↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/50

妹はよく見ている

 時刻は午後一時を少し過ぎたあたり。

 この時間になると梅雨前とはいえ恐ろしいぐらいに暑い。

 まだ五月。されど五月。

 真上に見える輝かんばかりの太陽さんも今の時点で本気を出さなくてもいいと俺は思う。

 これでまだ季節は春の内だというのだから、七月あたりになれば俺は溶けているのではなかろうか。これはまたエアコンさんに出張ってもらうしかあるまい。

 

 そう、つまりこれはもう五月の時点でエアコンを使う理由に他ならない。何故なら暑いのだから。


 まぁつまり何が言いたいのかというと、今すぐ家に帰りたいということだ。

 だが、そうもいかないのが現実の厳しいところ。


 悲報、食材が尽きました。


 できれば昨日の内に近くのデパートで買い物をしたかったが、それを思い出したのが昨日の昼食時。

 やべえ全然ねえわ、と思ったがなんとか昼夜合わせて二食分はあったので、俺は明日の帰りにでも買えばいいと判断したのである。


 因みに朝食は食パンで済ませた。それが最後の食材である。


 ここのところ紅葉にばかり任せていた関係か、全く食材を確認していなかった俺の落ち度だ。

 何も言わなかったアイツもアイツで悪いかもしれないが、それならどうして俺は土日の内に買い物を済ませておかなかったのか。悔やんでも悔やみきれない。


 どちらにせよ、今日やると言っていた対抗戦の会議は買い物の関係で行けないことは確定していたのである。


 故に、今俺は勝手知ったる、アパートから徒歩数分という良心的距離にあるデパートにいた。


 「えーと…、肉入れた、魚入れた、野菜入れた、それから……ついでに切れかけの菓子も入れた。後は……」


 取りあえず、一週間を目途にこれだと思った食材をカートに積んだ買い物かごの中へ次々と放り込んでいく。

 一週間分と言っても、食べるのは精々が俺時々紅葉とたったの二人。四~五人で食べるのとでは量が違う。

 こういう時、仕送りされている身だとしても一人暮らしは自分の都合でどうにかできる分楽だ。


 「後は……飲料……いや、コーヒー辺りも買っとくか…」


 飲み物は確かまだジュースお茶含めて二~三本くらいはストックがあったはずだ。

 そう考えて、まだ幾分かは余裕のあるインスタントコーヒーを買っていくことにした。コーヒーが好きなのもあるけれど、偶には違う種類のものを買うというのもありかもしれない。


 そうと決まれば、後は実行するだけ。

 丁度インスタントのコーナーに差し掛かっていたのもあって、自然とそちらに向けてカートを走らせる。

 

 「「…あ」」


 そして丁度角を曲がった瞬間、見知った人物と鉢合わせた。

 それも、それなりに珍しい顔だ。

 その人物とは、金曜日に話して以来、暇が無く実に数日振りとなる、妹の紅葉だった。


 「…今日お前テストだったっけ……?」


 「うん、そうだけど……お兄ちゃんも?」


 「まあ……そうだな。時期が被ってるとは珍しい」


 「そうでもないんじゃない? 私は今日からだし」


 成程確かに中学高校でテストの時期は多少のブレはあれど、大体同じくらいだった気がする。

 

 ついでに、チラリと紅葉のかごの中身を拝見。

 すると意外なことに、俺のかごの中身と同じものが複数見受けられた。量からしても、実家分の買い物と考えるには少ないように思える。


 つまり、恐らくだが紅葉が買い物、それも俺の家からほど近いデパートで買い物をしているのは今日来るつもりとみていいだろう。


 「もしかしなくても、買い物の後って寄ってく?」


 「もち。食材もそろそろ切れる頃合いだし、丁度いいかなって。あはは……今度は一報入れます」


 是非そうしてくれ。

 

 「……大体一週間分くらいか。やっぱ兄妹で考えが似るんだな」

 

 「だねー……いやホントごめんなさい。次からちゃんとするからお願いだから睨まないでー……」


 いや、ほんと報連相って大事だと思うの。

 今日だって来るとわかっていれば俺が買い物をしにここへ足を運ぶことなんてなかったのだから。

 

