11話 考査の後のお楽しみ
せっかくの勉強会で寝てしまうという失敗をした私だが、皆それぞれ気になるところは勉強できたと聞いて、安心した。
それからは翔馬と咲愛に夜更かしを禁止されて、監視の目がしばらくきつくなってしまった。
そして中間考査の期間になった。翔馬は、我が家で晩ご飯を食べるとすぐ自分の部屋へ帰っていく。一緒に勉強したらいいのに、と思っていたら、咲愛からこう言われた。
「お姉ちゃんと一緒に勉強すると、お姉ちゃんは私たちのこと気にしすぎるから、中間考査の期間中はそれぞれで勉強しようってことにしたの」
うちの妹と弟が偉すぎる。
「あとお姉ちゃんがちゃんと寝てるか、私が確認する係になったの。寝てなかったら、今後一緒に勉強するのやめようかって話をしてる」
「えっ!」
うちの妹と弟が怖すぎる。
「それが嫌なら、ちゃんと寝て。私たちに心配させないで」
咲愛の言葉に、小さく「はぁい」と返事した。
そして試験最終日。
登校のタイミングで、翔馬と麻菜ちゃんに会った。
「麻菜ちゃん、試験はどう?」
「ふっふっふ。レン先輩、今回はバッチリです。試験中眠くならないように、ちゃんと昨日も早く寝ました!」
勉強の成果があったのかを聞いたつもりだったけど、ちゃんと眠れていると報告された。
「試験捨ててるな」
翔馬! ……いや、でも……うん。
放課後、咲愛から教室に来てほしいと言われていた私は一年三組に向かう。
「レン先輩、レン先輩! 今日で試験終わりじゃないですか。カラオケ! 行きましょう!」
めちゃくちゃ張り切っている麻菜ちゃんに出迎えられた。朝より元気そうね、麻菜ちゃん。
この世界ではカラオケに行ったことがない。だけど、だけど……
「いいわね、行きましょう」
咲愛が歌うの、聞きたい!
すぐに麻菜ちゃんがスマホを取り出した。スマホの画面の上で、指がものすごい速さで動いている。
「やったー!予約しますね。えーと、レン先輩、さーちゃん、まっさんは来るでしょ。ちがやんはあんまり慣れてなさそうだし、来ないかもなー。んじゃ、るーみんかな」
「翔馬たちの予定、まだ聞いてないわよ?」
「まっさんは絶対来るから大丈夫です! 予約完了しました!」
「えっ。もう?」
「まっさんと、るーみんにもメッセージで招集かけました!」
「いつの間に?」
麻菜ちゃんがスマホを取り出してから五分も経っていない。
「一組に行きましょー。歌うぞー!」
麻菜ちゃんに連れられて、一年一組に向かった。
一組に行くと、来見君が麻菜ちゃんを見つけて「ゴメン!」と手を合わせてきた。
「沙月さん、ほんとゴメン! オレ、今日はすぐ家に帰ってこいって言われててさー。次は是非誘って」
「えー! るーみんダメかあ」
「オレもめっちゃ行きたいよー! 絶対そっちのほうが楽しそう」
「そっかぁ。また誘うからさ、そのときは皆で行こう」
トボトボと帰る来見君を見送る。
「鈴白先輩、こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「奇遇ではないわよ。ここ一組だし」
一年一組に在籍する千賀屋君が、声をかけてきた。
千賀屋君を見た麻菜ちゃんの目が輝きだす。
「ちがやん、実は今からうちらカラオケに行きます。一緒に行かない?」
千賀屋君の参加が決まった。
翔馬とも合流して、学園近くのカラオケに向かう。
「制服のままだけど、いいの?」
「夕方には帰るし、お店に迷惑かけなければ大丈夫ですよー」
麻菜ちゃんは店に慣れた様子で入っていく。少し年上の店員が麻菜ちゃんに気づいてうれしそうにしている。
「麻菜ちゃん、来たわね」
「こんにちはー!予約してます!」
「部屋は、わかるわね。これ、ドリンクバーのカップよ」
「ありがとうございます! んじゃ皆、こっちでーす」
賑やかな店内は、前世で行ったことのあるカラオケボックスと変わらない。
頼もしい麻菜ちゃんに連れられて、各々ドリンクバーで飲み物をいれると、部屋に向かった。
皆で試験終わりを祝って乾杯すると、麻菜ちゃんがてきぱきと動き出す。
「歌うのは座った順番ね!曲の予約入れなかったら次の人に順番が回るからね。私は予約入れたから、次さーちゃん!」
カラオケの端末を咲愛に回してくれる。画面が切り替わり、最近よく聞く流行曲が流れ始めた。
マイクを持った麻菜ちゃんが歌い出す。
そして世界が変わった。
いつもの可愛らしい声が一転、大人っぽい色気を感じさせる声になる。メロディと一体化して、囁くような歌声から、力強いサビの部分でも声が裏返らずに歌い上げていく。
歌手さながらの歌いっぷりに、手拍子も忘れて聞き入ってしまった。
最後の歌詞まで余韻を残しながら歌が終わる。
「すごい! 麻菜ちゃん! 格好いい!」
「えへへ、よく親ともここのカラオケ来るんで! あっ、次はさーちゃんだね、マイクはい!」
照れくさそうに笑うと、さっさと咲愛へマイクを渡す姿は、いつもの麻菜ちゃんだ。
咲愛は何を歌うのかな、と思ったら、少し前に流行っていた、私も聞いたことがある歌だ。
「これ、CMで流れてたやつ?」
「うん。お姉ちゃんも知ってるかなと思って。ちょっとうろ覚えだけど」
咲愛はいつもの高めで可愛らしい声のまま、テンポの良いCM曲を歌う。
CMだと元気な印象の曲が、咲愛が歌うとミニキャラのキャラクターソングに聞こえる。
可愛らしさ全振りで歌われる歌声は、麻菜ちゃんとはまた違う魅力だ。
最高のご褒美をありがとうございます。ありがとうございます……!
