↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/50

テストとクラス対抗戦

 あれから、俺と静城は寄り道をするでもなく、真っ直ぐに学校へと向かった。


 特にトラブルやイベントはなかったが、やっぱり静城の意識がどこか遠くにあることだけは話していてわかった。


 それも、どうせ時間が解決する問題だろう。わざわざ他人が首を突っ込むことでもないし、まず俺は興味がない。

 これは静城自身の問題で、静城が解くべき問題だ。


 そうして、教室へ向かうところで俺達は別れたのだった。


 「おはよ」


 ガラガラと教室のドアを開ける。

 目に入るのはいつもの俺の如く最後の追い上げと言わんばかりにテスト範囲を頭に入れようと躍起になる奴や、正反対に友達とひたすら駄弁っている奴。

 つまり勉強組とそうでない組に分かれていた。


 まあ、その比率についてのコメントをするとすれば、『大丈夫なのか』と問いたい所なんだが今日ばかりは俺が何かを言う権利はないだろう。

 何故ならば、珍しいことに俺もその大(・)多(・)数(・)側(・)に回るからだ。


 余裕だとかそういったつもりは毛頭ないが、いつもとは違う幾許かのゆとりがあるお陰だと言っておこう。

 それに、どうせアイツは確実に絡んでくる。


 「よお黒谷!!調子はどうだ?あんなことがあったけどテスト前の勉強は怠ってねえよなぁ?」


 「当たり前だ、前にも言ったが態度だけ見れば俺は優等生だっつうの……」


 「流石黒谷、塚野とは違うぜ!」


 ビシリと親指を立ててポージングする遠見が酷く滑稽に見えるが、俺は軽く無視をして自分の席へ向かう。


 「ふーん、塚野はしてなかったんだな、勉強」


 「ああ……お陰で俺は休日出勤だ……」


 なるほどなるほど、休日出勤と託けてコイツは女子と休日を過ごしたと。

 そんなこと、俺に向けたものだとしてもこのクラス内で言っていいものか。非リア男子による非リア男子の為のリア充潰しの対象が、今週は俺ではなく遠見へと移りそうだが、果たしてそうなるかどうかは最早遠見自身の運次第だろう。

 テスト前にご臨終となるか、テスト後にご臨終となるか、もしもそんな賭けがあるとしたら俺は後者よりも前者に賭けただろう。


 「そんなにか、もうそれ数学以外は出来るとか一周回って器用だな」


 「ああ、かなり苦労したぜ……」


 そう言う遠見の表情は若干緩んでおり、素直に嬉しかったことは俺からすればもう明らかだった。

 これはもう確実に罪の烙印(ギルティ)を押されることだろう、今のうちに祈っておいた方が良さそうだ。


 「おい待て、何故手を合わせんだ!俺はまだ死んでねえ!!」


 「いや、因果応報の怖さを再確認しただけだ。てことでお前はもう逝っていい」


 俺の席に鞄を置きながら俺がそう言うと、遠見は「どういう意味だ」と騒ぐ。

 正直うるさいことこの上ないが、アイツも残り少ない自由なので放っておくことにした。


 「……はぁ、で、あの後どうだった?」


 しばらくすると落ち着いたようで、今度はいくらか真面目な表情を作ってそんなことを聞いてきた。

 それを正しく受け取った俺もこればかりはふざけて返す訳にもいかない。


 「別に、どうもなかった。あるとすれば……そうだな、主犯のリーダーの能力はコピーしてきた」


 「お、それマジか!」


 「ああ、マジ」


 本気と書いてマジだ。

 俺はあの後、シロに事実確認をした後に、『アクセス権』を使って影山の能力をコピーした。

 あの能力は条件にもよるが、使い勝手はとてもいいものだと判断したからだ。


 そもそも、あの時点で影山達を見逃した理由は偏(ひとえ)になんでも屋『クローバー』の利用価値にある。

 流石に情報の集中力は中村の方が上だろうが、その時点ではまだあんなことになるかなんてわかっていなかった。

 それ故に、俺が顎で使える優秀な人間を確保できることに相応のメリットを感じたのだ。


 ま、それでも『クローバー』の利用価値が計り知れないことは変わらない事実だ。俺が普通に生活している間に、影山をという手足を使えるのだからその点を見れば中村に聞くよりも有益な情報が手に入ることだって有り得る。