 つまり、ここに合計二週間分の食糧があるなんて俺は認めないし認めたくない。


 「……はぁ、しょうがねぇなぁ。二週間分なら何とかなるだろ、全部買うからそれも持ってこい」


 「おぉ……お兄ちゃんが心なしか男らしく見えるよ! 男前だよー!!」


 余程俺に許されたのが嬉しいのか、わーわーと騒ぎ、ぶんぶんと手を振ってカートを叩くくらいにはテンションが高い。

 それに関しては兄として、嬉しくない訳ではないが、取り合えず俺は紅葉の頭を鷲掴む。


 それに伴い、まるでバラエティ番組のギャグのように紅葉はピタリと動きを止めた。


 「別に喜ぶのはいいが、人目は気にしようか。妹(・)よ(・)」


 「あ、ハイ」


 それから、レジを通して重たいもの、軽いものと分けてそれぞれを俺と紅葉で持つ。

 当然俺が重いもので、紅葉が軽いものだ。


 実にスムーズに袋に詰め込みデパートを後にする。

 合計四つの大きなビニール袋を二人で持ちながら帰り道を歩くのは、実に変な光景ではないだろうか。

 そんなことを考えながら、隣の紅葉が気になってちらりと視線を移すと、そこには―――。


 ビ(・)ニ(・)ー(・)ル(・)袋(・)を(・)浮(・)か(・)せ(・)な(・)が(・)ら(・)歩く紅葉がいた。

 まぁそれなら持つ必要が無いしかなり楽だろう。


 ………いや、いやいや待て。


 「ん? どしたのお兄ちゃん」


 「……いや、まずどっから突っ込めばいい? というか、何故そんな真似ができてんの?」


 紅葉の持つ荷物は完全に、完璧に宙に浮いていた。

 ふわふわと、それはもう見事に。袋だけ無重力空間にいる様な錯覚を覚えるほど見事に浮いていた。

 それも紅葉の動きに合わせて、邪魔にならないよう丁度肩の辺りを引っ付くようにしているため「持つ」必要がない。


 贔屓目に見てかなり楽そうであった。


 「いや~ここまで能力を応用して使えるレベルになるまで結構時間かかったよ。私にしてはね」


 「へぇ……つまりこれは練習すればできるものだと?」


 「言っちゃえばそうかな~。割と難しいけどね」


 そう言いつつドヤ顔を決め見せつけるようにして紅葉は袋を自身の周りをクルクルと動かして見せる。

 難しいといいつつもそれを感じさせないのは、やはりこいつ元来の才能故か、あるいは別の賜物か。

 まぁ、どちらにせよ俺には関係が……あるか。俺だって練習すればできるかもしれない。

 

 紅葉の能力は<振動操作>。これは俺が既に複製した能力の内の一つである。もしも会得すればまた一つ選択肢を増やすことができる。


 「……どうやんだそれ? 見る限り念動力的なものにしか見えないんだが……」


 「うはははは!! そう見えるのなら私も練習した甲斐があるってもんよ!」


 「そうかいそうかい、嬉しそうで何よりだ」


 「……ムー」


 「なんだよ……」


 俺の答えがお気に召さないのかリスの様に頬を膨らまして俺を睨む。

 そんなにかまって欲しいのかコイツ。

 確かにコイツは兄の俺から見て、主観的、客観的に考えて可愛い方だ。遠見とかに紹介するとすれば間違いなく「俺と違って~」とか断りと入れてから可愛いだの顔が整っているだのと言うだろう。

