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ミレード城の戦い


 アルバたちが帰ってから、二週間がたった。

 私の中の多幸感はいまだ衰える兆しがない、目を閉じれば、まだアルバとのたった数日の記憶が鮮明に映し出される。


 私は今、学校を飛び出して買い物に来ていた。

 たまには幸せのおすそ分けでもしようと、子供たちに肉まんでもご馳走しようと思ったのだ。


「先生、なんかずーっとにこにこしてるよね」


 荷物持ちに連れてきた、籠持ちのルシュが見上げてくる。ふと思ったが、私はもしかしたらこの子が一番話しやすい相手かもしれない。かなり年下の友人という感じだ。


「んー、ちょっといいことがあったからね」


「ちょっとじゃそんな続かないよ。晩御飯にお肉いっぱい出た時でも次の日には忘れてるよ」


「ま、まあ食べ物みたいな一過性のものとは少し違いますから」


「ふーん」


 少し難しい言葉を使ってしまったせいか、ルシュは両手を頭の後ろで抱え、地面に事がる小石を蹴った。

 蹴った小石がころころと不規則に動き、ぴたりと止まる。


「じゃあなに、女の人でもできたの」


 子供というのは単純だ。おいしいものを食べる、好きな人と結婚する。大体この二つを幸せの形として捉え、それ以外の意識が薄い。


「できてませんよ。この間君の従姉に振られたばかりだよ」


「え? 先生が振られたの? 姉ちゃん言ってたよ。先生には他に好きな人がいるみたいだから私なんて相手されないって」


「あー、うん。好きというか、会いたい人はいたんですけどもういいんです」


「なんで? その人に振られたから?」


「いえ、ただ文字通り住む世界が違うので。私はもうここから離れられないので」


「遠距離恋愛ってうまくいかないんだね」


「よくそんな言葉知ってますね⋯⋯でも残念ながら恋愛にも至ってないのです」


 自分の半分ほどしか生きていない子供に何を話しているんだと、ため息をつきながら、お目当ての肉まんが売られている店にたどり着いた。

 店が立ち並ぶ商店街の中にあるその店は、いつも店頭で蒸籠(せいろ)から肉の匂いと蒸気をあふれ出している。

 通りかかるたびに食べたくなるのだが、大体私はお金を持たずに出歩くのでいつも歯噛みしながら店の前を通り過ぎるのだ。


 店主に人数分の肉まんを注文すると、驚きが入り混じった高らかな声で「はいよっ」と肉まんを用意してもらい、お金を払った。

 肉まんをルシュの持つ籠に入れて帰ろうとしていると、突如場内に銅鑼の音が鳴り響いた。


「なにかあったのでしょうか」


 銅鑼は西の城壁の上の楼閣から響いている。城壁を見上げてみれば、見張りの兵士たちが集結し、あわただしくなにやら動いている。

 町の皆の意識も、城壁に向けられ、待ちゆく人々の足が止まる。

 当然だろう。あれはこの城の近辺で異変が起きた時に鳴らす銅鑼で、私はここで生まれてから、一度もその音を聞いたことがなかった。


 また鈍い音が鳴り響くと、城壁の兵士がひとり、慌てて階段を下りてどこかへ立ち去って行った。


「なあに先生、どうしたの」


 ルシュが袖をつかみながら、不安そうな顔をした。私だって初めてなのだ。この子が不安に思うのは当然だろう。


「大丈夫ですよ。多分、外で火事か何かがあって間違えて鳴らしたのでしょう、それかちょっとした賊でもでたのか」


 安心させようといったのだが、逆効果だったのか、ルシュの顔がこわばる。


「安心してください。もし悪い人が現れたとしても、兵士の皆さんが戦ってくれますから。君も知ってますよね。この国の軍の強さは」


 ルシュの顔が弛緩し、若干の怯えを残したまま頷いた。

 肉まんの入った籠を持つ冷たい手をそっと両手で包み込みながら、笑いかける。


「じゃあ、さきにこれを持って学校に帰ってみんなと食べていてください。先生はちょっと、野次馬になってきますから」


「⋯⋯わかった」


 ルシュは踵を返すと、籠を揺らしながら走り去っていった。


 さて、いったい本当に何が起きているというのか。

 続々と城壁に集まる兵士たちを見る感じ、ただ賊が暴れているというだけでもなさそうだ。


 周りに人が集まり、不穏な空気が漂い始める。 

 そんな中、人々の隙間から、城壁へ向かって走る太守の姿が見えた。


