↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/50

二人の決意

どうもよとです。色々あってこうなりました。10月以内に2本出すとか夢物語だったんや……。

 今は天井となった床が完全に修復される。

 蜘蛛の巣の様に広がっていたヒビは最早見る影も無く、数分前と同じように殺風景な廊下が続くだけだ。


 「……」


 その只中で、ようやく俺は向かい合う。


 「……なんの、用?」


 この対抗戦の中、すったもんだと状況が白熱していったが、当初の目的は一向に達成されることが無かった。それが終盤に近いこの段階になって、俺は静城と二人向かい合うことが叶ったのだ。

 ようやくだ、ようやく目的を進めることができる。そのことに安堵と疲労は重くのしかかる。

 

 それは当然、今回のいざこざを終息できるかが決定するのだから。


 「分かってんだろ、朝野の件だ」


 その時、ピクリと静城の手はわずかに動く。

 やはり、薄々感ずいてはいたのだろう。俺がこの対抗戦に参加した理由を。

 そうでなければ、今日も、昨日も、その前も。俺を避け続ける訳がない。


 「……聞きたくない」


 「聞きたくなくても聞かせる。じゃなきゃわざわざここにいる意味が無い」


 「……嫌」


 「ならこのまま逃げ続けるのか?」


 「……」


 静城は答えない。

 拒絶をするばかりで、押しても引いてもびくともしない。

 

 だが逃げるのかと、それを俺が言えたことじゃない。

 全く馬鹿らしいことだが、俺にそれを笑う資格はない。俺と静城どちらがより逃げていたのかと言われれば、間違いなく俺なのだから。

 俺はそれを否定できない。


 「別に否定はしねぇけど」


 「……え?」


 「そりゃそうだ。人間どんな強い奴でもどうにもならない時はしっかり逃げる」


 だからまずは、何人(なんぴと)たりとも須らく拒んでいる静城の態度を改めさせる必要がある。


 「逃げることは別に悪じゃない、それも手段の一つだ。けど、手放しで賛成はできない」


 「……どうして?」


 「逃げることは、結局ただ選択を先延ばしにしているだけだからだよ。それじゃあいざという時に取りこぼす」


 痛い程知っているからこそ、今の言葉は本心から出ていた。

 神託をこなす中で、どうしたって面倒事に行き当たるが故に身に着いた戦闘経験。

 それが積み重なる程、経験をする程俺の優柔不断さに嫌気が指す。


 特に、人と関わる時に顕著に表れる『逃げ』の選択。


 それが良くない選択だとは分かっている。けれども、俺はその選択を選ばざるをえない。

 

 怖いから。


 嫌だから。


 だから、選ばない以外を選びたくない。


 だからこそ今回は紅葉の助けがあって初めて、選ばない選択肢を捨てられた。


 なら、静城にだってその選択肢を捨てさせることが出来るはずなんだ。


 俺が捨てられたのだから、俺よりも強(・)い(・)静城が出来ないはずがない。


 「選ばないことは楽だけど、時には選ばないことが間違いな事だってある」


 「……、蒼太は――――――」


 静城の眉間に皺が寄る。それは今日初めて見せた感情であり、よりはっきりとした拒絶であり、初めて見た――――――


 「――――――蒼太は、強(・)い(・)か(・)ら(・)……そんなことが言える……!!」


 怒りだった。


 「――――――」


 絶句。

 俺の心境をそのまま言えば、この言葉より正確に表したものはない。

 それ程までに、静城が言った言葉は俺にとって少なくない衝撃を与えていた。


 「……蒼太は、私よりも強いから、私が何に悩んでるか……分かってても全然分かってない!」


 口を開けいつもと比べれば信じられない程に声を張り上げている静城に、俺は目を見開いて驚いている。

 

 何に?


 静城が怒りを面に出していること?

 それとも静城の言葉に?


 それとも、自分自身に?


 「――――――ハッ……」


 いや。


 「ハハッ――――――」

 

 いや、断じて。断じて違う。


 「ハハハ――――――」


 俺が、『強(・)い(・)』?

 逃げに逃げて、臆病にも本心を隠し続けてのうのうと生き続けている俺が、事をかいて『強(・)い(・)』?


