サプライズの連続
【お祝いの言葉】
見つめ合ったのはたぶん数秒。
心臓の音は、たぶんその倍。
和馬さん、ため息とともに立ち上がった。
差し出された手を無視して。
そっと和馬さんの頬に手を触れる。
うん。口紅はついてない。
食事のあと、そのままにしたのは正解だった。
じゃないと、後で言い訳出来ない。
「花音!」
そのまま、ふわっと腕の中に閉じ込められる。
嫌がれば、解けるくらいの力加減。
「少し早いけど、誕生日おめでとう」
その後、小さな声で。
「本当は、日が変わるまで一緒にいたい」
なんて言われたら、つい頷きそうになる。
その時、フェリーの汽笛が鳴る。
「帰ろうか」
何事もなかったように再び差し出される手。
今度は、ちゃんと手を握る。
頭の中で明日仕事だからとか。
遅くなったらお父さんが心配するとか。
たくさんの言い訳が浮かぶ。
でも、あの時頷いていたら。
何かが変わっていた?
【お父さんとの約束】
車は迷いなく家への道を進んでいる。
ほっとしたような残念なような。
かといって今の空気が嫌じゃない。
むしろ行きの車の中より会話が弾んでいる。
無意識で何度も触るネックレス。
その存在感は大きい。
無事家にたどり着く。
なのに明かりが付いてない?
「大丈夫?」
心配そうな和馬さん。
カギはあるから大丈夫だけど。
その時、お父さんの車が帰ってきた。
「思ったより早かったのね」
車の助手席から降りるなり、お母さん。
「せっかくだから、外で食べようと父さんが」
一緒に降りてきた弟はご機嫌だ。
車の向こうでは、和馬さんとお父さんが二言、三言。
そのまま、和馬さんはお辞儀をして帰っていく。
「ねえ、お父さん、何て言ったの?」
家に入ってきたお父さんに聞く。
「ちょっとした約束」
そのまま、頭をぽんぽんされる。
「もう、子供じゃない」
怒ってもお父さんは取り合ってくれなかった。
でも、お父さんニコニコしているから。
嫌な約束ではなさそう。
【誕生祝い】
あとは寝るだけになって。
一瞬、鈴に連絡しようか考えたけど。
でも、和馬さんに連絡する方が大事。
お父さんと何を約束したか気になる。
それに、出来れば日が変わるまで話もしたい。
そう思っていたら、向こうから電話。
「お父さんとの話」
開口一番に聞くことかなとは思ったけど。
気になるものは仕方がない。
「ごめん。内緒でと言われている。
でも、明日には判ると思う」
明日って言っても、あと1時間もないよ?
「正確には、明日の夕方。
届けたいものもある」
届けたいもの?今日会ったのに?
「先に見せたいものもあるから」
和馬さん、言える範囲でと言いながらも。
花音人形が、誕生日を祝う動画って。
それ、ほぼ答えだからね。
“花音人形”かあ。
じゃあ、このスーツの子は“和馬人形”?
お母さんに頼まれて、貸したことがあったけど。
一晩隣に居ないと寂しすぎて。
つい、パジャマまで作ったから。
日付が変わるころ。
切れた電話と同時に届く1通の通知。
一応、和馬さんから聞いていたけど。
ドキドキしながら開く。
時間は1分ほどの動画。
でも、間違いなく手作りの動画。
主人公は、花音人形。
BGMは誕生日の歌。
ケーキを前に踊っている。
「可愛いね」
一緒に見ていた和馬人形に声をかける。
“パジャマを着た”和馬人形となら。
いい夢がみられるような気がする。
明日には、花音人形も増えるけど。
どうやって寝ようかな。
【家族のプレゼント】
私の誕生日には、お父さんのケーキ。
そして、大好きなハンバーグ。
いつも通りの誕生日。
「そろそろじゃないか?」
と、お父さん玄関を気にしているよう。
「何の話?」
私が聞くと同時にチャイムが鳴る。
お母さん、いそいそと玄関に出る。
誰かを連れてって、和馬さん?
「花音、おめでとう」
花音人形を抱えた和馬さん。
思わずお父さんの方を見る。
「呼んだ」
お父さん、もしかして昨日の約束って。
和馬さん、少し居心地悪そう。
「花音のお父さんから内緒でと誘われて。
遠慮したんだけど」
そして、私の膝の上の和馬人形を見る。
「やっぱり、これを渡したかったから来た」
並べてみると、全く違和感がない。
お母さんを見る。
貸してと言われて貸したけど。
これのため?
「だって、欲しかったでしょう?」
お母さん、まったく悪びれてない。
でも、犯人は間違いなくお母さん。
自分から和馬人形の話題を出している。
「ケーキ早く食べたい」
弟の声に我に返る。
和馬さんは、ケーキだけ食べて帰ったけど。
お父さん、呼ぶなら。
お母さんも、言ってくれたら。
いや、よく考えてみたら。
それまでにヒントはいっぱいあった。
一応、確認もされた。
それに気づかなかった私が悪いんだけど。
むしろ、和馬さんいつの間に。
うちの両親と仲良くなっていたの?
【報告は】
鈴へ報告しなきゃ。
『和馬さん来た』
やっぱり、速攻で電話かかってきた。
「花音、誕生日おめでとう」
お祝いの言葉がおざなりなのは仕方ない。
こっちも話したいことはいっぱいある。
昨日の話から所々端折りながら説明。
人形のくだりは鈴にめっちゃウケた。
「花音の両親、最高」
両親に彼氏とサプライズされるって。
確かに普通は無いよ。