 その結果シスコンだなんだと言われようが、俺はその事実を曲げる気はない。


 そうまでして俺が紅葉のことを高く買っているというのに、更に構えというのかコイツは。


 「もう少し驚いたりとか褒めたりとか無いの? これって結構苦労したんだけど」


 「悪いがその苦労を俺は知らないからな。何とも言えねぇよ」


 「……ふーん。じゃあ、これをする方法とかもお兄ちゃんは興味ないの?」


 おっとそれは卑怯だぞ妹よ。

 俺がそんないくらでも応用が利くような使用方法を知りたくない訳がないだろうが。


 なら、こっちにだって考えがある……。


 「お前の誕生日、来月だったな……」


 「ん? ……は!? まさか!!」


 「チロルチョコ、うまい棒、あわ飴。さて、どれがいい?」


 誕生日プレゼントが惜しければ変な意地なんざ捨ててさっさと情報を吐け。

 やり口が汚かろうが意地悪だろうが、相手が妹だろうが俺がそういう時に相手を前にして手を抜くことは無い。

 俺は、手段を選ばない。


 「汚い! 流石お兄ちゃん汚い! やり口が汚い! ついでに顔が悪い!!」


 「うるせぇ! 兄ってのは世界共通で汚ねぇんだよ! わかったらさっさと教えるがいい。そうすればお前の誕生日プレゼントは定価で千円以上は保障してやろう。」


 紅葉は悔しがった。

 俺の言葉を聞いた瞬間に信じられない物を見たような顔をして、その後顔を真っ赤にして悔しがった様は傑作だ。正に『紅葉』の名に恥じない活躍だったとだけ言っておこう。

 

 「ム~……!!! そういうとこホント最低だと思うしマジ死ねと思うけど、妹である私は仕様が無いから納得します。なので次のプレゼントの内容次第で今後のお兄ちゃんの態度を考えることにするから、そういうつもりで」


 どうやら、今のやりとりは結構腹が立ったらしい。

 紅葉にしては珍しく話す言葉に敬語が混じっている。キレかけている証拠だ。


 数日後、恐らく紅葉によるストレス発散という名のランキングバトルが何回か行われるだろう。

 名も知らぬ誰かよ、全て俺が悪いが俺は謝らない。


 「よし、なら早速教えてくれ。帰るまでの話のタネにはなるだろう?」


 「……はいはい」


 そうして、実演を兼ねた説明が開始した。


 「超音波は分かるよね?」


 「ああ」


 超音波。

 人間では高すぎて感知できない音波全体のことだ。

 それに関連して、音はよく<振動操作>で使うものの一つだ。


 音とは空気の振動で伝わるものであり、その振動が大きければ大きい程比例して音も大きくなる。

 つまりは、能力の性質上「音」は非常に扱いやすいのだ。


 「その超音波を使うんだけど、まずこれを能力で発生させるのが難しい。……まあ必ず超音波を使わなきゃいけないって訳じゃないけど、その方がうるさくないし便利だから。で、どうするかと言うと、単純に超音波を振動させ続けて物を浮かせてるって訳。すごいでしょ!」


 「成程、後はそれを維持するだけか。考えたな」


 一度発生させたものを維持し続けるのは相当難しいだろう。オンオフを切り替えるスイッチの様に一筋縄ではない。ゼロからイチを作り続けるのではなく、イチをイチのまま維持させるのだから精神的疲労はかなり溜まりやすいとみていいだろう。


 「流石天才。努力も発想も俺みたいな凡人とは比べられないな」


 「おっと私何かよりも凄いもの貰ってる人が何を言ってるのかな~?」


 「バカ、貰い物は貰い物でしかないだろうが。シロの力であって俺の力何かじゃないぞ」


 「……でも、それ使って駅の事件も解決したんでしょ?」


 「………」


 紅葉の言いたいことは分かる。コイツは俺の『アクセス権』を、俺の力として俺自身に認めて欲しいのだろう。俺に自信が付くように。胸を張れるように。

 

