倒す策では届かない
やっとこさ投稿できました。一か月ちょい待たせしまったことを前書きで謝罪します。すんませんでした。
週に何回か投稿できていたあの頃はよかったよ・・・。ということで48話です。
50話まで後2話。この対抗戦もあと2話で終わります。終わらせます。頑張ります。
「黒谷!」
一条達を探して職員棟の二階へ来ていた俺の後ろから声がかかる。
その声の持ち主からして、どうやら探し人は存外に早く見つかったらしい。
「一条、菱田」
それは俺の予想通り、一条は俺と別れてから恐らく早々に菱田と合流を果たしたのだろう。静城に見つかる前にこうしてチームが合流できたのは良いことだ。
これで少しでも静城に勝てる可能性が広がった。
「よかった、何とか逃げることができたんだな」
「うん、それだけでも十分凄いよ! 途中で凄い音してたし、負けちゃってもおかしくなかったのに」
流石にあの規模の戦闘だ、音だけでも隣の校舎である職員棟の方まで十分に届いていたのだろう。
戦闘に直接関与していない菱田からすれば、それこそ俺が一方的に攻撃されているように思ったとしても不思議ではない。
実際は逆であったのだが、それでもあれだけのことをしても無傷なのだから恐ろしい。
「まぁ正直運に頼るところも多かったから、今回のは紛れもなくまぐれだけどな」
「それでも逃げ切ったんだ、誇っていいと思うよ」
一条はそう言うが、俺自身納得がいかなかった。
確かに、ランカー二位である静城相手に意表を突く形とはいえ逃げ切ったことは賞賛に値するといっていいのかもしれない。
それがどれだけ凄いことなのかと聞かれれば答えることは難しいが、静城の実力を知っているからこそそれはとても大変なことなんだろうと思う。
だが、その結果に納得がいくかどうかは全く別の問題だ。
俺は静城に言った。逃げるのは間違いではないと。
だが、逃げるだけなのは手放しに賞賛できない。
逃げるのはいつだって簡単だ。人間、その気になればどんな状況であっても逃げることだけは最悪可能なのだから。
問題は、逃げて学習したうえでどうするか。
静城を相手に発破をかけた手前、ただで帰れる訳がない。
今のままで静城の前に戻れば、今度はあらゆる手段が対応され手も足も出ずに敗北するだろう。
それは直に対峙して、制限があるとはいえ戦ってみた時に感じた、正直な感想だ。
素の状態で、『アクセス権』なしに勝てるとはとても思えない。
そんな相手に無策で突っ込むのは馬鹿のやることだ。だからこそ人は策を練る。
「そんなので誇れるかよ、こっちは手加減されてる身だぞ」
「それでもだ。あの状況で静城さんから逃げ切ったことは素直にすごいことだよ」
「チッ……」
やりにくい。
一条は良くも悪くも他人の意見には肯定的だ。
たとえそれが間違いであったとしても、どうあれ肯定だけは忘れない。
だからこそ、俺からすればやりにくいことこの上ない。
一条は確かに俺のクラスの中ではダントツで優秀だ。およそ考え得る「クラスの中心」たる人物を素で行っているという、所謂クラスカーストの最上位。
一言一句、ただの一言でもクラス全体を大きく動かす影響力のある人物。
だが、それでも静城には勝てない。
コイツは初め作戦を立てて対応することによって、ルールによって制限の掛けられた静城を追い詰めようと考えた。だが、それは土台から崩された。
一回切りの切り札を初手で使い、学校内に固まっているチーム全てを分断した。
つまりは結果として、チームが揃っていることが絶対条件であった一条の作戦はその瞬間完全に崩壊したのだ。
それは誰の所為でもなく、誰の落ち度でもない。誰がそんなことを予想できただろうか。
俺もいくらか可能性は考えてはいたが、それでもまさか初手で使うとは思わなかった。
けれどそれを抜きにしても、例え初めに静城が分断をせず、作戦通りに事が進んでいたとしても、静城を倒せただろうか。
俺はそうは思わない。
漁夫の利を狙おうにも、静城と拮抗、ないし良い勝負ができる奴がいなければそれは成立しえない。
そうなると、今考えられるのは藍田翔子あたりが妥当だが、俺の時のように果たして本気を見せるか?