「太主様?」


 気が付くと私は、太主に向かって走り出していた。

 あまり移動は早くなく、城壁の手前で追いつき、息を切らしながら私はその人を呼んだ。


「太主様っ」


 白髪と白い顎ひげを蓄えた太主が振り返ると、そばにいた兵士から睨みつけられる。


「おお、そなたか」


 だが太守は対照的に、友好的な面持ちで私の呼びかけに答えた。だがその表情には、切羽詰まった強張りがみられる。


「何があったのです」


「⋯⋯話している暇はない。そなたもくるんだ」


「!? は、はい」


 本当にただ事ではないのか、太守はそう言って城壁への階段を上り始め、私も後に続いた。


 城壁の上に集まった兵士たちの視線が、太守に集まる。

 皆不安の色を隠せていない。あるものは口を震わせ、あるものは歯を食いしばっている。


「あ、あれは⋯⋯」


 そんな兵士たちの向こう側、はるか西北に広がる険峻な山々を見て、私は絶句した。


 黒い小さな集まりが、列をなして山を下っている。ほんのわずか見える大行列。

 隊列をなし、いったいどこまで続くのかわからないほどの集団が、山の向こうから続々と姿を現す。


「あれは⋯⋯シーナの軍勢!? なぜだっ!? なぜっ」


 私の隣にいる太守も驚愕の様子で、声を掠らせながら叫んだ。


「わかりません。ただあの数、ただ事ではないと思われます」


 兵士のひとりが太守に告げる。

 そうだ。ただ事ではない。

 あの山の向こうには、シーナという国が広がっているが、今まで私が生きてきた中で、いや、記録に残る限り、あの山脈を超えて攻めてきたことなんてない。

 だがあの黒い軍団は、間違いなく鎧を身に着け、武器を持ってここにやってこようとしているのだ。

 理由は赤子でもわかる。この国を攻めるためだ。


 だがなぜ、なぜこんな無謀なことをシーナは仕掛けてくるのだろうか。

 数々の国を攻め、滅ぼしてきたこのカリスタン王国だが、シーナとの戦闘は小規模なものを除けば記録にない。

 理由は単純で、あの山を越えて攻めるのが兵站という観点からみて困難なことと、カリスタンが兄弟でシーナがどうにかできる相手ではないからだ。


「とにかく! 速やかに兵を招集しろ! それと城の外の住民を全てこの城に避難させるのだ。それと都に救援を要請しろ」


「はっ」


 太守の命令を受け、速やかに兵士たちが任務に移る。


 本当に、あの集団はこの城を、この国を攻めに来たのだろうか。

 受け入れられる現実ではないが、きっとそれが真実なのだろう。

 

 私には、何事も起きないように祈るほかない。



「アルバ⋯⋯」


 そして同時に彼が帰った後でよかったと安堵した。





 その日の夜には、近隣の村や鉱山の近くの人々が城に避難し、2日後には敵の大軍勢が城に迫った。

 そのおかげか、城内は人が多く、夜も外で寝泊まりをする人間で溢れていた。

 もし母親が居なければ、何人かは家に泊めていたかもしれない。

 暖かい季節とはいえ、夜風に晒されて夜を過ごす親子などを見るのは胸が痛んだ。

 


 黒い兜や鎧を身につけ、槍や弓を持って隊列を成して進む軍団を、私は何故か太守の隣で城壁から見下ろしていた。


 古来、戦争になると村は燃やされたり、畑は作物を刈り取られたりするのだが、シーナはそれらにいっさい手をつけなかった。

 おかげで、城外の村は無事みたいで、黒煙が上がったりしたことも無い。


「太守様、あれを」


 敵を見張っていた兵士のひとりが、シーナの軍を指さす。

 軍団の中から、騎馬に跨ったひとりが先行して駆けてくる。

 その者はよろいを身につけず、腰には申し訳程度の剣を差すだけで、ひとり乗り込もうとしている訳では無い。


「使者か、ここから対応する」


 そう言うと、太守ユルドは前へ出て、城壁の際に立った。


 馬を走らせた使者は閉ざされた城門の目の前で停止し、城門を見上げた。

 木綿の臙脂色の服と袴を着ている使者が、声を高らかに放つ。


「我らが将軍の言伝を申す。ミレード城壁の民達よ、そして城主ユルドよ。そなた達に10日の猶予を与えよう。我々に城と兵糧を差し出し、降伏するのであれば誰ひとりの命もとらぬ。だが抵抗するのであれば、この10万の軍勢を持って城を落とす。自分達の運命をよく考えよ。10日後、答えを聞かせてもらおう」


