私の恋
【独占欲】
喉が渇いたので飲み物を一口。
それだけで生き返る。
向こうでは、他の人に声をかけられて。
和馬さんが立ち上がるのが見えた。
“あとで”
和馬さんの口パクに、小さく頷く。
―話は少し前に遡る。
「和馬さんが人前で踊るのはヤダ」
きっかけは何か思い出せない。
動画が思うように出来ないとか。
雑談的に余興の話になったからとか。
他の理由だった気もする。
「だから、真ん中は断ったって」
和馬さん、困っている。
私も困らせている自覚はある。
「他の人の為に踊るのが嫌なの」
自分でも、思った以上に独占欲が強かったみたい。
散々はぐらかしておいてなんだという気持ちと。
言葉に出来ないモヤモヤが自分の中で喧嘩している。
和馬さん、スマホを取ったり置いたりと、忙しい。
ここで余興を断ったら別の意味で拗ねそう。
それが余計に和馬さんを困らせている原因。
「花音」
唸りながら考えていた和馬さん。
やっと答えに辿り着いたらしい。
「その日、花音のためだけに踊るから。
花音は目の前で見ていて」
常識的にそれ、ダメなやつ。
頭の中で警鐘が鳴る。
でも、それ以上に喜んでいる自分がいる。
「それならいい。見てる」
―そして、今。
司会者の案内の声に、一番に立ち上がる。
走るように和馬さんの前を陣取る私。
後ろで友達が忍び笑いをしている。
中央は、鈴のお兄さんだ。
セリフも動画で見たのと変わらない。
カメラを構えて待つ。
最初のグループが踊り始める。
和馬さんは、2番目のグループ。
始まる少し前に、動画ボタンを押す。
後ろで、友達が何か言っている気がする。
でも、私はそれどころじゃない。
一度踊ったあとは、待機だから出番はない。
だから、直人さんが踊るのを見守る。
鈴が遠くから、大きく丸を描いたのが見えた。
【花束の行方】
そして、ラストに向けて鈴たちが立ち上がる。
中央を通らず、まっすぐ私たちの席の方へ。
「花音」
鈴に呼ばれて、何かが飛んでくる。
思わず受け止める。
そのまま周りに手を振りながら鈴達は後ろへ。
手の中にはさっきまで鈴が持っていたブーケ。
後ろまで歩いた二人は。
進行役の人から手紙を受け取っている。
両親へ宛てた手紙。
涙を拭こうとして、ブーケと見比べる。
もう、散々泣いたから、今更だ。
鈴の語る両親との思い出は。
私も知らないエピソードも多い。
でも、小さな鈴も学生時代の鈴も。
今の鈴もやっぱり鈴は鈴だった。
【置き場所】
出口の扉が開かれる。
ここで別れる友達とは軽くハグ。
その間にからかわれたのは仕方ない。
人の流れに沿っていると。
丁度和馬さんと一緒になる。
「お疲れ様。花音」
和馬さんも荷物を沢山持っている。
手を繋ぎたいのに繋げない。
「和馬さんもお疲れ様」
和馬さんも、肩の荷が降りた様子。
「二次会まで時間あるけど、どうする?」
そう言えば、後の段取りまで考えて無かった。
でも、やるべきことをやり切った今。
手の中のブーケの重みと共に。
次にやるべきことが頭に浮かぶ。
「一回、家に帰れないことも無いけど」
家で寛ぐほどの余裕は無さげ。
帰らないと何処かで時間を稼ぐ必要がある。
中途半端な時間帯。
開始までの時間に話をする?
どうせならちゃんとした場所で。
将来について話したいかも。
「僕は一回荷物を置きたい」
和馬さんが荷物を軽く持ち上げる。
なら、話は帰りにしよう。
「私も、ブーケ飾りたいかも。
二次会は一緒に行こうよ」
ふと気がつくと、周りの視線を感じる。
今更な感じだけど、慌てて車に乗り込む。
和馬さんが、誰かに声をかけられている。
それを横目に家に帰る。
家に戻って、最初にブーケを花瓶に。
机の上の花音人形の横に置く。
人形は、ブーケより小さい。
でも、次は私の番だから。
花音に持たせるのが正しい。
「鈴、わかってるよ。
今日、ちゃんと返事する」
服を整えてお化粧も直して。
髪をどうしようか悩んでいるところに。
和馬さんからの通知。
『どう?行けそう?』
慌てて最後の仕上げをする。
無事に玄関を出たところで、車も到着。
二次会の会場は。
貸し切りの札の付いたお店。
小さいけど落ち着いた雰囲気。
「直人と鈴ちゃんが良く行く店らしいよ」
和馬さんの説明。
確かにここなら、お酒を飲んでも。
2人なら歩いて帰れる。
入り口で会費を払う。
「花音!こっち」
結婚式で一緒だった子と。
二次会だけくる子が集まっている。
和馬さんは別のグループに連れて行かれた。
真ん中には、会社の友達らしき人。
グループが別に二つ出来ている。
和馬さんは、既に友人に囲まれて。
見えなくなっていた。
【初恋は】
鈴は奥で直人さんとわちゃわちゃしている。
私が席に着いた後。
後から来た友人が、座るなり一言。
「あの時、帰りに思い出したんだけど」
警戒するように、周りを見渡す。
そして、小声で。
「花音の初恋の相手。彼じゃない?」
隣で聞いていた友達も、身を乗り出す。
「私も思ったけど。
違ったら気まずいなと黙っていた」
今度は正面の友達が身を乗り出す。
「花音の初恋って。
海で助けてくれた子。
小学校以来会ってないから。
顔も覚えてない。てあれ?」
私の目の前で話が進む。
「で、どうなの花音」
友達達の圧が怖い。
その可能性は、私も考えた。
そうだったらいいなとも思っている。
「可能性はあるかも?
でも、違うと言われたら違うかも?」
和馬さんの姿はここからは見えない。
そのことに、ちょっとホッとする。
だからか、友達の追撃は止まらない。
「本人に聞いた?」
首を振る。
「違った時のリスクが高い」
本人に、昔助けてくれた?なんて聞けない。
それに、どっちに転んでも答えは同じだから。
無理して聞く必要もない。
私の答えに友達達が離れる。
「残念。知りたかったかも」
その話はこれでおしまいとばかりに。
すぐに別の話題に移る。




