12話 球技大会がやってくる
鏡水学園では、中間考査が終わると、各教科の十位以内だけが掲示される。
私自身は答案用紙が返ってきた時点で、こんなものかなと予想していたから、順当な結果だった。
気になるのは一年生たちだ。
放課後、帰るついでに一年生の校舎に行ってみる。
掲示板には十位以内の名前が教科ごとに書かれていた。
咲愛はほとんどの教科が五位前後。英語が得意で、なんと二位。苦手な古文も八位と健闘している。
ゲームの咲愛も成績は上位という描写だったし、今の咲愛もそこは変わらないのだろう。
翔馬は数学Ⅰが二位で数学Aが三位。やはりゲームの翔馬より確実に成績が上がっている。他の教科は十位以内には名前がないけれど、悪すぎて困っている様子もない。
二人とも自慢の弟妹だ。
そして千賀屋君はほとんど一位。さすがだ。数学は苦手らしく、数学Ⅰが六位、数学Aは五位。ゲームの千賀屋は、試験を受けているのかも怪しかったから、大きな違いだ。
「お姉ちゃん、どうして一年生の校舎にいるの?」
帰り支度を終えた咲愛と麻菜ちゃんが教室から出てきた。
「二人の試験結果、どうだったかなと思って。咲愛、英語が二位ってすごいじゃない」
「勉強したところが出ただけだから」
「勉強したからでしょう」
「レン先輩ー!」
麻菜ちゃんが抱きついてきた。
「レン先輩! ありがとうございましたー!」
「え、麻菜ちゃんどうしたの」
「すごいんですよ! 全部赤点じゃなかったんです! 数学Ⅰなんて平均点です! 先輩のおかげです!」
麻菜ちゃんにとっては大成功だったらしい。なによりだ。
「ちゃんとやりきった、麻菜ちゃんの力よ。期末もがんばって」
「夏休みを補講で潰したくないので、がんばります!」
うん、それは本当にがんばってほしい。麻菜ちゃんのためにも。
「お姉ちゃんはどうだった?」
「私も大体五位以内よ」
「ご謙遜を。鈴白先輩はほとんど二位か三位でしょう。掲示板、見ましたよ」
さり気ない様子で千賀屋君が話題に入ってきた。
既に、二年生の掲示板内容を把握している。いつの間に見たんだろう。
「千賀屋君こそ一位ばっかりじゃない。私は確認不足で間違える癖がどうしても抜けないから、一位なんて取ったことないもの」
ゲームの恋華は、全科目の成績が一位だった。
勉強も一位で運動もできる。並の努力では無理だろう。
ゲームの恋華は、ずっと私には手の届かない存在だ。
「先輩に、期末考査でもそう言っていただけるよう、精進します」
たまに千賀屋君が、ゲームの千賀屋と同一人物なのか、疑わしくなることがある。
やっぱり、同姓同名の別人なんじゃないかな。
「って、翔馬は?」
千賀屋君が来たなら、同じクラスの翔馬も来るはずなのに。
「ここにいる。レン姉、何しに来たの」
「きゃあ!」
いつの間にか背後に立っていた翔馬に声をかけられて飛び上がる。
「びっくりするじゃない!」
「気づいてなかったの、レン姉じゃん。俺さっきからいたし」
か、可愛くない……。
「せっかく翔馬が数学Ⅰで二位なのを褒めようと思ったのに」
「え、二位? まじで。よっしゃ」
無邪気に喜んでいる姿は、可愛いのに。
「ねえ、お姉ちゃん、球技大会のこと聞いてる?」
「ええ。来週から準備期間よね」
六月に行われる球技大会はクラス対抗戦だ。一年生から三年生まで、全クラスが参加する。
予選一日目は、学年ごとに上位三クラスを決める。
本選二日目は、各学年の上位三クラスで勝ち上がり戦を行う。
今年の競技は、男女別のテニスシングルス団体戦とダブルス団体戦、男子限定の五人サッカー、女子限定のバレーボール。
運動が苦手な生徒も記録係として参加できる。
生徒全員が競技か記録係で球技大会に参加しなくてはいけない。
「咲愛はどうするの? 記録係?」
咲愛はあまり運動が得意ではない。ゲームではいつもクラスの足を引っ張りたくないと、記録係をしていた。
「記録係もするけど、一種目だけ、去年お姉ちゃんがバレーしたって聞いて、やってみようかなって」
少し気恥ずかしそうな咲愛。