 一方的に話した使者は、言い終えると馬を翻し、背を向けて帰って行った。

 今の使者の声は甲高く、よく響いた。

 だから、城内にも内容が届いたのだろう。

 あきらかに皆動揺し、恐れおののいている。

 彼らから敵の姿は見えていないのに、10万の軍勢という言葉と、城壁に居るこの国の兵達が狼狽することで、その空気が伝染してしまっていた。


「太守、いかがなされますか」


 ひとりの兵士が、胸の前で握りしめた右手を左手で包む、拱手の姿勢を取ったのを皮切りに、周りの視線が太守に集まる。


 この城や地域での物事の決定権は太守にある。

 太守の決定に逆らえるものはいない。後で国王からとやかく言われる可能性はあるが、今この場で判断するのはこのユルドを置いて他に居ない。


 私は、先程の使者の言葉に違和感を抱え、その違和感がなんなのか考えながら、じっと太守を見据えた。


「とにかく、いちど将軍達を我が屋敷に集めよ」


 歯噛みするように太守は言うと、内側に向かって歩き出し、私の肩を叩いた。


「グリヴァン、そなたも来るんだ」


「えっ⋯⋯えっ!?」


 そのまま通り過ぎる太守の言葉に当惑しながらも、呼ばれた以上は向かうしかない。

 人々が混乱する市中を駆け抜け、太守の背中を追って屋敷まで向かう。

 途中、外に出て様子を見に来ていたのだろう。心配そうに城壁を見上げるユイの姿を確かめたが、どうやら私に気づく様子はなかった。


 太守の屋敷に集まったのは、私と太守を含めて6人。皆太守直属の部下なのだろうけども、誰の名前も知らない。

 部屋の四方に灯火がつけられ、我々は黒い机と、その机の上に置かれたこの城と周辺の地図を囲んで立った。


 太守以外の4人の視線が、私に集まる。侮蔑するような、怪訝そうな目つきばかりだ。

 当然と言えば当然だ。私自身がなぜ自分がここにいるのか1番よくわかっていないのだから。


「あの太守様⋯⋯なぜ私がここに?」


 いてもたってもいられず、俯いて腕を組みながら物思いにふける太守に恐る恐る尋ねると、目だけがこちらに向けられた。


「簡単な話だ。そなたの知識を借りるためだ」


「⋯⋯残念ながら、私はこのような有事に対する知識は持ち合わせておりません」


「そんなことはない。歴史は未来に通じるものだ。残念ながら、ここに居る将軍達は実戦経験が無い。だからこの場では、そなたと彼らは対等⋯⋯いや、そなたの方が役立つかもしれないのだ」