 「クククク、ハハハハハッ!」


 「……蒼太?」


 「おいおい、冗談か静城? 俺が『強い』訳がねぇだろうが!」


 俺が静城の言葉に驚いたのは確かだ。けれど、それは静城が怒りの言葉をぶつけたことに対してじゃない。

 あの、世界ランキング二位。頂点の一角に追随する世間一般的に言う女王様が、俺の事を『強い』という、その一点に俺は心底驚いた。


 「……でも――――――」


 「『でも』も『だから』も無(ね)ぇ。お前が言うか、強(・)者(・)のお前が」


 「――――――!」


 静城の顔がこれ以上ないくらいに歪む。


 ああ、俺の言っていることは、ただの横暴に過ぎないだろう。

 期待して、羨んで、どうしたって付きまとう事実に対して、俺は反発している。


 友達というものを知らない。


 人と関わることは面倒事の延長線。


 なら、俺が静城に抱いていたものは一体何なんだ?

 簡単な話、期待だ。

 強者は強者足り得る何かを持っているのだろうという、本当に自分勝手な期待だ。強い人間とは、こういった存在なんだろうという、勝手な想像であり勝手な押し付け。


 それを理解(わか)っていても、俺は聞かずにはいられない。

 身勝手だとしても、これは俺の、そして静城の問うべき課(・)題(・)なのだから。


 「……うん」


 その時、変わった。


 静城の雰囲気が明確に、確実に何か別の方向へと変化した。


 次の言葉を紡ごうとした口は閉じ、真っ直ぐ静城を見据える。


 「……私は、強(・)い(・)。だから――――――」


 怒りから、それは一瞬の間を置いて別のモノへ変化し明確な敵意をむき出しにする。


 「――――――私は……私を証明する」


 口元が釣り上る。

 ああ、やっぱり、その選択をできるお前は強(・)い(・)。


 ただ逃げるのではなく、自分自身をその名に違わぬ存在なのだと証明するために動く選択を、どうして弱い人間ができるのだろうか。


 「……だから、それまで、蒼太の話は聞けない」


 成程、成程。

 静城がしようとしているのは、現状からは逃げてはいるものの、それは決して後ろ暗い理由なんかじゃない。

 自分が自分足り得るのだと、それを証明するための清算をこの対抗戦という恰好の舞台でするつもりなのだ。


 「……だから、塚野たちには顔向けできないとでも言うのか?」


 「……」

 

 静城の答えは、沈黙だった。

 それはつまり、言外に肯定を示している。


 ああ、それは確かに静城風香足り得る強者の行動力だろう。俺には真似できない。


 だが、だがだ。それは静城の対応としては正解に近いだろう。だってそれは静城のイメージその物の行動なんだから。

 けれど、それとこれとでは話が別。静城としての行動は正解だとしても、それが必ずしも問題の解決になるとは到底思えない。


 ああ、だからその選択は強者の選択だとしても、声を大にして言おう。


 そ(・)れ(・)は(・)間(・)違(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。


 「オーケー、お前の言い分は理解できた。そこに文句は言わない。たとえあったとしても飲み込むさ」


 だがそれを声に出して言ったとしても、それをゼロから説明したとしても、静城は決して納得しないだろう。


 そもそも、俺が決意を固めた静城を相手に話を聞かせようというのが無茶なのだ。それができれば俺は独りを好んで選んではいない。


 それが出来れば苦労はないのだから。


 どの道、俺が誰かに対して言い聞かせることができるはずがなかっんだ。

 

 「ハハハ……」


 あぁ、笑いが止まらない。

 そうだ。俺がいつもやっていることは言葉巧みに相手を諭(・)す(・)の(・)で(・)は(・)な(・)く(・)、都合の良いように強(・)制(・)させることなのだから。


 はじめから、静城を諭そうと動くなんて無理だった。


 「……蒼太は、逃げなくて……いいの?」


 しっかりと俺を見据えながらゆらゆらと辺りの空間を揺らせて明確な威嚇を見せる。恐らくこれは静城なりの最終警告なんだろう。


 今俺が後ろを向いてそのまま走れば、この話し合いのこともあって見逃す可能性としては高いだろう。

 結果的に見れば、静城は俺と話して新たに決意を固めることができたのだから、その分もあって多少なりとも寛容になっているはずだ。


 だがやはり、万が一を想定して警戒だけは決して緩めてはいない。

 

