表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒と白、分けられない者。善と悪の共存ー聖女の母と副団長の父に愛された子供たち、そして“魔王の生まれ変わり”が目覚めるまでの物語ー  作者: ココアバナナ
第三章 学院にて、黒は笑う。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/54

第二十八話 「知られたくないものほど、見つかってしまう。」


 最近のトールは、昼休みになるとすぐに中庭へ行く。


 理由は、もちろん。


「……ユリウス」


「はい」


「飴」


「今日はありません」


「……」


「その顔をしないでください」


 ベンチに座った瞬間、トールがしょんぼりした。


 ユリウスは少し困ったようにため息をつく。


「今日はクッキーです」


「いる」


「早いわね!?」


 僕とメリアが同時に突っ込む。


「飴がないなら、クッキー」


「なんでそんな当然みたいに……」


「ユリウス、完全に餌付けしてるじゃない」


「違います」


「違わないわよ!!」


 メリアがびしっと指を差す。


「最近のトール、ユリウス見るとちょっと機嫌良くなるもの!」


「……そうですか?」


「そうよ!」


「……兄さん」


「なに?」


「姉さん、うるさい」


「うるさくない!!」


 いつものやり取り。


 トールがクッキーをもぐもぐ食べて、ユリウスが静かに本を読んで、メリアが騒いで、僕がなだめる。


 最近は、それが当たり前になっていた。


 だから。


 その日も、いつも通りだと思っていた。


「──ねぇ、やっぱりあの子だよ」


 不意に聞こえた声。


 少し離れた場所。


 女子が三人、こちらを見ていた。


「この前、変な文字読んだって……」

「え、ほんと?」

「一年の子が見たって言ってた」


 どくん、と胸が鳴る。


 隣で、トールがきょとんと顔を上げた。


「……僕?」


 その声に、女子たちがびくりとする。


「あっ、いや……」


「ち、違っ……」


 慌てて目を逸らす。


 でも。


 その空気は、知っている。


 怖がってる。


 得体の知れないものを見る目。


 ……やめて。


 そう思うより早く。


「ねぇ」


 メリアが立ち上がった。


 笑っている。


 でも。


 ちょっと怖い笑顔だった。


「さっきから聞こえてるんだけど?」


「メリア」


「フレイは黙ってて」


 駄目だ。


 これは、完全に怒ってる。


「勝手な噂話するの、やめてくれる?」


「で、でも……」


「でも?」


「だって、その子……なんか変だし……」


 その瞬間。


 ぴたり、と空気が止まった。


 トールが、動かない。


 ただ、じっと。


 相手を見ていた。


 何も言わない。


 でも。


 その黒い瞳が、ほんの少しだけ揺れる。


「……変」


 ぽつり。


 小さな声。


「やっぱり僕、変なの……?」


「違う!!」


 思わず、声が出た。


 僕だけじゃない。


「違うに決まってるでしょ!!」


 メリアがトールの前に立つ。


「トールは変じゃない!ちょっとお菓子に弱くて、ちょっと静かで、ちょっと変なところあるけど、それは昔からよ!!」


「姉さん、それフォローになってない」


「うるさい!!」


 トールが少しだけ目を丸くする。


 メリアは怒った顔のまま女子たちを睨んだ。


「勝手に怖がるのはそっちの勝手。でも、トールのこと変だとか言わないで」


「……っ」


「トールは、私の弟なの」


 強い声だった。


 いつものメリアより、ずっと。


 女子たちは何か言いたそうにして。


 でも、結局何も言えなくて、小さく「ごめんなさい」とだけ言って離れていった。


 静かになる。


 風が吹く。


 誰も、何も言わない。


「……姉さん」


 最初に口を開いたのは、トールだった。


「なに?」


「ありがとう」


 メリアが、ぴたりと止まる。


「……え」


「僕、うれしかった」


 そう言って。


 トールが少しだけ笑った。


 メリアの顔がみるみる赤くなる。


「っ、~~~~!!」


「姉さん?」


「フレイ!!」


「えっ、僕!?」


「今の聞いた!?トールがありがとうって!!」


「聞いたよ!?」


「しかもうれしかったって!!」


「うん!」


「録音したかった!!」


「無理だよ!!」


 わあわあと騒ぐ僕たちを見て。


 トールは少し困ったみたいに目を細めた。


 その時。


 こつん。


 ユリウスが、そっとトールの肩にクッキーの包みを押し当てた。


「……追加です」


「……いる」


「ちょっと!!私が頑張った流れなのに、なんで最後に全部持ってくのよ!!」


「別に、持っていってません」


「持っていってる!!」


「……姉さん」


「なによ!」


「うるさい」


「ひどい!!」


 でも。


 その声はさっきまでよりずっと明るかった。


 トールは笑っている。


 ちゃんと。


 いつもみたいに。


 だから僕も少しだけ安心した。


 ……たとえ。


 噂が、少しずつ広がっていたとしても。


 トールの隣には、まだ。


 僕たちがいる。


 そして。


 ユリウスも。


(トールを独りになんて、絶対にさせない。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