伝説の場所
【撮影の日】
「花音、遅いよ」
高校時代の友人の一人の声。
「遅刻はしてないはずだけど」
気楽さから、素直に返す。
「そうだけど。あれ見てよ」
運動場の真ん中で。
子供たちが走り回っている。
「あれ?あんなに皆大きかったかな」
記憶にある子供たちの姿が一致しない。
「あの子がうちの子で―」
皆がそれぞれ説明してくれるけど。
子供たちが動き回るのと。
数が5人を超えたあたりで。
顔と名前を一致させるのを止めた。
「こうやって見ると、時間を感じるね」
なんか、少し前だと思っていたけど。
時間が経つのはあっという間だ。
「皆揃った?」
懐かしい声に振り向く。
担任の先生。
先生はあまり変わっていない。
「子供たちも入るの?」
先生の質問に向こうを見る。
友人の旦那さんたちに交じって。
和馬さんの姿も見えた。
「それぞれの判断に任せようと思って」
言いながら、向こうが気になる。
和馬さん、初対面の人たちと居るけど。
案外馴染めているから不思議。
「お願いします」
声を掛けて。
時間が取れない人たちから順番に。
玄関だったり、校門だったり。
体育館の人も居た。
そして。
「花音。あれやらない?」
渡り廊下で、声を掛けられる。
「うちらは今更感あるけど。
旦那とやってみたい」
思わず、和馬さんを見上げる。
和馬さんは首を傾げているけど。
「今でもやっている子たまにいるわよ」
先生の声に押されて。
「皆でやって。その間に説明して考える」
和馬さんを連れて渡り廊下から出る。
「何するの?」
声を掛けた子と旦那さん。
廊下の両端に立っている。
「渡り廊下の伝説」
和馬さん、その一言で理解したみたい。
「恋が叶うとかそんな感じ?」
そうなんだけど。
「カップルが両側から目を瞑って歩いて。
真ん中でぶつかれば、ずっと両想い
どちらかに寄ってぶつかれば。
長く歩いた方の気持ちが強い」
すれ違った場合の説明は、やめておいた。
目の前で、2人がぶつかったから。
「じゃあこれは、旦那さんの気持ちが強いと」
頷いている間に、別の2人が始めた。
和馬さんの目を見たら、やりたいのはわかった。
「鈴が知ったら悔しがるだろうなあ」
別の話で逸らす。
目の前で、子供たちが横で真似したせいで。
やり直している2人の姿。
「じゃあこう言うのは?」
耳元で和馬さんの提案。
手元にある紙袋をみる。
別の場所で使うつもりで持ってきたものだけど。
そういう使い方もアリかも知れない。
「花音、順番きたよ」
声が掛かり、和馬さんに頷く。
和馬さん、誰かに撮影をお願いしに行った。
私は人形を取り出す。
2人で作った鈴と直人さんの人形。
近くの友達にも、簡単に説明。
「難易度高くない?」
ダメならやり直すか。
無かったことにすればいい。
和馬さんそう言っていたけど。
廊下の端に立つ。
目を瞑る。
和馬さんには言ってないけど。
すれ違わないためには、コツがある。
両手をほんの少し広げるだけ。
でも、今は人形を持っているから無理。
大丈夫と言い聞かせて歩き出す。
距離はそこまで遠くない。
人形にぶつかった感触。
遅れて和馬さんにも。
目を開ける。
「ちょうど、真ん中」
撮影していた子の声。
動画を確認させてもらう。
和馬さん、1人で歩く時よりゆっくり歩いている。
当たる時も、人形同士が先。
和馬さんを見る。
「今度は、2人でやる?」
首を振る。
多分、何度やっても結果は同じ。
聞いても、花音の歩く速度は判るとか言いそう。
和馬さん、変な能力発揮するから。
「上手いわね」
隣で同じように動画を見ていた先生の一言。
やっぱり先生も気づいていた。
「先生をこれ以上付き合わせる訳にいかないから」
皆に声をかける。
無事予定通りの撮影を終える。
先生にお礼を言って解散。
その時、先生こそっと。
「渡り廊下は、計算だけでは無理よ。
お互い信頼が無いと」
思わず先生を見る。
「その様子だと、近いうちにまた呼ばれそうね」
笑いながら、先生は校舎に入っていく。
「花音、顔赤いよ」
友達の指摘。
「良いなあ。私もあの頃に戻りたい」
そう言えば、一番愚痴を言っていた子だ。
「仕事場の先輩にね、夫婦円満のコツを聞いたの」
向こうには、自身の子供と遊ぶ彼女の旦那さん。
さっきの渡り廊下でも、子供に邪魔されていた。
「1つ嫌なこと見つけたら。
3つ良いところ探すんだって」
彼女がこっちを見る。
「あと、話し合うのは大事」
彼女が頷く。
「大事なことは話出来るんだけどね。
ちょっとしたことになるとダメ。
つい子供の前で言い過ぎる」
それなら、これが有効かも。
「恋を継続するおまじない。
鈴から聞いたんだけど」
本当は、茜さんから鈴が聞いたらしい。
でも、おまじないを広めるには。
知った人の話が一番。
「手を繋いで。
相手から一番可愛く見える角度で。
相手を見つめるんだって」
彼女、吹き出した。
「付き合いたてじゃ無いんだから。
でも、ありがと。やってみる」
そのまま彼女は旦那の元へ駆け出した。
手を握って何かを言っている。
あ、子供が割り込んだ。
大丈夫そう。
「帰ろうか」
和馬さんと手を繋ぐ。
可愛く見える角度研究しないと。
帰りの車の中で、ノートを確認。
思ったより、たくさんの書き込み。
和馬さんが用意してくれたノート。
あと残り僅かになっている。
「編集大変かも」
あれも、これも全部入れたい。
でも、時間制限がある。
「想いを形にするって難しいね」
思わずぽつり。
「難しいけど、一番楽しい時間でもある」
それに。と和馬さん。
「形にしないと伝わらないものもあるから」
あ、この雰囲気既視感がある。
「動画編集手伝ってね」
言い出す前に先回り。
「もちろん。何から初める?」
私たちのことをする前に。
やりたい事がいっぱいあるから。
もう少し、先延ばしさせて欲しい。