 紅葉の言う事は最もだ。


 『アクセス権』でシロの力を使わせてもらっている事実は変わらずとも、使いどころを考え、実行して事件を解決しているのは他ならない俺自身だ。間違ってもシロじゃない。

 地下鉄事件を解決したのはシロではなく俺なのだと、紅葉はそう言いたいのだ。


 「お兄ちゃんが動いて十七分くらいでもう解決したから私に言ってた二十分以内は達成できた訳だね」


 「まぁな。今回は余裕だった」


 「そっか。……怪我とか無かった?」


 「見れば分かるだろ? どこも怪我して無い」


 「分かんないよ、だってお兄ちゃんってその場で直すじゃん。それで危ない目にあってても私分かんないだからね」


 「……別に、今回は危なくなかったから簡単に解決できたよ」


 そう言って紅葉から目を離し、前を向く。

 話は終わりだという言外のサインだ。紅葉ならわかるだろう。


 「嘘だね! お兄ちゃんが私に嘘ついた時ってすぐに話を終わらせたがるから。……はぁ、別に私のこと頼ってくれていいのに……」


 「駄目だ!!」


 紅葉の言葉を聞いた時、気づけば俺は人目を憚ることなく声を張り上げていた。


 「……お兄ちゃん?」


 当然それを聞いて、紅葉は驚いただろう。普段の俺を知ってるコイツからすれば有り得ないと思っても無理はない。

 俺が紅葉に声を上げる何て、いつか来るであろう初めての彼氏を紹介される時くらいしか無いと思っていた。

 そう思うくらいには俺はコイツに甘いのだろう。


 「……とにかく、それは有り得ない。お前が出張る必要もねぇ」


 「……でもさ、それでお兄ちゃんが傷ついてたら必要ないなんて言えないじゃん」


 「いや言える。反則じみたものを持ってるから、傷(・)つ(・)く(・)だ(・)け(・)で済んでんだよ。お前に頼れば、それこそあの時のことを繰り返すだけだ」


 もう、紅葉にだけは負担を掛けさせるわけにはいかない。


 「……………はぁ。そういうとこだよお兄ちゃん。やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんが思うよりも優しい、優しすぎるんだよ」


 何を言うと思えば、俺が優しい? どこが?

 人も殺して、傷つけて、打算でしか人と関われない俺が、優しい?


 「おい、冗談だろ?」


 笑いながらそう言う。だがその中でも少し、何かに期待している俺がいる。

 一体それが何なのか俺自身一番分かっていない。

 だが確かに、俺は紅葉の答えに何かを期待したのだ。


 「冗談なんかじゃないよ。お兄ちゃんに冗談でこんなこと言ったりしない」


 「いや買い被り過ぎだろ。俺が優しいとか、どうしたらそんな結論になるんだよ」


 「でも、なんだかんだ言ってお兄ちゃんは頼まれ事は断らないし、結局他の人の為になることをするでしょ。それって優しいってことじゃないの?」


 どう……なんだろうか。

 紅葉の言う事は俺の期待したものだという確信も持てず、一体何に期待したのだろうという疑問とそれは違うという否定が残る。

 俺はそんな胸を張れるような性格じゃないし、褒められる様なこともして来ていない。

 そんな俺が、果たして優しいと言えるのだろうか。


 「そういう訳じゃないだろ。俺がやってるのはただ篩(ふるい)にかけて残る物を選別しているだけだ。それが『優しい』だなんて、口が裂けても言えねぇよ」


 「あははっ、だから、そういうとこだよ。不器用だなぁお兄ちゃんは」


 「……? ……、はぁ。帰るか……」


 もう、分からん。

 コイツが何を言いたいのか分かる気がしない。

 そういうとことはどういうとこだ。全く分からん。


 でも、今はそれでいいだろう。


 いつか、きっといつか。もしも分かる時が来たのなら、その時は本当の意味で優しくなれるような気がするから。


 「金曜のこと、まだ根に持つからね」


 「さいで。頼むから良心的なものを頼みたい」


 「だから、なるべく素直になることを要求します!」


 「素直だ? 十分素直だろ」


 「はい嘘乙。お兄ちゃんって都合が悪いとすぐ嘘つくから絶対直さないとだめだからね」

 

 「俺から嘘を取るな、それがないと揺さぶりがかけれない」


 「人間関係に揺さぶりとかいらないから。間違えてるよ色々」


 だから、その時まで少しは自分のことばかりでなく、他人に目を向けてもいいかもしれない。

 そんな風に思うのは、きっと間違いなんかじゃないのだろうと、柄にもなく思うのだった。

感想、コメント、誤字報告等ありましたら気軽にどうぞ。お待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。