 その雰囲気は、いつもの静城のものだ。


 いい、乗ってきた。

 今の静城を煽れば、絶対になびく。


 そんなどこか不透明な確信に突き動かされるように、言葉を紡ぐ。

 いつも通り、行動を強制させるために。


 「だったら、取(・)引(・)しよう」


 「……取……引……?」


 表情を動かさずに、静城は言葉を向ける。そして今ので攻撃されなかったのは僥倖だ。

 さっきまでの精神状態を考えれば今ので排除に動いても不思議じゃなかったが、ああとても良い。


 「そう、取引だ。この対抗戦でお前が勝ったら朝野の件で詰め寄ることをやめる。塚野たちにも俺が口添えすれば追及も多少甘くなるだろう。だが、俺(・)が(・)勝(・)っ(・)た(・)ら(・)――――――」


 だからここで畳み掛ける。


 そういつものように、相手に強制させるのだ。


 俺の、理想の方向に。


 「――――――朝(・)野(・)と(・)話(・)せ(・)!」


 その瞬間、俺は後ろに飛び退き走る。


 <高速移動>まで使って全速でその場を離脱した訳は、当然静城だ。


 俺の言葉を聞いた瞬間、威嚇として揺らいでいた空間は突然としてその動きを停止させ、霧散する。

 だがそれよりも、特筆すべきは凄(・)ま(・)じ(・)い(・)速(・)度(・)で(・)真(・)っ(・)直(・)ぐ(・)こ(・)ち(・)ら(・)に(・)向(・)か(・)っ(・)て(・)く(・)る(・)静(・)城(・)だ。


 火に油を注ぐようにして思い切り発破をかけたが、その効果は果たして想像以上だった。

 捨て身のように一直線にしてこちらに迫るのは、完全に調子を取り戻した女王(静城風香)。


 了承の言葉は無くとも、その態度、行動はそれを物語る。


 だが――――――、


 「あぁ、やっと本調子だ」


 そうであって初めて、俺と静城はこの勝負に集中できるのだから。


 「……!!」


 静城が手を伸ばす。その目的は当然、俺の確保。


 「クソっ」


 先ほどと同じように、俺の動きを停止させるつもりだろう。だが、だからと言ってまた同じようにそれを回避できるものだとは到底思えない。


 逃走の為に全力を裂いている今、同じように逸らせようとしても簡単に弾かれるに違いない。

 それに、完全に本気となった静城がそれを許すとも思えない。


 つまるところ、当たってしまえば抜け出すことができない致命の一手の完成だ。

 

 「やってくれる……!!」


 だが、それをただ躱すだけではいずれ当たるのは自明の理。こちらも何か一手を打たなければ不利なのは変わらない。


 「なら……」


 <空間操作>を使ったとしても俺じゃ静城には勝てない。

 それがわかっているからこそ、俺は<空間操作>ではない別の能力を作用させる。


 「これでどうだ!」


 俺はそのまま身を翻し後ろを向いた瞬間に、思い切り右腕を振るった。

 その瞬間に巻き起こったのは、災害の様な轟音と衝撃。振(・)動(・)。


 辺りの校舎、教室は一切の例外なく崩れ去る。その範囲およそ十五メートル。


 「これで多少は――――――」


 <振動操作>による、俺が持ちうる全力の攻撃はさながら一個の災害だ。足踏みを強化することで簡易的な地震すら起こしうる能力で俺を除く一定範囲内の空間に強い振動を作用させ辺り一面を吹き飛ばしても、決して安心はできない。


