どんな人?
【映画の並び】
改めて紹介された和馬さん。
鈴の彼氏とお兄さんが友達だとは知っていた。
3人共大学時代からの友人らしい。
今の様子からして、話題には出てたかも知れない。
休日ということもあり、券売機は混み合ってる。
何も言わずに和馬さんだけが並んでいる。
私も自分の分を買うために一緒に並ぶ。
和馬さんが、券売機のボタンを押しながら言った。
「今から観る映画なんですけど。
この前の特別展と関連してるから、楽しみですよね」
確かにあの美術展。
あれを知っていると世界観が更に広がるというか。
面白かったのは間違いない。
「はい、これどうぞ」
和馬さんから渡されるチケット。
財布を出す手を止められる。
「だって、僕が観たいって誘ったんです。
奢るのが当然でしょ?」
皆にも同じように配っている。
「だから、花音さんから“だけ”貰う訳にはいきません」
他の人と違って、知人とも呼べないような間柄。
なんで?
チケットを握りしめている間に。
さっさと和馬さんはゲートを潜っている。
鈴のお兄さんも一緒だ。
「先、行くよ?」
鈴達も、直人と一緒にゲートを潜る。
「この人、いつもだから気にせんでええよ」
ゲートの向こう、鈴のお兄さん。
私の様子に気づいたようだ。
和馬さんの姿は見えない。
鈴のお兄さん、気にせんでって言われても。
もたもたしてる間に、知らない人が先に潜り抜ける。
もう少しで始まる時間。
覚悟を決めて、ゲートを潜る。
薄暗い館内。
それなりの人が座っている。
チケットの番号を確認。
既に鈴達は座って…て?
「何故鈴と離れてるの?」
向こうから、鈴、直人さん、鈴のお兄さん、和馬さん。
で、…私?
座席は、見やすい位置ではある。
「…ですよね。晃、直人、鈴さん。
やっぱり元の位置にしましょう」
和馬さんの提案だけど。
向こうはすでに直人さんと話をして聞いてない。
鈴のお兄さんも動く気配なし。
私が来るまでの間に、席が決まってしまったようだ。
強引に戻すのも気が引ける。
それに、場所は通路側。
映画に集中していれば、変に意識するほどでもない。
「人がいっぱいですから、周りに迷惑でしょう?
このままで大丈夫です」
そのまま後ろの人の邪魔になる前に席に着く。
暗くなる館内。
始まる予告。
内容も期待を裏切らない。
なのに、隣が気になりすぎて。
いつもなら泣くような場面。
不思議とちっとも泣くことが出来なかった。
明るくなる館内。
人が捌けるのを待つ間に、鈴を見る。
鈴はハンカチを持って、目が真っ赤になっている。
慰めるように、直人さん、鈴の頭をぽんぽん。
鈴のお兄さんは、和馬さんと感想を話している。
よく見た訳じゃないけど。
和馬さんの目元も少し赤かった気がする。
【衝撃の事実】
「焼き肉だ!」
何か声を掛ける前に、鈴のお兄さんの声が響き渡る。
そのまま、皆で焼肉屋へ。
「和馬の奢りだ。たんと食べるがいい」
食べ放題のお店なのに、何故か鈴のお兄さんは偉そう。
「その代わり、ほら可愛い子と一緒。な?」
鈴のお兄さん、調子にさえ乗らなければ…。
いい人ではある。
だからといって、これとそれは別だ。
私が自分の分は自分で払うと言うより先に。
「確かに花音さんも鈴さんも可愛いけど。
でも、そう言う理由で誘うのはどうかと思う」
一瞬、辺りが静かになる。
焼き肉の、ジュージュー焼ける音。
「食べないの?じゃ、もらい」
直人さんだけが、網に乗った肉を根こそぎ持っていく。
和馬さんは、黙って新たな肉を乗せていく。
「茜さんに言うからね」
少しの間の後。
鈴の一言に鈴のお兄ちゃんが涙目になる。
「久しぶりに皆に会えてはしゃいでたんだよ。ごめん」
奥さんに言いつけられそうになって、謝るくらいなら。最初から変なこと言わなければいいのに。
「父親になるならしっかりしないとな」
和馬さんがボソリ。
「え?お兄ちゃん。子供出来たって聞いてないよ」
と、鈴。直人さんも頷いている。
まさか、鈴が知らない?
全員の視線が微妙に冷たくなる。
「あ、ああ。産まれるのは、夏ごろ…かな」
今、3月。
夏ってことは?
「ちゃんと、知らせようと思ってたんだよ。でも…」
和馬さんが、一口お茶を飲む。
「晃のお母さんと茜さんに頼まれた。
6月には赤ちゃん産まれて父親になるのに、
“赤ちゃん産まれるまでサプライズで皆に隠す”
とか馬鹿なこと言ってるって。
僕ら友人はいいよ。実際お祝いだけでいいからさ。
でもさ、両親にまで隠すのはおかしいよ。
話をしようとしたら、はぐらかして話にならない」
鈴が息を吐く。
「なるほど。じゃあ、お兄ちゃん。
しっかり和馬さんと話し合って」
和馬さん、頷いている。
直人さんは…焼肉を食べている。
和馬さん、鈴のお兄さんと真剣に話を始めた。
私の横では鈴がスマホを打っている。
通知音。鈴から?
『茜さんから、早々に話は聞いてたから心配しないで。
あと3か月でおばさんよ』
鈴が机をとんとんと叩く。
視線を探ると机の下で親指を立てている。
うん、嬉しいのは判ってる。
再びスマホを打つ鈴。
直人さんは、鈴の皿に肉を乗せたり、注文したり。
鈴のお兄さんは、合間に食べているようだけど。
和馬さん、真剣に話をしてる。
そのせいであまり食べてない気がする。
私の様子にこっちを向く和馬さん。
直人さんから、タブレットを取り上げる。
「花音さん。何か頼みます?」
目の前に開かれるメニュー。
隣の鈴にも声を掛ける。
和馬さんも頼んでいるようで、ほっとする。
注文してしばらくして。
再び通知音。
『お母さんが、お兄ちゃんに子供のこと聞いたの。
いつもはぐらかされるって困ってた。
晃が父親になるのに、しっかりしてもらわないと。
て、愚痴っているのを聞いて、茜さんと相談』
ふむふむ。
続く通知音。
『茜さんから、こういうのは和馬さんに頼もうと。
ハッキリ言ってくれるからって。
直人はあんな感じだしね』
確かにマイペースで、ガツンと言うタイプでは無さげ。
通知音。
『お兄ちゃん、自分が都合悪くなるとね。
人を呼んで誤魔化す癖あるからさ。
近くで待機するのは良かったんだけど』
ん?
もしかして。
『うちらだけじゃお兄ちゃん、話を聞かないし。
花音が居れば心強いなあと。
なんもなければ、普通に遊ぶつもりだった。
ごめん』
…変だなぁとは思った。
彼氏紹介とかそんな雰囲気でもなかった。
やっと謎が解けたよ。
隣の鈴を睨む。
机の下で、手を合わせる鈴。
…全く。
目の前では鈴のお兄さん、電話をしている。
様子からして、鈴のお母さん。
言い訳めいたことを言いかけては。
和馬さんに指摘されて、訂正している。
和馬さんて、真面目な人だなぁ。
ご飯食べる仕草も綺麗だし。
こういう人が旦那さんだと、奥さん幸せだろうなぁ。
結婚はしてないって言ってたけど。
好きな相手くらい居そう。
うん、私には関係ないな。
…冷たいアイスが美味しい。