 そんなことを言われても、私にこんな大きなことを考えるひとりになれなんて、無茶振りがすぎる。

 そんな私や、皆の不安を払うように、太守は勢いよく机を叩いた。

 乾いた音が響く。皆の意識は、一瞬にして太守に集められた。


「さて率直に聞く。降伏すべきか、戦うべきか。どちらだ」


 さすが太守と言ったところか。怖いほどに落ち着いている。

 私なんて今もまだあれが夢ではないかと、世迷言を考えているのに、もう現実に向き合っている。

 アルバもきっと、似たような感覚の持ち主なのだろう。

 だから賊が現れた時、慌てることも無く向き合えたのだきっと。


 そんなことを考えていると、口髭が茫々に蓄えられた将軍が、胸の前で拳を握りしめながら言った。


「断固として戦うべきです! シーナに降伏などしては名が廃るのみ。見たところ敵はろくな攻城兵器も持っておりません。耐え忍べば必ずや援軍が来ます」


 さすが、将軍というのは勇ましい。自分の命よりも名を取るなんて、私には考えられない思想だ。

 だが、名が廃るという部分は置いても、言ってることに一理ないわけではなかった。

 たしかに、シーナの軍をざっくりと見たところ、破城槌や井闌のような攻城兵器がある様子ではなかった。

 あの山脈を超えなければならないだけあって、そんなものを運ぶ物質的な猶予が無かったのだろう。


「いや、だったら」


 今度はまた別の将軍が口を開く。

 その将軍は好みなのか、左腕に黒い布を巻いている。


「やつらが与えた10日の猶予を利用するべきです。既に都に救援の使者を飛ばしている訳ですし、援軍が来るまでそう時はかかりませぬ。戦いにしてもこの10日間は有効に使うべきです」


 ほか2人の将軍が、頷きながら同調した。


 たしかに、単純に考えればその通りなのだ。

 10日あれば、この緊急事態を知った国は必ず援軍を派遣する。

 10日以内で到着することは無いかもしれないが、戦闘になってもせいぜい数日で救援が駆けつけるのは間違いない。

 そうなれば、この城の軍と救援で敵を挟撃することも可能だ。

 

 だが果たして、そんな誰でも分かりきっているようなことをシーナの将軍が見落とすだろうか。

 さすがに侮りすぎでは無いのだろうか。いやそれ以前に、国力でいえば遥かにカリスタンが勝っているのだ。そんな相手に侵略戦争を仕掛けるのであれば、全体の軍の数というものを頭に叩き込んでおくはずだ。

 でなければ、ただ兵達を犬死させるだけになるのだから。

 シーナの王様や将軍が厭世感情に囚われた破滅志願者なら何も考えずに攻め込んでくるかもしれないが、そんなことまず有り得ない。


 だから、本来シーナのような国力で劣る国が、カリスタンに攻め込める好機があるとすれば、漁夫の利を狙うしかないのだ。

 それも、小さな争いにつけ込むのでは、危険性が高い。なにか大きな動きが必要なはずだ。


 ──ああ、そういうことか。


 私の中に、ひとつの仮説が出来上がった。

 それはとても壮大で、大それた夢物語のようなものだ。

 だが過去に、歴史を見れば前例はある。そして上手くいったこともある。

 その結果、古に存在した大国が弱体化したことがたしかにひとつの歴史的事実として存在した。


 だが、だとするとこの状況は国にとって、そしてなによりこの城にとって窮地という他ない。

 そんなことが現実に起きるなんて、考えたくなかった。


「グリヴァン、なにか言いたいことがあるみたいだな」


 思考を巡らせていると、突然太守からお呼びがかかった。顔に出ていたのだろうか。また皆の意識が私に集まってしまい、身体が石のように固くなる。

 本音を言えば、この場は黙ってやり過ごしたかったのだが、私の杞憂に僅かでも可能性がある以上、献策くらいはしなければならない。


「話してくれないか」


 最終的な判断は太守がすればよい。

 だがその判断のための材料を献上しなければ、私は、この城にある大切な物を失うことになる。


「では不肖セシルからひとつもう仕上げたいことが」


 私は胸の前で握りしめた右手を左手で抑えるように包み込みながら、この城の命運を握る男に相対した。


 言葉を紡ぐ唇や喉が震える。今から言うことは、もしかしたらこの城の希望をそれだけで根こそぎ奪ってしまうかもしれないのだ。


 だが、言わない訳には行かない。戦うにしても降伏するにしても、希望を摘み取るなら、早い方がいい。


「これはあくまでも私の憶測の域を超えませんが、恐らく⋯⋯援軍はきません。そしてシーナも、それを分かっています」


 部屋がザワつく。そんな中、太守だけが冷静に私を見据えていた。


「なんの根拠があってそんなことを言える! なぜ援軍が来ないなどと言える! この国にシーナごときと戦う力も戦意も無いとでも言いたいのか。悪戯に士気を乱すのが目的なら許さんぞ!」


