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黒と白、分けられない者。善と悪の共存ー聖女の母と副団長の父に愛された子供たち、そして“魔王の生まれ変わり”が目覚めるまでの物語ー  作者: ココアバナナ
第二章 笑っているのに

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第十四話「落ちたはずの息子が“落ちなかった”」


 ――守ると決めたからといって、何ができるわけでもない。


 ……それが一番、厄介だ。


「トールー!こっちおいでー!」


「あいっ!」


 庭先で、メリアが手を振る。


 それに応じて、トールがよちよちと――

 いや。


 (……よちよち、か?)


 一瞬だけ、動きが“滑った”気がした。


「きゃは!」


 次の瞬間には、いつも通りの足取りでメリアの腕に飛び込む。


「ほらー!ちゃんと歩けるようになってきたじゃん!」


 ……そうだな。


 そういうことにしておこう。


「ルシアン」


 背後から声。


 振り返れば、ミレイユが立っていた。


「少し、いい?」


 その声音で分かる。


「ああ」


 短く頷き、庭から少し離れる。


 子供たちに聞かせる話じゃない。


「……昨日のことだけど」


「ああ」


 言葉を選ぶまでもない。


 互いに、同じものを見ている。


「鍵、内側から解かれてたわ」


「……やっぱりか」


 鍵が壊された形跡はなかった。


 つまり――


「“開けた”のよ、あの子が」


 静かに告げる。


 一歳児が?

 そんな常識は、もう意味を持たない。


「魔力反応は?」


「……異常よ」


 ミレイユの眉が、僅かに寄る。


「属性が安定しないの。闇……だけじゃない」


「何だと?」


「一瞬だけ、光に近い波長が混じるの」


 言葉の意味を、すぐには理解できなかった。


 闇と光。

 相反する属性。

 共存など――


 (ありえない)


「でも、すぐに消える」


 ミレイユが続ける。


「ほとんどは闇。でも……時々、違う」


「……」


 胸の奥が、ざわつく。


 昨日の影。

 あの“ズレ”。

 そして――


 (善か、悪か)


 頭に浮かんだ言葉を、振り払う。


「……経過観察、か」


「ええ」


 短いやり取り。

 

 その中に含まれる重みは軽くない。


「……アイリーンを呼ぶ?」


 ミレイユが、ぽつりと呟いた。


「……」


 少し、考える。


 あいつは信用できる。

 実力も、判断力も。


 だが――


「まだだ」


 横に首を振った。


「もう少しだけ、様子を見る」


 ミレイユは、何も言わなかった。

 ただ、ゆっくりと頷く。


「……分かったわ」


 それでいい。

 今はまだ。


 “家族の問題”でいられるうちは。


「パパぁー!」


 メリアの声が飛んでくる。


「トールがねー、変なとこ登った!」


「は?」


 振り向く。


 そこにいたのは――


 庭の木の“枝の上”で、にこにこと笑うトールだった。


「……は?」


 高さは、軽く大人の背丈以上。

 一歳児が登れる場所じゃない。


「どうやって登ったのかなぁ」


 メリアが呟く。


「僕、見てなかった……」


 フレイも困惑している。


「トール、危ないから動くなよ。パパが下ろしてやるからな……」


 声をかける。


 トールは、きょとんとした後――


「ぱぁぱっ!」


 笑った。


 そして。


 ――“落ちた”。


「トールっ!!」


 反射的に、駆ける。

 

 トールの体が、ふわりと“止まった”。


 まるで、見えない何かに支えられるように。


「……」


 ゆっくりと、地面に降り立つ。


「きゃは!」


 楽しそうに笑う。


 何事もなかったかのように。


「……」


「すごーい!トール飛んだ!」


 メリアが無邪気に言う。


「……ちがう」


 フレイが、小さく首を振る。


「飛んでない……」


 その言葉に、視線が集まる。


 フレイは、トールを見つめたまま――


「……落ちて、なかった」


 空気が、変わる。


「……そうだな」


 静かに、答える。


 もう、疑いようがない。


「ルシアン」


 ミレイユが呼ぶ。


 今度は、迷いのない声だった。


「ああ」


 頷く。


「――アイリーンを呼ぼう」


 その決断は、遅すぎたのか。

 それとも、まだ間に合うのか。


 答えは、まだ分からない。


 ただ一つ、確かなのは。


 ――もう、“いつも通り”ではいられないということだけだった。


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