10話 勉強会当日
放課後、勉強会のメンバーで一年一組に集まった。
麻菜ちゃんが来見君を見て驚く。
「あ、るーみんだ」
「え、それオレのあだ名?」
来見君は嫌がるでもなく、面白そうにしている。
こういうところがいい子だ。
「そうだよー。来見だから、るーみん。まっさんと一緒によくいるよね」
「よく知ってんね。えーと、沙月さん、だっけ」
麻菜ちゃんは頷く。
「るーみん、目立つからね。女子の間で結構有名だよ」
「え、なにそれ。格好いい、的な?」
「ううん。可愛いって」
何だよー!と来見君が天を仰いだ。小柄だし、ノリが良いし……うん、格好いいというより、可愛いよね。わかる。
勉強会が始まった。
教室の端のほうでいくつか机を寄せて、皆は持ってきた勉強道具を取り出した。
「まだ新学期が始まってひと月だから、範囲も狭くて済むと思うけど……」
「でも全部わかんないですよ。てか、何がわかんないのかもわからないです!先輩ヘルプ!」
元気よく言う麻菜ちゃん。とても麻菜ちゃんらしい。
「じゃあ麻菜ちゃんは、数学Ⅰの、このページの練習問題からやってみない? 答えを見ながら解いてみて」
「えっ、答え見ちゃっていいんですか?」
「いいのよ。一つの問題で引っかかるより、いくつも問題文や解き方に触れるほうがいいと思う。解き終えたら、もう一度最初から解くの。自力で解けると思ったら、次は同じ問題を答えを見ないでやってみてね。この計算はこれからも使うことが多いから、今覚えたほうが後は楽になるわ」
「やってみます!」
麻菜ちゃんはそう言うと、教科書とにらめっこし始めた。麻菜ちゃんは基本的に真面目なのよね。
咲愛を見ると、咲愛は古文の教科書とこの前買った参考書、そしてノートを取り出している。
「私は大丈夫。最初は自分でやってみる。わからなかったら聞くね?」
うちの妹は今日も偉くて可愛い。
来見君は翔馬と話している。小声で話が弾んでいるようだ。
「何で俺んとこ来んだよ。レン姉と話せるって喜んでたろ」
「バッカ、お前。女の先輩に一人で話しかけるって緊張すんだろ!」
「しねえよ。レン姉だぞ」
「普通はするんだよ!」
ごにょごにょと何か話しているが、声が小さくて聞き取れない。
しばらくして、来見君が急に普通に話しだした。
「あ。なあ、雨坂は数学Ⅰわかる? 授業も聞いたけど、そのときのノート見てもわかんなくてさ」
「ああ、それは……」
どうやら翔馬が教える側みたい。翔馬自身は現代の国語の教科書を出している。
ゲームの翔馬はそれほど成績が上位という印象はなかった。そこまで悪いというわけでもないけれど、はっきりと成績がいいとも書かれていない。
今の翔馬は、得意科目の数学だけかなり上位。他の教科の成績との差が大きい。
咲愛と一緒に勉強していることも多いから、自然に勉強する習慣ができたおかげだと思う。
千賀屋君も、この間買った参考書を持ってきていた。
「先輩に教えて頂きたいのはここなんです」
「ああ……最初だからわかりにくいわよね……」
「この問題では……」
千賀屋君の声が遠い。
「……鈴白先輩?」
千賀屋君の声にはっとする。
「……あ、ごめんね。少しぼーっとしてしまって。何だっけ」
まずい、意識が飛んでた。千賀屋君以外もこちらを見ている。
中でも翔馬の顔が一番怖い。
「レン姉。ちょっとそっちの席に行って」
翔馬の声に、千賀屋君が反射的に口を開こうとして、続く言葉に口を閉じた。
「レン姉全然寝てないだろ。少し寝てて。千賀屋には俺が教える」
「……え、ううん。大丈夫よ、せっかく準備もしたし」
「へえ、何時まで?」
「……ちょっとだけ……」
「お姉ちゃん、いつまで準備したのか時間教えて」
咲愛まで問い詰めてくる。
「……三時。でも」
「レン姉、もう一回言うけど、そっちの席に行って、少しでいいから寝て」
でも千賀屋君を放っておくわけには……と千賀屋君を見ると、千賀屋君も心配そうな顔をしていた。
「俺、数学なら教えられる。昨日そこだけ復習しといたから。文句ねえだろ千賀屋」
「……ああ」
翔馬は私を立たせ、少し離れた席まで連れていった。
「三十分くらいしても起きなかったら起こすから、寝てて」
翔馬はそう私に言って、千賀屋君のほうに向かった。
「そこ、俺も前にレン姉から教えてもらった。ひっかかってんのは、途中の計算で、なんでここではこの公式を使うかがわからない。違うか」
「……そうだ」
「それは、ここに書かれてる意味を……」
二人の声を遠くに聞きながら、私は眠りに落ちた。
目が覚めて、すぐ時計を確認する。眠ってから二十分くらいだろうか。
翔馬と千賀屋君が、並んで参考書を囲んでいた。
「……正直、驚くほど分かりやすかった」
「だろ。考えすぎてんだよ」
すごい。翔馬が人に教えられるほど理解してくれてる。しかも、原作でも今でも仲が悪い翔馬と千賀屋君が、穏やかに話をしている。
感無量で見つめていると、こちらを見た翔馬と目が合った。
「……レン姉、その見守る微笑みやめろ」
げんなりした翔馬のその言葉に、千賀屋君の眉が吊り上がる。
「なんだ貴様、鈴白先輩にその態度は!」
……一瞬前までのいい空気が台無しだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。励みになっています。




