悩み事は
【話題が逸れる】
顔が熱いまま電話を切る。
何件かの通知がある。
送った友達、これで皆連絡ついた。
グループチャットを作る。
鈴からの頼まれごと先にやっちゃおう。
『本題の前に、スピーチ頼まれた。
話題お願い』
次々既読が付く。
『おしゃれ』
『世話焼き』
『要領がいい』
『縁結び?』
縁結びって?
『うちらの周り何故か鈴が入ると。
うまくいくカップル多くなかった?』
そうだっけ?
『そういえばそうかも』
『でも、それは噂レベルじゃない?』
『確かに噂は無理』
『じゃあ当時のメイクの写真?』
『誰か画像持っている?』
メイクと言えば。
『メイクの道具ならあるよ』
この前出した時、見た目はまだ綺麗だった。
写真を撮る。
『これ』
『花音、でかした』
『鈴の失敗したメイクの写真なら出てきた』
『とりあえず上げて』
次々と写真が集まる。
『ところで花音。彼とはどうなん?』
何で知っているの?
『ショッピングモールで彼と買い物していた』
見ていたなら、声かけてくれても。
『花音から報告があるかなと待っていた』
『鈴より先かもと思っていた』
流石にそれはない。
『担任の先生に声かけたよ』
当時の委員長だった子が入ってきた。
『やった!』
『で、何すればいいの?』
えっと、何するんだっけ。
『鈴のお兄さん夫婦の指示待ち』
それは、嘘じゃないはず。
『詳しいことが判れば連絡するね』
晩御飯に呼ばれたので、スマホを置く。
【寝られない】
無事晩御飯も食べて、お風呂も入って。
「疲れた」
思わず声が出る。
スマホを眺めていると。
通知の合間に和馬さんから?
慌てて内容を確認。
『晃とざっくり話は出来た。
詳細を花音と詰めたいから。
僕の家に来てくれる?』
行く以外の選択肢が無いから返事を返す。
「とうとう、家に行くよ」
机の上の2組の人形に向かって声を掛ける。
あれから、出番の無くなったパジャマ。
代わりに布団を抱えて寝ることが増えた。
布団に入る。
それよりも大事なことに気づく。
和馬さんの家族に会うかも知れない。
和馬さんは、上手くやってくれているけど。
「嫌われたらどうしよ」
鈴に聞く?
夜遅いし。流石にどうだろう。
和馬さんは…恥ずかしくて聞けない。
「どうすればいいの?」
相手の両親への挨拶検索する?
いや、結婚するわけじゃないから。
でも、第一印象は大事よね。
なにで検索すればいいの?
だんだん、目が冴えてきた。
明日は仕事なのに。
今日はうまく寝られそうにない。
【亀の甲より】
結局、寝不足のまま仕事へ。
普段ならしないような小さなミスが続く。
同僚にはバレていない、そう思っていたけど。
「瀬戸さん。顔色悪いけど大丈夫?」
仕事場の先輩の声。
普段から厳しいけど、こういうところも鋭い。
そして多分、ごまかしも効かない。
「実は、友達で結婚する子がいるんだけど。
相手の両親に会うのにどうしようと相談されて」
ごめん鈴。鈴の話にさせてもらった。
このくらいなら、バレないはず。
「緊張は判らないでもないけどね。
でも、基本のビジネスマナーを知っていたら。
大きなトラブルは無いはずよ?」
目からうろことはこのこと。
なるほど、ビジネスマナーなら検索しやすい。
「最初から嫌われているとかなら別だけど。
そんな相手なら、会う前から判ると思うけどね」
流石先輩。頼りになります。
先輩、老眼鏡をずらして、じっと私の目を見る。
それ、いつも思うけど、ちょっと怖い。
「そういや瀬戸さん、有給余っていたよね。
有休も給料のうちなんだから。
今のうちに使っとく?
上司には、私からうまく言っとくけど」
思いがけない言葉に、返事が出来ない。
というか有給、そんな理由で使っていいの?
あとで問題とか起きたりしない?
「普段から真面目にやっている子なら。
そのくらいの融通はどうとでもするから」
噂で、先輩が裏ボスとか言うのがあったけど。
今の話を聞くと、本当かも知れない。
「で、どうする?」
一瞬、他の人に迷惑とか考えたけど。
今の頭では、ミスする方が多くて逆に迷惑かも。
帰らせてもらえるなら、その方が嬉しい。
「帰ります」
先輩、有給申請の紙を出す。
「理由は“諸事情”と書いてくれたらいいよ」
とのことなので、ありがたく書かせてもらう。
今度から、先輩の悪口は言いません。たぶん。
「寝られないほど悩むお友達に伝えて」
老眼鏡を掛け直し、書類を確認しつつ先輩。
「夜中に悩むとロクな結果にならない」
悩みたくて悩んでいる訳じゃない。
「じゃあどうすれば良いんですか?」
ムッとして聞く。
「明日の自分に頼む」
何ですか、それ。
「自分の努力を信じなさい」
それが出来ないから、困っているんですけど。
先輩、こんな人だから。
皆から、意味が判らないと文句言われるんです。
【大好物】
家に戻って一度寝て。
スッキリした頭で検索。
「あれ?」
ほとんど知っている知識ばかり。
初対面の相手なんていつもしている。
無茶を言う相手も同じ。
訪問のマナーも知らない知識じゃなかった。
昨日怖くて確認出来なかった内容に変更。
思ったより難しいことは書いてない。
よく考えてみれば、困ったら和馬さんが居る。
笑わず、絶対助けてくれる。
「なんだ」
寝られないほど悩んで。
おまけに仕事まで早退した自分が恥ずかしい。
「明日、先輩の大好きなクッキー置いとかないと
あと、迷惑かけた人たちの分も」
休息室の共有のおやつ置き場に。
先輩の好きなものが常にある理由が。
やっとわかった気がする。




