新たな答え
【聞いてない】
和馬さんからの連絡。
直人さんの都合がついたらしい。
質問状を鞄にしまう。
着いたのは、個室のある居酒屋。
茜さんと鈴の姿も見える。
「せっかく兄弟になるんだ。
2人のこと色々聞いてもいいか?」
奥の方では、直人さんと鈴のお兄さん。
2人が向かい合って座っている。
「結婚式の余興だよね?」
直人さん、何のことか判っていない。
鈴も首を振っているから、本気で知らなそう。
茜さんは笑いながら頷いている。
「打ち合わせしないように内容は伏せていたの。
だって、リアクション込みで欲しかったから」
たぶん、茜さんが一番楽しんでいる。
「質問はいいけど。内容によるよ」
鈴が、急いでお兄さんの隣に座る。
お兄さん、手には何も持っていない。
まさか、30近くの質問全部覚えているのかな。
スマホすら見ないのは、信じられない。
私がきちんと確認しよう。
「鈴が嫌なことは、止めたらいいと思う」
そう言いながら、私は質問状を取り出す。
何度も確認したから、鈴が嫌がる内容は無いはず。
戻ってこようとする鈴を茜さんが止めている。
「動画撮るよ。もちろん直人だけ」
和馬さんの言葉に、直人さんが頭を抱えている。
「下手なことを言うと、後で鈴に怒られる」
本音を言うと、鈴には見せてあげたい。
でも、茜さんが首を振っているから。
心の中で鈴に謝る。
直人さんを挟んで三人が向かい合う構図になった。
動画に映らないよう、私と茜さんは避難。
「お兄さん、大丈夫なんですか?」
こそっと茜さんに聞く。
「大丈夫よ。晃に任せて」
緊張感が走る中。
和馬さんの合図で、撮影が始まった。
【質問開始】
鈴のお兄さんが咳払い。
「じゃ、1問。鈴の好きな食べ物」
直人さん、悩む間もなく。
「いちご」
それは、思わず私も頷く。
「2問。嫌いな食べ物」
これは無しが正解。
「嫌いな食べ物はない。
けど、アボガドは少し苦手」
鈴が頷いている。
アボガド苦手なのは知らなかった。
「3問。鈴が一番好きな人は」
その質問、尊敬する人だったんだけど。
鈴が笑っているから大丈夫。
「もちろん、僕」
だよね。答え判っていたから変えたのに。
お兄さん、机をバンと叩いた。
「そこはお兄ちゃんって言うところだろうが」
思わず吹き出しそうになって口を押える。
鈴がお兄さんの服を引っ張る。
任せるというのはこのことだったのね。
「次4問。鈴は、直人のどこが好き」
あえて本人に聞くという質問。
和馬さんが譲らなかった問い。
「それは、おバカなところ!」
直人さん、堂々と言い切った。
鈴がお腹を抱えて笑っている。
でも、首を振っているから間違い。
「じゃあ、天然で癒し?」
それ、直人さん本人が言う?
「何それ。さすがにそれはパス」
鈴、言いたくないのね。
それとも案外正解だったのかも。
「仕方ない。次―」
次々質問するお兄さん。
それに答える直人さん。
茜さんと質問状を確認する。
「30問近くあるけど。
お兄さん全部覚えている?」
間にアドリブを交えているのに。
淀みなく次々と質問をしている。
「こういう暗記系は、敵わないのよ」
茜さんのお兄さんへ向ける視線が優しい。
真剣に撮影している和馬さんを見る。
私もそんな目で和馬さんを見る日が来るのかな。
順調にチェックが付いていき。
必要に応じてメモを加える。
質問もそろそろ終盤に差し掛かってきた。
「じゃあ、次。初めての」
で止まる鈴のお兄さん。
ここは、デートの質問だけど。
今までのお兄さんの様子からして。
遊んでいるに違いない。
緊張する直人さん。
続く静寂。
「でーもがっ」
鈴の手が、お兄さんの口をふさぐ方が早かった。
「デートの話。健全な質問しかしない!」
思わず叫ぶ。
あ、和馬さんを見る。
“ここ、カットする?”
口パクに頷く。
叫んだのが恥ずかしくなってきた。
後でちゃんと編集してもらおう。
「デートか。初めてのデートなら、映画だよ」
直人さんもほっとした様子。
「ちょっと盛り上げようとしただけなのに」
お兄さん、少しいじけている。
そこは、鈴に後で怒られてください。
質問状にある質問はこれで終わりだけど。
お兄さん、和馬さんに目で合図。
和馬さん、動画を止めかけていた手を離す。
「じゃあ、最後の質問。
鈴はやらんと言ったらどうする?」
言いながら、お兄さん笑っている。
直人さんも、笑って立ち上がる。
「おいで、鈴」
その一言で、鈴が直人さんの方へ。
直人さん、鈴を抱きしめて。
「これが答え」
鈴も頷いているから、たぶん正解。
うわー。うわー。
完敗です。
横で茜さんが拍手している。
私も遅れて拍手。
いいもの見せてもらった。
【埋まらない答え】
動画が止まった後。
「緊張した。鈴の目見られなかったよ」
直人さん、ちょっと涙目だ。
鈴が直人さんの頭を撫でている。
さっきのパスした質問。
やっぱり正解だった気がする。
和馬さんと2人で帰る。
「いいなあ、ああいうの」
まだ、感動から冷めない私。
「僕らの時は」
和馬さん、言いかけて止める。
「その前に、花音の気に入る巣をつくらないと」
和馬さん、またその話に戻ってきている。
「番で巣を作る鳥もいるよ」
あれから気になって、ネットで調べた知識。
「そっか、じゃあ。花音はどっちがいい?」
それには返事をしない。
だって、質問状にあった項目で。
“プロポーズの言葉は?”
が、まだ埋まっていない。