何者かもわからない存在に心のなかでお礼を言いながら聞かせてもらった。
次は翔馬。
翔馬が歌っているのを聞いたことがないので何を歌うのか気になる。
流れ出したのは、最近やっているドラマの主題歌だった。
翔馬の歌声は、普段の話し声より高め。ただ私にはとても馴染みがある声だった。
原作ゲームの翔馬の声にそっくりだ。少しかすれた感じが特に。
皆がなぜ普通に聞けているのかわからない。私は今日で運を使い切ってしまったんじゃないかな。
身悶えしないようにこらえながら、歌声に浸っていると、歌い終わった翔馬が話しかけてきた。
「レン姉あのさ」
「お願い翔馬、ちょっと黙ってて。今は翔馬の思い出に浸ってるから」
「俺はここにいるのに、なんでだよ!」
今は余韻に浸りたい。ゲームの翔馬そっくりな歌声だった……。
「翔馬は、ずっと歌っててほしい」
「褒めてないよな。それ、褒めてないよな」
翔馬からマイクを渡された千賀屋君は意外な選曲だった。
流れ出したメロディは、懐かしの名曲特集で聞いたもの。両親…いや、祖父母の世代の曲だ。
背を伸ばしてマイクを口元に寄せる千賀屋君。
しっとりしたその曲を、千賀屋君は少し低音の安定した歌声で歌っていく。
「ちがやん選曲渋っ!うまっ!」
麻菜ちゃんの言葉に頷く。
落ち着いた選曲に聞き心地のいい声が合っていた。
「千賀屋君の歌った歌、名曲よね」
「ええ。僕は流行に疎く……親族の集まりだと、年長者に馴染みのある曲を聞くことが多いもので」
「そうなの。私もこの曲は聞いたことがあるわ」
「ご存知ですか? では先輩も一緒に歌いますか」
「ううん、歌えるほどには覚えてないから……」
「……そうですか」
シュンとしてしまった千賀屋君に「よかったら、他にも千賀屋君の歌を聞かせて」と言うと、また気分が戻ったようだった。
「じゃあ次は鈴白先輩ですね」
「ありがとう。じゃあ、はい、麻菜ちゃん」
「えっ?」
咲愛から渡されたカラオケ端末を、即座に麻菜ちゃんに回すとブーイングが起こった。
「レン先輩も歌いましょうよ!」
「いや、その、私、音楽の授業以外で歌ったことないし……あっ、ほら、私、タンバリンで盛り上げるから!」
近くにあったタンバリンを持つと、ポーズを決めた。
「レン先輩、声綺麗なのにもったいないですよ!」
麻菜ちゃんの言葉に、千賀屋君が首を縦に振っている。そんな援護射撃いらない。
「音楽の授業なら歌えるんだけど、あんまり曲知らなくて……私は皆の歌聞きたいかなー」
本気で私は皆の歌が聞きたいの! お願い!
「……じゃあ、私が歌う時、お姉ちゃんもサビを一緒に歌って? 歌えるところだけでいいから」
「咲愛?」
「せっかくお姉ちゃんとカラオケ来たんだもん。一緒に歌おうよ」
咲愛にそこまで言われて、私が断れるわけがない。
そして二巡目が始まった。
咲愛が私の知っている部分を一緒に歌ってくれたり、麻菜ちゃんが最後の一曲に、皆で歌える音楽の教科書に載っていた曲を選んでくれたりして、楽しい一日になった。
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