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黒と白、分けられない者。善と悪の共存ー聖女の母と副団長の父に愛された子供たち、そして“魔王の生まれ変わり”が目覚めるまでの物語ー  作者: ココアバナナ
第三章 学院にて、黒は笑う。

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第二十二話 「トールに友達ができた。」


 トールが学院に入学して、数日。


「トールくん! 一緒に食べよー!」


「今日、売店の新作パン出るんだって!」


「なぁ!黒猫また連れてきて!」


 トールに友達ができていた。


 しかも、ものすごく自然に。


 ──中庭のベンチ。


 昼休みになると、トールの周りにはいつの間にか何人かの生徒が集まっている。


 主に女子。


 あと、動物好きの男子が一人。


 トール本人は、そんなこと全然気づいていない。


「……?」


 周りが会話を進める中でパンを食べながら、きょとんとしている。


「ねえ、聞いてる?」


「……聞いてる」


「絶対聞いてないでしょ!」


「聞いてた。パンの話」


「今、恋愛の話してたの!!」


「……パンじゃなかった」


 周りが吹き出す。


 トールは首をかしげて、またパンを食べ始めた。


「トールくんって、面白いよねー」


「かわいいし」


「なんか放っておけない!」


 放っておけない。


 それは、ちょっと分かる。


 昔からそうだ。


 トールは、どこか危なっかしい。


 ぼんやりしていて、何を考えてるか分からなくて。


 でも、目を離すと、ふらふらどこかへ行ってしまいそうで。


 僕とメリアは、生徒会室へ向かう途中の廊下から、その様子を見ていた。


「副会長、弟くん心配しすぎじゃない?」


 後ろからついてきていた生徒会書記が、くすくす笑う。


「会長もだけど」


「だってトールだもの!」


 メリアが、ばんっと壁を叩いた。


「この前だって、階段で寝そうになってたのよ!?」


「あれは……眠かったんだろーなぁ」


「あと学院の池に落ちかけた!」


「あの時はトール、魚に夢中だったから」


「魚見て前見てなかったの!!」


 メリアが頭を抱える。


 周囲が笑う。


 その時だった。


 中庭を横切ろうとした、馬車用の魔獣──グランホースが、ぴたりと足を止めた。


 学院で飼われている、大人しくて賢い魔獣。


 人にもよく懐くし、滅多なことでは暴れない。


 そのグランホースが。


 トールを見た瞬間。


 ぶるり、と全身を震わせた。


「……え?」


 御者の生徒が、目を丸くする。


 グランホースは、怯えたように耳を伏せた。


 そして。


 ずるずる、と後ずさる。


 まるで。


 目の前にいる何かから、必死で逃げようとするみたいに。


「おい、どうした!?」


 御者が慌てる。


 でも、グランホースは止まらない。


 視線だけは、ずっと。


 トールに向いている。


「…………」


 トールが、顔を上げた。


 黒い瞳と、魔獣の怯えた目が合う。


 その瞬間。


 グランホースは、悲鳴みたいな声を上げて駆け出した。


「うわっ!?」

「ちょ、止めろ!!」


 中庭が、一気に騒がしくなる。


 さっきまで笑っていた生徒たちが、驚いたようにトールを見る。


 トールは、何も言わない。


 ただ。


 少しだけ、寂しそうな顔をした。


「……また」


 ぽつり。


 小さな声だった。


 胸が、ぎゅっと痛くなる。


「違う!」


 メリアが、勢いよく駆け出した。


 中庭へ向かう。


「メリア!」


 慌てて、僕も後を追った。


「トールは悪くない!」


 トールの前まで行くと、メリアはその肩を抱き寄せた。


 まるで、自分に言い聞かせるみたいに。


 強く。


 強く。


 でも。


 その声は、少しだけ震えていた。


 ……メリアも。


 もう、気づき始めている。


 認めたくないだけで。


「……姉さん」


 トールが、小さくメリアを見る。


「僕、なにもしてない」


「分かってる!トールは何も悪くない! だからそんな顔しないの!」


 トールが、少しだけ目を丸くする。


 それから。


「……うん」


 小さく、笑った。


 その笑顔に少しだけ安心する。


 でも。


 僕だけは、笑えなかった。


 トールは何もしていない。


 悪くない。


 悪くなんて、ない。


 なのに。


 どうして。


 どうして、みんな逃げるんだ。


 答えを僕は知っている。


 知っているのに。


 言えない。


「……兄さん?」


 不意に、トールが僕を見た。


 不安そうに。


 助けを求めるみたいに。


「……大丈夫」


 だから、また。


 嘘をつく。


「僕がいるから」


 その言葉に、トールは安心したみたいに笑った。


 ……やめて。


 そんな顔で、僕を信じないで。


 僕は。


 本当は。


 ずっと前から、怖いんだ。


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