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黒と白、分けられない者。善と悪の共存ー聖女の母と副団長の父に愛された子供たち、そして“魔王の生まれ変わり”が目覚めるまでの物語ー  作者: ココアバナナ
最終章 黒と白、分けられない者。

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第四十四話 「迎えに来たよ」


 月明かりの下。


 黒い影が畝る。


 地面を這うように、何本も、何本も。


 生き物みたいに蠢きながら、レオンおじちゃんへと伸びていく。


「っ……!」


 息が詰まる。


 まただ。


 また、僕のせいで。


「やめて……!」


 声が震える。


 止めたいのに。


 止められない。


 影は僕の意思なんて関係なく動く。


『無駄だ』


 頭の奥でまたあの声が笑う。


『お前は、こうなる運命(さだめ)なのだ』


『守りたいなどと戯言を叫びながらも、結局は全てを破壊する』


「ちが……う……」


 否定したいのに。


 言葉が、声が、弱くなる。


 影は止まらない。


 一直線に、レオンおじちゃんへ。


「……来い」


 低い声。


 レオンおじちゃんは一歩も引かない。


 剣を構えたまま、真っ直ぐに影を見据えている。


 キンッ!!


 黒い影と剣がぶつかる。


 重い音が辺りに響く。


 弾かれた影が地面に叩きつけられて揺れた。


「……っ」


 それでも止まらない。


 次々と、別の影が伸びていく。


 何本も。


 何本も。


 まるで、僕の中にある“何か”が溢れ出してるみたいに。


『ほらな』


 声が、楽しそうに囁く。


『誰も守れない』


『それどころか、傷つけるのみだ』


「やめろ……っ」


 頭を押さえる。


 ぐらぐらと視界が揺れる。


 足元の影が、さらに濃くなった。


 黒が、滲む。


「トール!!」


 レオンおじちゃんの声。


 強くて、真っ直ぐな声。


「こっちを見ろ!」


「……っ」


 顔を上げる。


 月明かりの中で。


 レオンおじちゃんが僕を見ていた。


 影じゃない。


 僕を。


「目を逸らすな」


 低い声。


「それはお前だろう」


「……っ」


「逃げるな」


 また、影が襲いかかる。


 キンッ!!キンッ!!


 剣がそれを叩き落とす。


「これは、お前の力だ」


「違う……!」


「違わん」


 強く言い切られた。


「暴れてるのも、制御できていないのも、全部含めて“お前”だ」


「っ……」


 言葉が刺さる。


 逃げていた部分を、真っ直ぐ貫かれる。


「だから、向き合え」


 レオンおじちゃんの声が、重く響く。


「怖いなら、怖いままでいい」


「震えててもいい」


「だが、目を逸らすな」


 影が、また伸びる。


 今度は、真っ直ぐ。


 レオンおじちゃんの胸へ。


「……っ!」


 駄目だ。


 今度こそ、当たる。


 思わず、目を閉じかけた、その時。


「──離さない」


 小さく、呟いた。


 自分でも、何を言ったのか分からなかった。


 でも。


 次の瞬間。


 伸びていた影が、ぴたりと止まった。


「……え」


 震える。


 影が、止まってる。


 ゆらゆらと揺れながら。


 でも、動かない。


「……そうだ」


 レオンおじちゃんの声が、少しだけ柔らかくなる。


「それでいい」


「トール」


 名前を呼ばれる。


 ゆっくりと、顔を上げる。


「お前は、一人じゃない」


 その言葉と同時に。


 背後から、別の気配がした。


「……ったく、勝手に抜け出すな」


 聞き慣れた声。


 振り返るとそこには──


「父さん……!」


 父さんが立っていた。


 その隣には、母さんも。


 姉さんも、兄さんも。


 アイリーンさんも。


 みんな。


 全員、いた。


「……見つけたわ」


 母さんがゆっくりと安心したように微笑む。


 でも、その目は真剣だった。


「迎えに来たわよ、トール」


 その言葉に。


 胸の奥が熱くなる。


 レオンおじちゃんが少しだけ笑った。


「言っただろう」


「逃げても無駄だと」


「……っ」


 影がまた少しだけ揺れる。


 でも。


 さっきみたいな暴走はしていない。


 僕は。


 ちゃんとここにいる。


『……チッ』


 頭の奥で、あの声が小さく舌打ちした。


『くだらん』


 でも。


 さっきまでみたいな強い圧はない。


 少しだけ。


 ほんの少しだけ。


 遠くなった気がした。


「トール」


 兄さんが一歩前に出た。


 優しい声で。


「帰ろう」


 姉さんも頷く。


「一人でどこ行く気だったのよ…… ほんと、バカなんだからっ」


 泣きそうな顔で笑っていた。


 父さんは腕を組んだまま。


 その目は真っ直ぐだった。


「帰るぞ」


 短い言葉。


 でも、それだけで十分だった。


 母さんがそっと僕に手を差し出す。


「おいで」


 その手は。


 何度でも、どこまででも迎えに来てくれると言ってくれた母さんの暖かな手だった。


「……っ」


 涙が溢れる。


 足が、勝手に動いた。


 その手を掴むと、なんだか凄く安心した。


「……ただいま」


 小さく呟くと。


 母さんは、ふわりと笑った。


「おかえりなさい」


 その瞬間。


 胸の奥にあった何かが、少しだけほどけた気がした。


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