 「――――――足止めにもならないか……」


 あれほどの衝撃を受けても、あれほどの崩落を受けても、あれは、静城は依然として真っ直ぐ俺を見据えていた。

 やはり単純な暴力なんかでは静城には無意味だ。


 だが――――――、


 「まぁ、当たり前だな」


 それはある程度想定していた。冷静になった静城がどれほど厄介か、俺はそれをよく知っている。


 「あぁ畜生、まさにラスボスみたいだよ。純粋な実力じゃ背伸びしたって届きやしねぇ」


 「……諦める?」


 「まさか。勝算がなきゃあんな大それたことなんざ言う訳ねぇだろ」


 「……なんか、いつもより乱(・)暴(・)」


 ――――――。


 「……そう、か?」


 「……うん」


 ああ、やはりどうやら俺が思うよりも、俺はすこぶる調子が良いらしい。

 口より良く喋るとは、俺がよく揶揄(やゆ)することだが、どうやら俺も人のことは言えないらしい。

 俺はきっと、この状況を誰よりも楽しんでいる。


 だから多分、俺は今も笑っているんだろう。


 「軽蔑するか?」

 

 「……全然、むしろ……とっても楽しそう」


 そう言って、静城も笑う。

 

 今日という日はどうやら、本当にもう一度あるかどうかも怪しい稀な日だろう。

 静城が始めて感情を表にさらけ出し、多少とはいえ、この日を通じて俺は本心から素の姿で言葉を交わし、それに呼応するように俺と静城は互いに互いを倒すために傾倒する。


 俺がここまでこういった催しに本気を出すなんて今日という日が来るまでは絶対に無いと思っていたが、今だけは違う。


 本当の意味で自分を晒し、本当の意味で俺は真に他人と向き合っているのだから。


 「ああそうだな。楽しいよ、すごく」


 それがたとえ絶望的な状況だとしても俺は今このときを純粋に楽しんでいる。

 

 ああ、何よりも今、制限されているとはいえあの静城と今後を賭けて本気で勝負をしている。その感覚がなんとも心地の良い満足感と充実感を生んでいる。

 そんな実感がこの場を支配している。


 「だからこそ、今ここでやられる訳にはいかない」


 「……どうやって?」


 静城は崩れ去った瓦礫を背に立ち、階段の方にまで走ってきた俺を追い詰める。

 どれだけテンションが高い状態だと言っても、この現状が変わるような都合の良い事実は存在しない。


 静城はその事実を俺に突きつける。


 「無理に思うか?」


 「……少なくとも、あ(・)の(・)能(・)力(・)を使わない蒼太じゃできっこない」


 ああ確かに『アクセス権』は全てを土台からひっくり返す虎の子だ。それが無ければ俺はこの場に立っていないとすら言える。


 だが、俺にだって模倣した能力の中でも静(・)城(・)に(・)見(・)せ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)能(・)力(・)は(・)あ(・)る(・)。


 「なら、この一度限りだ。できれば使いたくないものだが今になってまで手段を選ぶ余裕はないからな」


 今から静城が目にするのは、本当にただの一度も、高校に入ってからは一度たりとも使っていない初見殺しの能力だ。

 例え実力が高かろうと、これだけは隙が生まれる。


 「そら、ご開帳だ」


 さあ、ただ真っ直ぐ刮目(かつもく)しろ。


 「――――――!!」


 その瞬間、静城の視界を覆ったのはこの空間を埋め尽くさんとする『骨(・)』の改進。

 

 <骨操作>。

 自分の骨、または触れている骨を自分の意思で操作することのできる能力。


 手のひらから発動させたそれは<高速移動>で走るよりも速く増殖を繰り返してその堅さを維持したままに物量の暴力となる。


 まさに初見殺しというに相応しい攻撃だ。


 だが、先ほどの<振動操作>の時と同様、これが有効打になるとは露ほど思っちゃいない。


 俺がするべきは意識を逸らせる事。作戦を立てるための撤退をする隙を作ること。


 この攻撃の役割はそれに限る。


 だからこそ、この能力を発動すると同時に<高速移動>で離脱した。


 その成果は、ついさっきまで追ってきていた存在の消失と同時に証明され、俺の中には一抹の後悔が残る。


 あの能力だけは、おいそれと使いたくなかったから。


 とはいえ、ようやくこれで対静城に向けて本腰を入れることができる。

 

 それから二度程の確認を経て一階の渡り廊下から職員棟の方へ歩みを進める。

 制限のこと、静城自身の警戒度の高さをかんがみて何かしら手があると信じて、俺は合流しているであろう一条達を探す。

面白いと思ったらブクマ、感想、感想、感想感想オオオ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。