 つまり中村に聞くというのに加えて影山へ頼むという選択肢が増えたことが一番の収穫だろう。

 能力をコピーしたのはそのついでだ。


 「つっても経験はどうしても手に入らないからどんどん使わないといかなくなるけどな」


 そう言って遠見に見せつけるようにして俺は自身の影を顔のあたりまで動かしてふよふよと手を振るような仕草をしてみる。


 「お、おおう……スゲエなやっぱ。能力コピーだってこうして見るとチートだよなぁ」


 使い始めでぎこちなさを持ちながらも遠見は影に触れたり触れなかったりを繰り返す。


 「まぁどんな能力でも使い方による。この<影操作>だって、こうして実態を持たせることだってできるし―――」


 良い事を思いついて、今までふよふよと戯れの様に動かしていた俺の影の形状を変化させて針の様にした後、遠見の方に勢いよく突き出した。

 

 「は、ちょ!?」


 その伸ばされた影は遠見の胸辺りを容易く貫く。


 「―――て、痛くない……?」


 「影だからなのか知らないが、実態を持たせなくすることもできるんだよ」


 だが実際は、貫いたように見えた影は貫いたのではなく、通(・)り(・)過(・)ぎ(・)て(・)い(・)た(・)。


 俺が言った通り実態は持っていないから、二次元的に影が伸びるのではなく、三次元的に影が伸びているという事実が残るだけだ。


 「し、死ぬかと思ったわ!!脅かすなよ!!!」


 「テストの緊張を崩そうとしただけだ、許せサンドバック」


 「誰がサンドバックだぁ~!!!」


 そうやって馬鹿をしていれば時間は過ぎて、気づけばチャイムは鳴りテストの開始を告げる鐘の音が響く。


 学生にとっての地獄の始まりだ。


 それから後藤先生が入室し、いつも通りのテストの説明を終えた後に三限ある今日のテストの一限目が開始される。


 今日の一限目は、数学だ。



 ◆◆◆



 キーンコーンカーンコーン……


 「ぐふぅ……」


 「お疲れ遠見」


 一限目の数学から始まり、三限目の古文のテスト時間が終了する鐘が今響いた。

 今日はテストというのもあって、終わればなんと下校できる。

 この辺りがテストを受ける価値だと俺は思う。何せ、HRをこなす必要なく帰れるのだからな。


 「は~疲れた。…でも、勉強会のお陰で割と解けたな……」


 「お前あの状況で勉強できたのか……」


 「教えるのだって、知識がないとできないからな。噛み砕いて教えてる内に完璧に頭に入ったわ……」


 そう言う遠見はまだテスト一日目だというのにやりきった様な清々しさを感じる。

 一日目が数学ということで、塚野を教えていた遠見としては気がかりだったのだろう。

 しかし、結果はまだわからないし塚野に自信はあるかとも聞いていない。


 ただ数学を含めた一日目のテストが終わっただけだ。

 まだあと二日残っているのだから、ここで気を抜くわけにもいかない。


 「じゃああと二日頑張んぞ、俺は帰るから」

 

 「え、静城さん達と一緒に帰ったりしないのかよ」


 「知るか。俺はお前みたく優秀じゃねぇからな、帰って明日のテスト勉強しないと良い点取れないんだよ」


 俺はそう言って鞄を手に取った後、いつものように教室を後にする。


 確かに静城達のテストの出来栄えは気になるところだが、それは三日間のテストが終わった後にも聞けることだ。潔くこっちの都合を優先したとしてもそれを咎められる筋合いは無い。

 つまりは、まぁこの三日間くらい俺の勉強を優先させてもらおうということだ。


 俺と遠見が懸念していた塚野の数学は今日終わったことだし、静城に関しては正直そこまで心配はしていないから中間テストでやる残り六教科についてはもう個人個人でどれだけ勉強しどれだけ対策を練れたかが点数の分かれ目になるだろう。


 だとすればそれに俺達が首を突っ込むことはお門違いというものだ。

 そもそも、勉強なんてものは個人競技みたいなもの。人から教わるのはそれの延長線であって、主目的じゃない。大切なのはそれを経た結果だ。

 教わって、自身で納得し理解する。そうして頭に知識を溜め込んでいくことこそが勉強の本質だ。


 既に俺の手を離れている静城の面倒を見るのはお節介だろう。

 あっちから頼まれればその限りじゃないが、今はそれでいいはずだ。


 そんなことを考えながら、俺はまだ昼時の日差しにうんざりとした気分を抱えながら帰路へと着いたのだった。



 ◆◆◆


 

 「ただいま」


 学校を出てから程なくして、俺は自宅のマンションへ帰宅した。


 道中別段何かある訳でもなく、普通に歩いて普通に帰宅した。

 強いて言うとするなら、今日は日中だと言うのに「ランキングバトル」をしている人が多かったような気がする。

 

