私たちの結婚式
【結婚式の始まり】
目の前には、高松港が見える。
通りすがりの人におめでとうと声をかけられて。
思い切り手を振って答える。
和馬さんは向こうで、友達と騒いでいるのが見える。
気の合う友人と、家族。
そんな結婚式を望んだのは私たち。
「花音。そろそろ始まるよ」
遠くで和馬さんが呼んでいる。
「入り口のあれ、すごいね」
鈴が隣で私に言う。
「うちもあんな写真撮ってもらったら良かったなあ」
ぼやく鈴。
そう、ウエルカムボードには前写しの時の写真を貼っている。
皆の前にはお披露目しないものを中心にチョイスしたつもり。
満開の桜の元で撮った写真。
カクテルドレスももちろんある。
でも、一番見せたかったのは。
ウエディングドレスの私を真ん中にドレス姿のお母さんズ。
私を中心に、ハート型のあの写真。
他にも候補はあったけど。
「主役、間違われたら困るでしょ?」
とはうちの母。
「流石に恥ずかしいわよ」
とは和馬さんのお母さん。
二人とも、今日はフォーマルなドレスで参加している。
【歩く】
「行くね」
鈴が直人さんの方に行くのと入れ替わりに。
両親が私のところにくる。
赤いカーペットの向こう。
壇の奥には、鈴のお兄さんが立っている。
進行役は、鈴と直人さん。
和馬さんも向こうで待っている。
隣にいるお父さんを見上げる。
あ、緊張している。
お母さんがベールを掛けてくれる。
視界がボヤける。
遠くで船の汽笛が聞こえる。
これが、歩き出す合図。
ここは、和馬さんがこだわった。
一年前の丁度この時間。
和馬さんの船酔いを心配する私を見て。
本当の意味で恋に落ちた瞬間なんて言われたら。
これ以上、言う言葉はない。
気がつくと、目の前には和馬さん。
お父さんが私の手を取る。
記憶より、小さなお父さんの手。
そこから、安心できる和馬さんの手に。
いつもは饒舌なお父さん。
「後は任せた」
とだけ。
多分、声の調子からして泣いているみたい。
ごめんね、お父さん。
お父さんと歩く時、本当なら。
お父さんとの思い出を考えるんだろうけど。
でも、ちゃんとお父さんが後ろで。
見守ってくれているのを知っているから。
これからを、和馬さんと2人。
堂々と歩いていける。
【誓う】
「ここに集まってもらった皆の前で誓ってもらう」
鈴のお兄さんの言葉に、緊張がはしる。
人前式ということもあり。
誓いの儀式はその人に合ったやり方で。
だから、内容は任せろと言われたけど。
思わず、和馬さんの手をぎゅっと握る。
ちゃんと握り返してくれた。
うん。大丈夫。
どんな内容でも、受けて立つ。
「和馬。和馬は俺たちの前では、常に裏方だった。
個性豊かな俺たちが輝けるように。
こうやって今の俺たちがあるのも。
和馬のおかげだ。まずは礼を言う」
和馬さんが小さく頷く。
「でも、これから花音さんという嫁を迎え。
新しい家族を得た今。
裏方だけではやっていけないこともある。
だから問う。
いざという時、誰よりも表に立ち、家族を守る。
その覚悟が、和馬にあるか?」
和馬さん、深呼吸。
「ある。花音と一緒に守る」
鈴のお兄さん、大きく頷く。
「次に、花音さん。あなたの場を和ませる力。
それは、誰にも真似できない得難きもの。
救われたものの代表として、礼を言う」
この言い回し、お兄さんというより鈴が考えた?
ちらりと鈴を見る。
鈴、笑っているから正解?
「同じく、ここで和馬という夫を得。
新しい家族を得た今。
優しいだけではやっていけないこともある。
だから問う。
いざという時、誰よりも強く家族を支え、共に導く。
その覚悟が、花音さんにありますか?」
言いながら、鈴のお兄さんの目は優しい。
そう言えば、学生時代。
鈴とお兄さんが喧嘩したとき。
お兄ちゃんが欲しかった私が。
じゃあ頂戴と言って困らせたことを思い出す。
一瞬噴き出しそうになるのをこらえる。
その余波で、和馬さんの手も握った。
返って来る力強さ。
うん。やっていける。
「はい。和馬さんとやっていきます」
鈴のお兄さん嬉しそうに頷いた。
「そして、ここに居る皆に問う。
こうやって、2人の覚悟は聞いた。
でも、世の中覚悟だけではやっていけない。
いざという時、先達として。
あるいは、共に悩める者として。
この新たな家族を幸せにすることを。
拍手をもって誓って貰えるか?」
言いながら、お兄さん拍手している。
もちろん、皆の拍手も聞こえる。
鈴のお兄さん、目で和馬さんに合図している。
和馬さんに引き寄せられて。
目の前がクリアになって。
あれ?予定ではおでこだったよね?
唇なんて聞いてない。
そんな抗議は、当然言えるはずもなく。
私、瀬戸花音は、今日から坂上花音になりました。




