最高の日
【正解ですか?】
運命の日。
何度も鏡を確認する。
学生時代は、流行を追いかけるのが楽しかった。
でも、今日の目標は。
和馬さんに可愛いと思ってもらうこと。
派手にはしない、でも可愛い。
バランスが難しい。
いつもと違う自分。
目もいつもより少し大きめで止めた。
派手じゃないはず。
コテで巻くのも久しぶりだったから。
後ろもちゃんと出来ているかな。
和馬さんが来るまで、家の中をウロウロ。
「姉ちゃん、うざっ」
弟に怒られた。
ほぼ約束の時間に止まる車。
いつもなら、直ぐに降りてくる和馬さん。
なかなか出てこない。
不思議に思って車を覗く。
和馬さん、ハンドルに頭を付けて動かない。
声を掛けようとしたら動いた。
和馬さんの耳がめっちゃ赤い。
こっちもドキドキしてきた。
「なんで、いつも飛び越えてくるかなあ」
小声で言っている言葉がわからない。
「変だった?」
服をもう一度確認。
おかしなところはないはず。
「変じゃ無いから困っている」
珍しく、和馬さんもジャケット。
見慣れなくて、目を逸らす。
音楽も、聴き慣れた曲のピアノバージョン。
返ってそれが緊張する。
【当たりです】
車の中は、和馬さん無言。
まだ耳が赤いけど、言葉を探しているよう。
私も、言葉が見つからない。
心臓がおかしくなるか心配になってきた。
「普段から可愛い花音だけど。
想像していた倍は可愛い」
一つ一つの言葉を慎重に伝えてくれる和馬さん。
“いつもより可愛い花音”
これが、当たりというより、正解だったみたい。
心の中でよっしゃと踊り狂っている自分がいる。
「和馬さんも、いつもと違うから、ドキドキする」
その後はぽつぽつと、鈴の甥っ子の話。
和馬さんたちは、ベビーカーを送るらしい。
これは鈴のお兄さんの希望でもあるよう。
どちらも初孫で色々皆が張り切っているらしく。
物で溢れかえっているとも聞いた。
消耗品も候補に入れるべきかも。
鈴から茜さんに聞いてもらう方が間違いなさそう。
【欲しかったもの】
「前に家族と来て、花音と来たいと思ったんだ」
着いた海の見えるお店。
一生来る機会がないと思っていた場所。
案内された場所で和馬さん。
言い訳ぽく色々言っているけど。
私のためにちゃんと調べてくれたのが判る。
無事、注文も終え一息。
会話が続かない。
水を一口。
調べてくれてありがとうと言う?
でも努力は隠したい感じだよね。
しばらく考えていた和馬さん。
「先にプレゼント」
そっと差し出される箱。
鈴にあげたピアスと同じ店のロゴ。
「開けていい?」
頷いたのを確認してリボンを解く。
中には、鈴のピアスを買う時に見ていたネックレス。
欲しいと思っても、言葉には出てなかったはず。
「まだ、指輪とかは早いかなと悩んでて。
丁度、一緒に見に行く機会があったから」
ふっと緊張が解ける。
あの時選んでいたのは。
目の前で、じゃなく誕生日のためにだったのね。
謎が解けたというか、納得したというか。
その時、丁度料理が来るのが見える。
箱はそっと鞄にしまう。
ちょっと残念そうな和馬さんの目。
今は、私のために選んでくれた。
料理の方を堪能したい気分なんだ。
【ネックレスの意味】
料理の見た目はもちろん、期待を裏切らない味。
お店が良かったのもあるけど。
たぶん和馬さんと一緒だから。
アルコールなんて一滴も入って無いはず。
なのに、ふわふわと気持ち良い。
「少し、歩く?」
頷いて手を繋ぐ。
潮風が気持ちいい。
近くのベンチに一緒に座って鞄を開ける。
存在感のある箱を取り出す。
忘れていた訳じゃない。
つけた時の感想を近くで聞きたかったから。
三日月の明かりと、街頭の明かり。
ネックレスも光っている。
緊張からか付けようとするも上手くいかない。
「貸して」
見かねた和馬さんが、後ろの留め具に触れる。
首筋に当たる指がくすぐったい。
「動いたら、危ない」
怒っているのか、笑っているのかわからない声。
耳元で聞こえるのが余計にくすぐったい。
「出来た」
トップをちょっとつまんで指で確認する。
そういえば、ネックレスって。
“独占したい”の意味があった気がする。
でも、独占したいのは私も同じ。
だから余計に良い感じ。
【お礼の仕方】
「似合ってる?」
和馬さんに良く見えるように正面に立つ。
「花音のために作ったのかも」
そんな大袈裟な。
でも、悪い気はしない。
そして、やるなら今。
「ありがとう」
思い切り和馬さんに抱きつく。
和馬さんの頬に唇が当たったのは、ほんの一瞬。
言い訳出来るくらい。
すぐに、大きく一歩下がる。
和馬さんの手が、空を切った。
作戦は大成功。
「花音!」
恨めしそうに見ないで。
私のお礼はここまで。
テンションの高い今なら出来る精一杯。
だから、人目のあるかもしれない場所で。
これ以上は無理よ?




