2人でお出かけ
【初デートとは?】
子供の頃、信号機の数だけうどん屋がある。
と聞いたことがある。
でも、実際数えたことは無い。
それに、そこまでは無いと思う。
「もう少し、有名な店が良かったですかね」
列に並びながら、和馬さんが言う。
「私も、時々来ますよ?この辺に買い物に来た時とか」
ほっとした顔になる和馬さん。
「それに、今日は“私の”奢りですから」
今度はちょっと苦笑いになる和馬さん。
ふと思い出したので聞く。
「あれから、どうなりました?
鈴の家に行ったんでしょう?」
和馬さん、首を傾げる。
ややあって思い出したようだ。
「僕が着いたときは、あらかた話が済んだようでした。
とりあえず、身内にもそれなりに準備が必要なこと。
サプライズも度が過ぎれば、迷惑でしかないこと。
それだけは、晃も理解したようです」
…お疲れ様でした。
「そこで、鈴さんに連絡先を聞かれて。
聞いたら、花音さんに必要だって言われて」
そこで、和馬さんが止まる。
注文の順番が来たようだ。
お盆の上の私の量を見て、ちょっとびっくりしている。
意外に私、食べるんよ?
前回は、判りにくかったかも知れんけど。
トレイを持ち、無事に席も確保し。
食べ始めたところで。
ふと和馬さんが思い出したように言う。
「そう言えば。
花音さんとどこに行くの?と鈴さんに聞かれて。
うどん屋ですと答えたら。
県外で初デートにうどん屋はアリだけど。
こっちでそれはナシって言われたのを思い出しました」
ピタリと止まる箸。
デート?
「これってデート?」
とりあえず、うどんを飲み込んでから聞き直す。
「違う気がします」
和馬さんの言葉に、また箸が動く。
周りはそれなりに繁盛しているから賑やか。
なのに、2人でうどんをすする音しか聞こえない。
「ところで、デートって何処が定番でしょう?」
和馬さんの言葉に、また箸が止まる。
「知らない。何処なんだろ」
そこからは、黙々とうどんを食べた。
【思い出したこと】
うどん屋を出たところで。
「せっかくなので、どこかに行きませんか?」
と和馬さん。
時間はお昼過ぎ。
うどん屋だけで帰るのも味気ない。
車の中。
それぞれのスマホで検索をする。
候補に挙がるのは。
お互いに子供のころ行った場所ばかり。
「何処も家族連れしかおらんやろなあ」
有名なところは、家族にも人気の場所でもある訳で。
「でも、ここやったら行きたいかも」
私が指さしたのは。
「やっぱり大きいねー」
瀬戸大橋を真上に見上げながら声を上げる。
子供の頃も大きいとは思っていた。
でも、今見てもやっぱり大きい。
なんとなく、ぶらぶらと2人で歩く。
目の前には瀬戸内海が広がっている。
「そう言えば、この近くでした。
子供の頃、子供会で海水浴に来たのは」
和馬が懐かしそうに言う。
子供のころ、海水浴?
ふと、頭に子供の頃の記憶が蘇る。
子供会の行事。
浮き輪に乗って遊んでいたら、
ほんの少し足の届かない場所まで来て。
慌てて引き返そうとした時、バランスを崩して。
あの時…。
ぐっと引かれる手。
あの時もこうやって、誰かが。
「花音さん?」
目の前に、心配そうな和馬さんの顔。
そういえば、あの時の男の子も心配そうに見ていたな。
顔は覚えてないけど。
「大丈夫?嫌なこと思い出した?」
和馬さん、ちょっと慌てている。
あの後、どうしたっけ?
やっぱり思い出せない。
和馬さんの手が離れそうなのが嫌で、逆に握り返す。
「ううん、何でもない。海と言えば。
シーグラスや、貝殻を拾うのが楽しかったなって」
目の前に、浜辺はない。
だから、今日は無理そう。
「海で拾うって言えば。
クラゲとか、ヒトデくらいしか覚えて無いな」
確かに。
男の子たちは、怪し物を拾って親に怒られていたわ。
遠くの広場には、家族連れ。
小さな子供たちも見える。
目的はないけど、遊歩道を2人で歩く。
「来週あたり、桜も満開になりそう」
和馬さんの指さす先。
ちらちらと咲き始めている花。
「鈴たちとみんなでお花見も楽しそうだね」
などと話をしながらウロウロとしていると。
「あ、前写しだ」
ウエディングドレスとタキシードを着た2人。
幸せそうに満面の笑みで写真を撮っている。
周りには家族らしき人や、スタッフもいて、大忙し。
「そういや、ここもそういう場所なんだね」
そう言いながらも、なんとなく視線を逸らす。
「あっちに自販機あったな。行こうか」
和馬さんもなんとなく、目がそわそわしている。
ジュースを買って、車の中で一緒に飲む。
ただただ沈黙。
あ、この曲。
今日3回目だ。
「そろそろ帰らないと、花音さんの家の人が心配するな」
ふと、時間を見て和馬さんは独り言。
夕日というには、まだ少し高い太陽。
子供じゃないんだけどな。
日暮れまでに帰らなきゃという門限はもうない。
かといって、何か代案があるわけでもなく。
和馬さんは、そのまま家に連れて帰ってくれた。




