ぐるぐる回る
【それは誤解です】
目的地で降りた先に鈴達は居た。
バスに乗る前に連絡しておいて良かった。
急いで鈴の胸に飛び込む。
「何したの?」
和馬さんに向ける鈴の目がちょっと冷たい。
ごめん。たぶん、和馬さんは悪くない。
私の気持ちの問題というか。
その前に誤解を解かないとややこしくなる。
「…違う。なんかあったけどなんもない」
鈴に話したいけど、和馬さんの前では恥ずかしい。
背中越しに和馬さんの視線は感じるけど。
何をどうするのが正解なのか判らない。
その時、階段の前に居た直人さんの声が聞こえる。
「和馬!鬼の前で写真撮ろう!鬼退治!」
直人さん。ありがとう。
「行ってあげて。その間に花音に話を聞くから」
鈴の一言で、和馬さんも納得したよう。
「花音。あとで」
そのまま階段を跳ねるように駆け上がる2人。
「和馬さんがお弁当、今度作ってくれるって。
で、2人で遊びに行こうって誘われた」
鈴が、上手く状況を伝えられない私の頭をぽんぽんする。
「花音には早かったのね。で、嫌だった?」
首を振る。
「…嫌じゃない、けど」
けど。
「なんか、意識しているみたいで恥ずかしい」
向こうは、単にお礼かもしれんし。
いや、そんな気すら無いかも。
「私と和馬さんって、友達の友達で合っている?」
また、頭がぐるぐるする。
「いや、流石にそれは無いんじゃないかなあ」
呆れた声の鈴。
うん。わかっている。
自分でも変なこと言っている自覚もある。
でも、頭の中は沸騰したお湯みたい。
気持ちは、アクセルとブレーキが混戦していて。
学生時代の淡い気持ちなんて、一瞬で吹き飛んだ。
想像していた大人の恋愛は。
―もっと余裕があってかっこよかったのに。
「とりあえず、今日は一緒に周ろう。
直人!やっぱりもう一回行くよ」
階段の上から、よっしゃ!と直人さんの声がする。
鈴の後ろから、和馬さんを見る。
一瞬だけ、目が合う。
ちょっと笑った気がする。
いや、多分気のせい。
慌ててもう一度鈴の後ろへ。
「花音。歩きにくいから、変な動きやめて」
結局、鈴に怒られた。
【洞窟の感想は】
洞窟の中は薄暗くて、少しひんやりとしている。
前を歩く直人さんと和馬さん。
解説を読んでいる和馬さんに、直人さんは話しかけて。
和馬さんに、都度写真を撮ってもらっている。
そんな後ろを、鈴と手を繋いで歩く。
和馬さんとは違って、私と同じぐらいの手。
柔らかくて、すべすべで。
和馬さんみたいな力強さじゃなくて。
て、私何考えているんだろ。
思わず、鈴の手を握りしめる。
「ちょっと、花音。痛い」
あ、そっか。和馬さんなら握り返してくれて。
だから、今はその話よりも洞窟を探検する方が大事。
あれ?もう外の光が見えるんですけど。
考え事をしながら歩いているうちに、洞窟探索は終わった。
【返品お願いします】
「もうそろそろ、鈴返してくれる?」
洞窟を出たところで直人さん。
「代わりにこれ、やるから」
鈴と入れ替わりに和馬さんが押し出される。
「いや、物じゃ無いし」
和馬さんは文句を言いながらも、私の手を握ってきて。
ぎゅっと握っても、ちゃんと握り返してくれる。
それが楽しくて、つい何度もやってしまっていたら。
その間に展望台へ行くことになっていたようだ。
「この先の展望台行く道、さっき行ったけど。
ちょっと細いところあるから気を付けて」
直人さんの言葉に、思わず和馬さんの顔を見る。
「どうする?一緒に行く?」
心配そうな鈴。
和馬さんもこっちを見ている。
「ううん。2人で行く」
多分、もう大丈夫な気がする。
【お試し期間】
展望台の道は思ったより狭くて険しい。
手を繋いでいるから怖くは無いけど。
手汗が気になるけど、手を離すのは嫌だし。
そんな葛藤を知ってか知らずか。
「ごめんね。困らせた」
え?なんで和馬さんが謝るの?
「…違う。…意味がわかんない」
私の言葉も違う気がする。
わかんないのは、どっち?
私の気持ち?和馬さんの気持ち?
「花音と居ると楽しくて。
もっと一緒に居たいなと思った。
嫌だったら、無理は言わない」
そう言いながら、手離す気ないくせに。
そもそも、嫌な相手とは手なんて繋がない。
2人きりにもならない。
お弁当なんて作ろうとも思わない。
「嫌じゃない。けど」
言いかけて、自分の中のくすぶっている気持ちに気づく。
「て、そもそも付き合って無いよね」
そうだ。そもそもの前提がはっきりしないのが悪い。
沈黙する和馬さん、しばらく言葉を探しているよう。
「付き合いたいと思っているから。
…こうやって言っているんだけど」
え?いや、ちょっと待って。
そんなにはっきり言われると。
逆に心の準備が必要というか。
「…お試し期間ってアリですか?」
いや、私。何言っているんだ。
「アリだと思います」
そこで止まる和馬さん。
背中にぶつかりそうになって、止まる。
「ほら、展望台に着いた」
目の前には、高松の景色が見える。
手前には、さっき乗った船と違う船も見える。
思わず叫びそうになり。
周りに人が居るのを見て、やめた。
ごめんね、和馬さん。
私の我が儘に付き合わせちゃって。




