桜を見よう
【車の中は】
天気は晴れ。
お花見日和。
和馬さんが迎えに来てくれる時間。
日焼け止めを忘れない。
後は帽子を被って終わり。
家を出ると、お母さんと和馬さんが話をしている。
「じゃあ、お嬢さんをお預かりします」
なんか、良いところのお嬢様になった気分。
「お弁当。作ってくれてありがとう」
和馬さん、ちょっと嬉しそう。
「大したものは出来なかったけど」
謙遜じゃなくて。本当にそうだからね。
「お弁当があるというだけで、遠足みたいで。
テンションがあがるというか」
その気持ちは判るかも。
子供の時は、それだけで早起き出来た。
―しばらくして。
「あれ?曲の雰囲気違うね」
この前は、ちょっと懐かしい曲が中心だったよね?
「ほら直人達が今日は乗るから」
なるほど。だから、最近聴く曲ばかりなんだ。
「嫌だった?」
首を振る。こういう曲も嫌いじゃない。
「前は歌っていたから、好きなんかなと思ってたけど?」
え?嘘。
「…無意識だったんだね」
流れる沈黙。
しばらくして。
「直人の家は、そこ曲がってすぐ。
コンビニで待ち合わせだから、あ、」
直人と、鈴が車を見つけて手を振っているのが見えた。
車から降りて、和馬さん何か直人さんに言っている。
横で鈴が大爆笑している。
直人さんが和馬さんの背中をバンバン叩いているけど。
私が車を降りようとする前に、後ろのトランクが開いた。
「聞いてないよ。コンビニで待ち合わせというから」
和馬さんの話ぶりからして。
和馬さんはお弁当の話を聞いていなかったようだけど。
「だって、花音が作るかは判らなかったもん」
…鈴。
「でも良かった。時間に間に合って」
乗り込むなり、直人さんの一言。
「だってしょうがないでしょ?
色々準備があるんだから」
鈴は、今日も可愛い。
ちょっといつもと違う、春らしいメイクに。
桜のモチーフを使ったピアス。
服だって、春めいたふわふわした感じの服。
チラリと自分の足元を見る。
いつもの履き慣れた靴。
さっき見えた鈴の靴は、汚れなんて見えなかった。
隣で和馬さんが、そっと音楽のボリュームを上げた。
「ちょっと、音楽うるさいんだけど」
後ろで鈴が文句を言っている。
「痴話喧嘩なんて聞きたくない」
和馬さんがルームミラーを一瞬見た後、笑っている。
後ろで二人、なんかしているに違いない。
見たい。
少し、助手席から振り向いて後ろを見る。
直人さんが、鈴のほっぺをムニムニしているのが見えた。
【場所の取り方】
景色は、住宅街から、オフィス街。
そこを抜けた先の駐車場で車を停める。
「やっぱり多いねー」
家族連れ、カップル、友人達。
時期もあってか人も多い。
「タイの餌やり、子供たちで一杯だね」
小さな子供が必死で投げた餌を、鳩が狙っている。
その横で、お父さんらしき人が見える。
必死で子供が落ちないように、捕まえている。
お母さんらしき人がベビーカーを持って見守っている。
そんな光景のそばで。
兄弟で、一つのカップを取り合ったり。
別の子は泣きながら、親に何かを訴えている。
「餌だけでも買って別のところでする?」
和馬さんの提案だけど。
「あの、タイの群れ見てるだけでお腹いっぱいかも」
足元の波しぶきが、彼らの必死さが見えて怖い。
「でも、あっちはなんかやってるね」
和馬さんの視線の先。
鈴と直人さんは、既に何かを持ってる。
おもむろに、手のひらに餌を乗せた直人さん。
子供たちの邪魔にならない場所に立つ。
「といやー」
掛け声と共に思いっきり、餌を投げた。
餌は、手前の波しぶきを超えて向こうの方へ。
水辺に映る黒い影。
遠くに居た影が餌を食べているのが見える。
「よし、次」
鈴が、直人さんの手に餌を乗せる。
「よっ」
再び宙を舞う餌。
今度は、飛んでる鳩がキャッチしたように見えた。
「ちっ。これは、タイの餌なんだよ」
一体何の対決?
手前のほのぼのとした光景とは裏腹に。
直人さんと鈴は別の意味で楽しそうだ。
「和馬も手伝え」
少し離れた日陰から見守る私たち。
直人さんが声をかける。
「嫌だ。早く行かんと場所取れんから、先に行く」
和馬さんが私の手を繋いで先を促す。
一瞬、後ろを振り返る。
二人はまだわちゃわちゃしている。
うん。場所を取るのが先だね。
私は、軽く繋がれた手を握って和馬さんと一緒に歩く。
開けた場所では、それぞれがそれぞれに楽しそう。
ちょうど帰ろうとしていた人たちに、その後を貰う。
場所の真上に桜。
こんな風に桜が楽しめるなら。
もっと前から鈴たちと来れば良かった。
スマホを取り出す。
空に向かって写真を撮る。
うん、我ながらいい写真が撮れた。
後で、SNSに載せようかな。