そもそも、さっき聞いた放送で恐らく藍田は静城に負けている。
漁夫の利を狙うということはつまり相手の消耗が必須だが、静城が消耗している様子がどうにも想像しづらい。
それに、制限が掛かっているとはいえ、静城は十メートルの範囲ならその空間を知覚できる。小細工は効かない。
初め聞いた時から感じていたことだが、一条の考えた策では静城には届かない。
最低でも、あの静城の不意を突く必要があるだろう。
「それで、だ。このまま向かっても負けるのは目に見えてるが、どうする?」
「どうするって、それはまた策を考え直すしかない。最初の作戦は俺達の他に生き残ってるチームがいること前提の話だ。今の状況じゃそれは難しいからね」
「別の策っつっても、今いる三人で出来ることで、かつ静城の不意を突けるものじゃなきゃ勝てない。あいつは空間を知覚できる。ちゃんと解ってるか?」
「解ってるさ。大丈夫、俺と菱田、それに黒谷で話し合えば絶対に」
あぁ、これだ。
俺が苦手としているのは、この短絡的思考だ。
一条は確かに優秀だ。それは誰もが認める事実。だが、その先へは決していけない。
優秀からその先へ。誰もが謳う天才だ、などと口が裂けても言えないのだ。
それは一条の性質から来る、肯定性が生んだ過ちがそれに拍車をかける。
いつも、一条は教室で雑談をしている時、よく他人の話に共感している所を見る。共感は人と話す上で他人の話を引き出す大切な要因だ。
共感は自己肯定感を満たしてくれるから。
餌を与えられた犬の様に、もっと、もっとと、その共感。肯定感を味わうために話を膨らませる。
一条は聞き上手。
少しでも一条の事を知っていればおのずとわかる。一条の評判を占める優しい、優秀だという評価はこれに起因する。
聞き上手だから、他人に対する肯定を忘れない。
聞き上手だから、一条は自分の意見が否定されることが少ない。なまじ優秀だからこそそれに拍車がかかる。
だから、一条は自分が間違っていることに気づくのが遅い。
「一条、言っとくがそれは間違いだ。お前は静城のことを正しく認識できてない」
「ッ! そんなことない。少なくとも、黒谷よりも俺はこの対抗戦で静城さんを見てきた」
「だからと言って、お前が正しいとも思えない。お前が考えた策じゃ温過ぎる」
一条は、恐らく俺の抱いている危惧が分からない。話し合うことの愚かさが分からない。
話し合うことは確かに重要だ。それは認める。
だが、今の状況で話すことはいかに静城を倒すかということじゃない。間違ってもその方向で考えてはいけない。
「あ、あわわ……二人とも落ち着いて……」
「悪いな菱田、こればっかりは譲れない」
「うん、それには同感するよ。けど、俺の策じゃ温いっていうのはどういうことだい?」
やはり、一条は解っていない。
「簡単だ、一条。お前の考える策は静城を倒す策だからだ」
「……は?」
顔をしかめて、一条はこれまた理解ができないといった風にこちらを見やる。
「一つ、お前の勘違いを正す。静城を倒すことは不可能だ」
「じゃあ、静城さんに勝つことはできないって言うのか!?」
俺の言葉を聞いて我慢できなかったのだろう。一条は叫ぶ。
「そりゃ普通にやれば静城さんに勝つなんてことはできない。そんなことは俺だって解ってる! だからこの対抗戦で勝とうと頑張ってきたんだ」
あぁ、その評価も、その頑張りも認めよう。
だが、お前はそれを消化しきれていない。
「この対抗戦なら、静城さんに制限が掛かる。だから今しかない、今しか勝機はないんだ。そうすれば、俺はやっと――――――」
そこまで言って、一条はハッとしたように俺を見る。
その表情は、まるで叱られた子供だ。
焦っているかのように、一条は自らの内心を吐露した。
一条なりに、自分の状況に不満があったということだろう。
「……一条くん」
だが、俺には関係のない話だ。
「そうだな。対抗戦なら、静城に制限が掛かる。その通りだ。今しか勝機が無い。その通りだ」
一条の言うことは、決して間違いではない。単なる事実だ。
一条が間違えたことは、唯一その事実の捉え方と言った所だろう。
その事実を踏まえて、考え出した答えは、まだ一歩足りなかった。これはそういう話だ。
「だから、考えるべきはあの静城相手にどうやって隙を作るか。その一点だ」
「「隙……?」」
一条と菱田の声が重なった。
「相手は可笑しいくらいの格上。更には<空間操作>の性質上、例え視界が塞がれていたとしても静城は周辺を知覚することができる。だからこそ、考えるべきはその上でどうやって隙を作るか。この一点に限る」
「あ……、そうか……そうだな」
静城の隙を作るのは極めて困難。寧ろ、どうやって作るのか聞きたいくらい、それは至上の難題と言っても過言じゃない。
だからこそ、話し合うべきはそこなのだ。
三人寄らば文殊の知恵。
ここにいる三人だけで静城の隙を作り出し、その左腕に取り付けた腕章をはぎ取る。
そこに一切の妥協は要らず、あらゆる環境を使い潰す。
そうでなくては、あの天井人には勝てない。
「黒谷、力を貸してくれ」
俺は、一条駆が苦手だ。
けれど、だからといってそれを理由に話さないとか、そういう愚行を犯すつもりはない。