 口髭の将軍が、キッと私を睨みつけながら机を叩いた。その言葉には、この国の住民であり、将軍である誇りや自負がひしひしと感じられる。

 今は机を挟んでいるからいいものの、隣や目の前に居たりしたら激情のまま切りつけられそうな威圧感がある。


「⋯⋯わかりませんか? あなたの言う通りなんですよ。本来シーナ()()()がこの国に攻め込むなんてありえないし、あってはいけないことなんです。この城の西を見てください。あの山々があるんです。もし援軍が来てシーナが撤退するとなれば、被害を出しながらあの雲がかかるような山を超えて国へ逃げなければならないんです。それもこの国に攻め込めるだけの軍勢を抱えて。分かるでしょう。それこそ失敗すればたったいちどの敗戦で国力を大いに損なうほどの、大それた作戦を彼らは今決行してきたということなんです。そしてそれには絶対に必要なものがある⋯⋯それが、援軍が来ないという確固たる確信、いえ、情報です」


 私を威圧していた将軍の腕が、机の下に垂れ下がる。


「太守様⋯⋯あなたほどのお方ならもうお分かりだと思います。なぜシーナがこの国に攻め寄せたのか。いや、なぜ今援軍が出せないのか」


 太守は僅かに眉を動かすと、すぐに答えを出した。


「⋯⋯まさか、諸国がひとつになったとでも言うのか」


「ええ、間違いありません。今この国は、同時に危機に晒されているのです」


 騒々しかった空間が、火を吹き消すしたように静まりかえった。


「では、グリヴァン。奴らの出した10日の意味はなんだ」


「それは万が一の援軍に備えるための準備期間でしょう。10日の猶予を与えながら、城と自分達の軍勢の外側に防塁や柵を築いて備えを固める算段かと。仮に援軍が来たとしても、それほど数は身込めませんので。勝てるという見込みがあるのでしょう。こちらに打って出られるような兵力はありませんので」


「だがそれなら、使者に通告などさせずとも我々を無視していればよいのではないか」


「それはきっと、こちらに考えさせるためでしょう。今のように10日という情報を与え、援軍が来るのか来ないのか、降伏するべきか戦うべきかと混乱させるのが狙いでしょう。もし降伏を選べば城内に入って備えられるという利点もあります」


 太守の顔に汗が滲み出る。

 腕を組みながら、心を落ち着かせようと息を整えているが、汗が止まる様子はなく、どんどん顔も険しく、眉間に皺を寄せている。

 ほかの将軍達も似たような雰囲気だ。

 恐らくは、私の言葉を信じたと言うより、連合軍による大規模な方面軍による進行を事例として知っていたのだろう。

 今の状況と、その連合軍という物を照らし合わせると合点がいき、援軍が見込めないという状況に気が滅入ってしまったのだろう。


「しかし、この城から都まではそれほど遠くありませぬ。なぜ援軍が見込めないと⋯⋯」


 将軍のひとりは援軍が諦めきれないのか、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。


「それは、わしから」


 そう言って太守は顔を上げた。 


「まず第一に、今の国王はそれほど都に敵が迫ることを恐れてはいない。都の壁はこの城よりも高く、兵器や兵士も揃っているからな。それに、軍勢がこのミレード城から来るとなれば尚更だ」


「⋯⋯なぜです?」


 疑問を抱いた将軍が首を傾げる。


「ここは言ってしまえば辺境の地だ。住民も少なければ、畑も小さい。要するに、大軍の行軍を賄えるだけの蓄えは無いのだ。幸い、数十日くらいなら10万の軍勢だろうとも籠城するだけの兵糧は持っているが、10万の軍を養いながら攻勢をかけるだけの余裕は無い。さらに、この城から王都まではほとんど何も無い、いわば不毛の地だ。ただ道が伸び、途中川や丘があるだけで、途中で略奪によって兵糧を確保するのも困難。つまり、この城が落ちても攻勢をかけられる状況にはならない。王は昔からそう考えていた」


 つまるところ、降伏したとしても戦ったとしても、この国の王にとってはさほど気にするところでは無いのだろう。

 この城が落ちたところで、自分に大した影響は無い。

 方面軍の進行に加え、王がそう考えているのなら、本当に援軍が来る可能性は低い。


 偉そうに高説を垂れていた私にも、その意味がようやく分かり始めてきたのか、心臓の鼓動が早くなる。


「さて」


 鈍重とした息遣いとともに、仰々しい空気が太守の周りに漂う。


「皆の意見をまとめ、このわしが判断を下す」


 いつもは温和な太守の顔が、武人のものへ豹変する。周りの将軍たちの固唾を吞む音がした。


「我々はこれより、シーナに対して――」








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