと、午後まで持たないわよ」


 翔馬はテニスをしたことがないと言っていた。それなのに今日は経験者の千賀屋君と張り合って、同じくらい勝っている。

 手を出そうとしない翔馬に、ぐい、とジュースを押しつける。

 翔馬はおずおずとジュースを受け取った。


「……ありがと」

 心なしか、口元がほころんでいる気がする。


「お弁当もちゃんと食べなさいよ。疲れたからってお昼ご飯抜いたらだめだからね」

「うるさいな。ちゃんと食べるって。……レン姉、これぬるい」

 可愛くないことを言う翔馬の顔は、いつもの翔馬に戻っていた。


「贅沢言わないの!」

いつも読んでいただきありがとうございます。励みになっています。

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