泳ぎに行こう
【水着の目的】
「海じゃ無いから、派手なものはいらない」
ここは譲れない。
とりあえず、スポーツショップにはありそうと中に入る。
「上からラッシュガード着れば平気じゃない?」
ごねる鈴と一緒に水着コーナーへ。
「こっちだね」
帽子、ゴーグル。
あと、ラッシュガードがセットになった水着。
「花音。色気のかけらもなく無い?」
鈴の選んだのは、少し可愛いデザイン。
「教えてもらうのに、可愛いは要らない」
目的はあくまでも、泳ぎを教えてもらうこと。
「そういえば、直人と泳ぎに行くの初めてかも」
鈴は楽しそう。
念のため試着。
実用性大事だから、動きに問題ないことを確認。
息を吐いてみる。
やっぱりなんのことかわからない。
和馬さん、どうやって教えてくれるんだろう。
案外スパルタだったら泣くかも。
【どう過ごす?】
無事に水着を買った後。
鈴と寄ったコーヒーショップ。
話題は、休日を2人でどう過ごすか。
「会うたびが特別なんは、最初のうちだけよ」
アイスコーヒーの氷をストローで突きながら鈴が言う。
「そうなの?というか、皆何処に行くの?」
ちょっと考える鈴。
「案外何処も行かないもんよ。
たまに出かけるけど、ほとんど家で居ることが多いかも。
一緒にゲームしていたりとか。
最近は直人も料理に興味が湧いて、一緒に作っている。
多分、和馬さんの影響かな」
なるほど。
お互い実家暮らし。
和馬さんの家に行くのは私的に難しい。
呼ぶとなると、お母さんは言わない。
むしろ喜びそう。
お父さんは、事後報告でいっか。
家に帰った後、部屋を見渡す。
可愛いとか、オシャレよりも。実用性を重視した部屋。
別に散らかってはない。
脱衣所へ。
バケツと雑巾を取り出す。
ついでに途中で掃除機も抱える。
「気分転換も必要よね」
棚の普段見ない場所の埃。
机の奥の方。
ベッド周りを整えて。
なんでこんなに真剣に掃除をしているんだろう。
丁度その時、通知音。
別に、カメラに映る訳でも無いのに。
エプロンを外して、掃除道具片付けて。
ついでに、ちょっと鏡を覗いてから、内容を確認する。
『今日、楽しかった?』
和馬さんには、鈴と出かけるとしか言ってない。
『鈴と水着買った』
ちょっとの間。
スマホ片手に和馬さん、多分固まってそう。
『買った』
和馬さん、相当動揺してそう。
急いで電話。
コール音一回で出た気配。
「水着と言っても実用的なの。
ゴーグルも買った。
優しく教えて。
でも、手取り足取りは嫌」
一気に言ったせいで息が上がる。
身体も熱い。
今日、雨で何時もより気温は低いはず。
などと、明後日の方向に思考が飛びかけたところで。
「泳げる保証はしない。
でも、花音が楽しめるようには努力する」
真面目だなあ。
そこが良いところなんだけど。
もう少し、こう。
「花音の水着、楽しみにしている」
楽しみって。
返事しようにも、もう電話は切れている。
鈴の言う通りだった。
変なところで意地張らないで。
水着、可愛いの買えば良かった。
【泳げる人は】
「今更、遅いよ花音」
更衣室で、呆れ気味の鈴。
「やっぱり恥ずかしいかも」
水着を着る勇気はあった。
恥ずかしいのはそこじゃ無い。
相手も水着なことをすっかり忘れていた。
「それは当たり前でしょう。
変に意識してどうするんよ」
鈴の言う通りではあるけど。
結局、鈴に手を引かれてプールへ。
既に向こうでは、2人が待っていた。
やっぱり、無理。
何処を見ていいかわからない。
「花音、やっぱり無理だった?」
今は和馬さんに近づいて欲しくない、かも。
鈴の後ろに隠れる。
「ごめん、花音と向こうの遊泳コースに居るね。
先に直人と2人泳いできてよ」
鈴、ありがとう。
遊泳コースは、胸までしか無い。
でも、ビート板は手放せない。
「だから、そんな後ろから見ても同じよ?」
鈴が呆れている。
泳ぐところは見たい。
でも、まだ勇気は出ない。
ビート板で顔を半分隠しつつ。
和馬さんが、ゴーグルを付けているのは見えた。
そして、スタート。
直人さんは、早々に泳いでいる。
水に潜った和馬さんの姿が見えない。
五メートル、十メートル。
あ、出てきた。
直人さんと違って、ほとんど水飛沫が飛んで無い。
「へえ、早いね」
鈴も感心している。
直人さんが半分超えた辺りで、もう向こう側に着いた。
「こら、本気出し過ぎ」
直人さんは、結局途中でプールから上がった。
【気づいたら】
「勝負になんねー」
遊泳コースに入って来た2人。
いきなり直人さんに文句を言っている。
「泳ぎ方から違う」
鈴は、何気に辛辣だ。
「格好良かったです」
何故か、上手く言葉に出来ない。
「ありがとう」
お互い、目を合わせられない。
ビート板を抱えたまま一緒に、身体が沈む。
「ちょっと花音!」
和馬さんが、慌ててビート板ごと引き上げてくれた。
「ビート板があっても危ないからね」
和馬さんのおっしゃる通りです。
プールで座ろうとした私が悪いです。
「何事もなくて良かったけどさ」
直人さんもご心配をおかけしました。
その時、丁度休息タイムの放送が鳴る。