運動が苦手な咲愛が、やってみようと思ったきっかけが、自分だと言うことがちょっと誇らしい。
「いいじゃない! 咲愛の試合、絶対見に行くわね!」
即答すると、咲愛はふわりと花が咲くような笑顔を見せた。
翌日、うちのクラスで一悶着があった。
「鈴白さん、今年もバレーしよう! 今年も恐怖の鈴白の再来で三年生を震え上がらせよう!」
今、私はクラスメイトのバレー部員から、熱烈な勧誘を受けている。
「やだ! 私、咲愛と戦いたくない! ……その変な二つ名なんなの?」
「去年はバレーで三年生蹴散らして、鈴白さんのクラス一位になったじゃない。あの時は、部員でもない一年生に負けたって、バレー部の先輩たち泣いてたのよ」
「チーム戦なんだから、私一人の活躍じゃないわよ」
去年、バレーが未経験な私は、興味本位でバレーに参加していた。
あのときは、意外に上手く打てるのが楽しくて、ちょっとはしゃいでしまっただけだ。
当時、他の参加メンバーは全員バレー経験者だったから、私だけ変な名前で呼ばれるのはおかしい。
「唯一の弱点だって狙われてたのに、全部返したじゃない。ねえ出ようよ、やろうよー!」
「いやよ!」
言い合うクラスメイトと私の間に、楓が入ってきた。
「待って。もし恋華をバレーに参加させたらうちのクラスは、きっと負ける」
「え」
「シスコンの恋華が、もし妹のクラスとバレーであたったら、どうなると思う?」
私の参加種目は、テニスのシングルスとダブルスに満場一致で決まった。
球技大会の準備期間中、希望者は放課後に自主練習をさせてもらえることになっている。
テニスは一年生の終わりにちょっとだけ授業でやっただけだ。ボールとラケットに慣れておくほうがいいだろう。
テニスコートの一角に向かうと翔馬と来見君、千賀屋君、麻菜ちゃんがいた。
「皆もテニスを選んだの?」
翔馬は小学校でサッカーをしていたこともあるから、参加するのはサッカーだけだと思ったのに。ゲームの翔馬もサッカーをしていたし。その時は得意ではないらしく、チームメンバーと連携を取るのに苦労していた。
「僕は幼い頃から習い事として嗜んでいたので。受験でしばらく離れていますし、勘を取り戻そうかと」
今の千賀屋君なら、習っている姿が容易に思い浮かぶ。
「ぎゃー! レン先輩、テニス出るんですか? シングルスだけ?」
「それが、ダブルスも出ることになっちゃって」
「ひー! レン先輩、絶対うちのクラスと当たらないでくださいね!」
「それは私じゃ決められないかも……なんでそんなに怖がってるの?」
「だって去年、レン先輩が率いたクラスは、不思議な力を授けられて、一年生で唯一優勝したって」
変な伝説が作られてる。授けてないし、率いてない。
「今年の三年生のバレー部員は、打倒レン先輩が合言葉らしいですよ」
変な合言葉も作られてる。
「でも私、今年はバレー出ないわよ」
「そうなんですか? やったー! じゃあうちのクラス、バレー優勝は夢じゃないですね!」
「麻菜ちゃんはバレー出るの?」
「出ますよー。テニスはやったことないんで、こっちの練習してからバレーに合流します」
そういえば、麻菜ちゃんは運動が得意だった。
「バレーやったことあるの?」
「去年まで部活してました」
「そうなの? 学園では部活に入らないの?」
「先輩……。うちの学園ってね、テスト前に運動部は……強・制・勉・強・会! するんですよー!」
怪談話のように恐ろしげに語る麻菜ちゃんに、思わず笑ってしまった。
「翔馬はテニスやったことあったっけ?」
「ない」
ないんだ。……なんだか機嫌が悪そう。
「あれ、そーなん? 自信満々に手を挙げたから、やったことあるのかと思ってた」
来見君が不思議そうに首をひねっている。
「別にいいだろ、何でも。練習するから、レン姉ちょっとどいて」
「ちょっと押さないでよ、もう」
やっぱり不機嫌な翔馬に押しのけられる。
しかたなく、私もクラスメイトと一緒にダブルスの練習を始めた。
翔馬は帰り道も、口数が少ないままだった。




