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黒と白、分けられない者。善と悪の共存ー聖女の母と副団長の父に愛された子供たち、そして“魔王の生まれ変わり”が目覚めるまでの物語ー  作者: ココアバナナ
第一章 聖女、今日も騒がしい。

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第十話「副団長の娘は剣を振るう。」


 王立騎士団本部――訓練場。


乾いた金属音と掛け声が、絶え間なく響いている。


「副団長!!お疲れ様です!!」


 門をくぐった瞬間、飛んでくる敬礼。


 いつもの光景だ。


 だが――


「メリアちゃん来た!!」

「フレイくんもいる!」

「トール様ぁぁ!!」


 ……おい。


「ちょ、順番にだ順番に!!」

「抱っこは俺が先だろ!!」

「いや俺だ!!」


 騎士団、統制とは。


「お前ら仕事しろ」


 低く言うと、ぴたりと止まる。


「……後でな」


 ――わちゃわちゃ再開するな。


「わーい!」


 メリアが駆け出す。


 慣れた足取りで、まっすぐ訓練場の中心へ。


 ミレイユが治癒院の仕事で手が離せない日は、こうして何度も連れてきた。


 騎士たちにとっても、顔馴染みどころか――


 ほとんど身内だ。


「今日は剣ふっていい!?」


 開口一番それか。


「仕事の邪魔にならない範囲ならな」


「やったー!」


 フレイは静かに周囲を観察し、


 トールは隅の木陰でご機嫌だ。


 その時。


「おいルシアン」


 低く、よく通る声。


「書類は終わったのか」


「終わってるわけないだろ。お前の分もあるんだぞ」


 振り返る。


 金髪に金の瞳、褐色の肌。

 王立騎士団団長――レオン・ヴァーノン。


「レオンおじちゃん!」


「だからおじちゃんじゃない」


「レオンおじちゃん!」


「やめろと言っているだろう」


「レオンおじちゃん!」


「……」


「レオンおじちゃん!」


「……好きに呼べ」


 ――四連敗。


 騎士たちが肩を震わせている。


「メリア、剣やるんだろ」


「うん!」


 レオンが木剣を手に取り、軽く投げる。


 受け取る。


 その動きに、一切の無駄がない。


 軽く振る。


 ――空気が鳴った。


「……ほう」


 レオンの目が細まる。


「構えてみろ」


 言われるままに構える。


 小さな身体。


 だがその立ち姿は――妙に“出来ている”。


「来い」


「うん!」


 ――踏み込む。


 その瞬間、メリアの足元にふわりと風が巻いた。


「……!」


 一歩が、軽い。そして速い。


「はぁっ!」


 一気に間合いを詰める。


「ほう――!」


 レオンが受ける。


 だが、その目が鋭くなる。


「風か」


 メリアの足元には、淡い風の流れ。


 地面を蹴るたびに、加速する。


「パパのまねっこ!」


 無邪気な声。


 だが――

 やっていることは無邪気ではない。


 踏み込み。

 加速。

 間合い操作。


 すべてが噛み合っている。


「おい……今の動き」

「副団長と同じだぞ……」


 騎士たちがざわめく。


 レオンが踏み込む。

 重い一撃。


 ――だが。


 メリアの姿が、ぶれる。


「っ!?」


 風で軌道をずらした。


 完全には避けきれない。それでも致命は外す。


「いいな……!」


 レオンの口元が歪む。


 再び打ち込む。


 メリアは風を纏い、食らいつく。


 小さな身体。

 未熟な剣。


 それでも――


 “戦えている”。


「……やめだ」


 レオンが剣を下ろした。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をするメリア。


 その目はまだ折れていない。


「今のは誰に教わった」


「パパ!」


「だろうな」


 ぽん、と頭に手を置く。


「風の使い方は粗いが――」


 一瞬、間を置く。


「筋がいい」


「ほんと!?」


「ああ」


 ぱっと笑顔が弾ける。


「パパ見てた!?」


「ああ。全部しっかり見てたよ」


 頭を撫でる。


 汗で少し湿った髪。


 周囲の騎士たちも、どよめいていた。


「将来やべぇぞあれ……」

「副団長の後継ぎか?」

「いや団長級だろ……」


 ……気が早い。そもそも危険だから俺は反対だ。


「ルシアン」


 レオンがこちらを見る。


「いい娘だな」


「ああ。自慢の娘だ」


 その時。


「あぅー!」


 トールが声を上げる。


 いつの間にか木陰から抜け出し、よちよち歩きで進んでいた。


「おい待て」


 武器棚の方へ向かう。


 ――その瞬間。


 影が、わずかに揺れた。


「……?」


 一瞬の違和感。


 だが、次の瞬間には消えていた。


「トール様ぁぁ!!」


 騎士が素早く回収する。


「確保しました!!」


「お前は何の報告をしてるんだ」


 思わずため息が漏れる。


 笑い声が広がっていた。


 メリアは誇らしげに笑い、


 フレイは静かにそれを見守り、


 トールは無邪気に手を叩く。


 騎士たちもまた、楽しそうに笑っていた。


 ――ああ。


 ここもまた、守るべき場所だ。


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