でも、苦手なりに付き合い方というものはあるのだろう。
俺にとって、一条はその範疇にいる。それだけのことだ。
「ああ、詰将棋の時間だ」
見ているものは同じ。今だけは、崩されてはいけない弱点でもあり、よく切れる刀である。
ならば、それを利用しない手はない。
それでこそ、いつもの俺だ。
◆◆◆
視界を埋め尽くした、白く、それでいて通常のそれでは考えられない強度を誇る骨。
それは確かに一瞬の隙を生み出した。
それが肥大化する瞬間は、言葉では尽くしがたい悍ましさが体を駆け巡る。
人体から膨張した骨が迫ってくるんなど、誰が予想できようか。
そこから解るのは、黒谷蒼太はまだ隠している手札が存在した。ということだ。
幸運なことに、それは攻撃としてではなく時間稼ぎとして作られた壁であったからか、風香が晒した隙に付け込める者はいなかった。
驚きはしたが、それだけだ。
次は何が飛んでくるかは分からないが、同じ轍を決して踏むことはない。
あれから経過すること十数分。
風香は気負うことなく、気の赴くままに歩みを進め、既に一階から二階へ、そして更に現在は教室棟から職員棟へと折り返した所だ。
そうして散策を続けて感じたのは、避けられているという確信だった。
いや、なにも気色悪がられて避けられるとかそういうのではなく、言わば肉食獣から逃げる草食動物と言ったところだ。
風香はルール上、十メートル程しか空間を知覚することが出来ない。
だが、それは十メートルの範囲なら壁の向こうだろうが床下だろうが、はたまた天井だろうが、意識を向ければ誰がいるのかが分かる。分かってしまう。
初めは結構遠くに逃げたのだろうと感じていた風香も、数分と経っていても知覚する範囲内に欠片も入らないことには違和感を覚えざるを得なかった。
結果、まず疑ったのは蒼太のコピーしていると言っていた能力についてだった。
自分が聞いた限りでは、蒼太は有用だと思った能力を『アクセス権』を用いてコピーいていると言っていた。
ならば、遠見真司の持つ<千里眼>をコピーしていても不思議ではないと思ったのだ。
実際、地下鉄事件の時にそういうようなやり取りを遠見としていたのだから、その信憑性は高い。
もしそれが正解ならば、<千里眼>を使って逐一自分を監視して知覚範囲から外れて移動する程度の事は簡単にやってのける。
恐らくはそうやって策を練っているのだろう。
自分を倒し得る策を、恐らく蒼太が主体となって。
それは漠然とした確信だった。
だが、それは風香にとっては最早当然の帰結と言える。
一条駆では、自分の脅威を正しく認識していないため決定的な策を考えることが出来ない。
他のメンバーも同様に、意見は出来ても、策を考える所までは行けない。
それが、風香の持つ所感だ。
今までの対抗戦から裏付けされた、蒼太以外全ての代表メンバーに対する印象の殆どがコレだと言っていい。
何せ、単純に詰めが甘い。
まるで侮っているかのように、風香の能力に対する理解が薄す過ぎる。
その程度で、折れる私ではない。
その程度で、負けてやるほど私は優しくない。
そんなもので超えられるほど私という壁は低くない。
故に、風香は一度逃がした蒼太に対して悔しさを持ちながら、同時に大きく期待を寄せていた。
制限された状態とはいえ風香は本気だった。しかし、それを不意を突かれたとはいえ一度蒼太は逃げ切った。
なら、次は何をしてくるのか。風香は全く予想がつかないでいた。
不意打ちは空間の知覚によって不可能。能力によるゴリ押しは風香の<空間操作>が一歩勝る。駆や葵のような能力では、良くて変則的な動きを高速で繰り返して近づくくらいだが、それも空間の知覚や<空間操作>という能力の圧倒的なアドバンテージが覆ることはない。
他のクラスの代表を頼ろうにも、知覚した代表者は全て失格へと導いた。最早残っているのは二年三組。つまりは蒼太のクラスただ一つ。
つまり、次に攻撃を仕掛けられた時、そして次に何らかのものを知覚した時が、決着の時。
「……次は、容赦しない」
一切の躊躇を捨てて、今できる全てを以て自らの「強さ」を証明する。
そしてそれは唐突に訪れた。
風香から見て、向こう側からまるで浸食するかのようにして「黒」がその全てを覆いつくし、視界を塗りつぶす。
それは、まるで先日の地下鉄事件の様で、当然風香にもその様子には覚えがあった。
それはつまり、蒼太の仕業だ。
「……」
攻撃を仕掛けて来たということは、既に策は始まっている。
十メートルの知覚範囲に人影はいない。昼の十二時近くだというのに真夜中のように真っ暗になった視界でも、風香は従前に状況を把握することが可能。
風香にとっての暗闇は障害足り得ない。
だが、当然油断はしない。
今持てる全てを以て打倒する。
依然変わりなく、風香は最後の敵へと向かう。
それが例え真っ向から策へ飛び込むような愚行であっても、歩みをを止めることはない。
分かった上で真正面から対峙することこそ、本当の強者。
その上で、全てをねじ伏せる。
それが、それこそが、この対抗戦に参加した己の意義なのだから。
面白いと思ってくれればブクマ、感想、よろしくお願いします。作者は犬のようなものなので餌が必要なのです。