 なんせ日中にやっているのだから、時間帯的に俺達みたいなテスト期間中の学生くらいでないと悠長に体を動かす暇なんてない。


 そう考えれば、何かしらのイベントかそれに関係することが最近あったか、あるかという思考に辿り着くのは当然の結果だろう。


 「正直能力者とかランキング(そういうの)とか興味ないからなぁ、スマホで探せばあるだろうけどこういうのはニュースとかテレビで見た方が効率がいいか」


 リビングまで上がって制服着替えるついでにテレビを付ける。

 まだ昼時だからか俺の知りたい番組はやっていないようだが番組を変えれば多分出てくるだろう。


 テレビには相変わらず昼時のバラエティ番組が流れ続ける。

 俺は制服を着替え終わって普段着になって一息ついていた。


 形容しがたいが、制服から着替えた後というのは解放感が有って良い。今日はもう学校へ行かなくていいんだという気持ちが勝って何となくホットして気が抜ける。……気がする。

 後は……そうだな、プライベート空間と言うのもあって他人と関わらなくて良いと言うのは楽で好きだ。


 あえて結論を出すなら、そう、俺は自分の家というのが好きなのだ。


 『そういえば、来月の第二日曜日の九日にはついに待望のジャパンマッチ予選の開催ですね』


 『そうですね、噂では現一位の上代有紀さんも参加するなんて飛び交っているくらいですから、例年のジャパンマッチ以上に盛況となるでしょうな』


 『なるほどぉ、これじゃあ前年優勝者の静城風香さんも負けていられませんね』


 『もし本当に上代有紀さんが参加なさるのなら、実にアツい展開が期待されますな。ランキング順位で負けていても、実際に勝負をしないことには分かることも分かりませんしね』


 『では、優勝候補はやはりこの二人ですかね?』


 『それは勿論ですとも。ランカー、それも一位と二位が出場するとなれば、これに勝てそうな人物は同じランカーくらいなものですからな』


 偶然、テレビから流れてきた内容は俺の疑問を解消するのに最適なものだった。

 同時にこれを聞いて納得する。


 ランカーが二人もあの大会に参加するとなれば日本中大騒ぎになるだろう。盛り上がり過ぎて昼時でも勝負をする気持ちも分からないでもない。


 ジャパンマッチ。

 一言で言えば、日本国内で展開する国内ランキングの公式大会。

 簡単に言えば日本一の能力者を決める大会、その予選が来月に開かれるのだ。


 本選はテレビ中継もされていて、その視聴率は何と驚きの六十%超え。

 まるでアホなことを言っているようにも感じるが、本当のことだ。


 この大会の本選ではフィールドの距離制限が取っ払われて東京ドームの敷地を丸々使えるというまた凄い大会。

 世界ランキングの公式大会も似たようなものだが、他国の国内大会でも日本程の規模で行うのは珍しいくらいだ。


 けど、俺にはほぼ関係のない話だ。


 クラス内での話題作りという観点で見れば最適だが、生憎そんなもん見なくても話すことはできるし話を振られても問題は無い。

 確かに俺はテレビ中継も見ないし結果すら知る気はないが、確実に参加して確実に俺へ情報を投げてくる奴が一人いるからだ。

 あれだけ聞ければ他のことはどうでもいい。寧ろ他の話を聞きたくない。


 どうせ優に二~三時間は喋り倒されるのだからもはや普通にテレビで見るよりも詳しくなっているだろう。


 問題は……。


 「はあ……俺にどうしろと?」


 問題は、帰宅途中に送られたであろう、塚野からのL○NEだ。


 『風香ちゃんについて明日のテスト終わりに話がしたいんだけど、いい?』


 内容はこんな感じ。

 確かに今朝みた静城の様子はいつもと違った。

 話を振っても上辺だけ答えているような気がして、上手く会話が回っていなかった。


 もしもその原因が公式大会にあるのなら、俺にできることなんて頑張れの声掛けくらいしかないのだから。


 「ほんと、どうするかな……」


 丁度タイミングよく、テレビに流れた静城の映るCMを見て言いようのない虚無感が襲う。

 それはまるで俺と静城の距離感を表しているような気がして、俺は静かにテレビの電源を切った。



 ◆◆◆



 キーンコーンカーンコーン……


 「はぁ……」


 テスト二日目、教科は現代文、世界史、化学の三教科。

 今日のテストも勉強会のおかげかいつもよりはできたと思う。


 テストはまだあと一日残っているがそれでも残すは三教科。生物、英語、そして能(・)力(・)学(・)だ。

 この秋原高校は能力者のための専門学校で、学校内でもランキング制度を設けている。だがそれだけでの専門学校と言えるかと言えば、答えはノーだ。

 当然ながら能力者のいるこの世の中にだって、能力者に適応される法律(ルール)がある。


 例えば、私生活の域を出なければ能力の使用が認められる。私利私欲の為に能力を使用した場合三十万円以上の罰金、又は十五年以下の懲役が科せられる。といったものだ。


 そういった法律やマナーを教育することこそが、この専門学校の本懐である。


 その教科こそが能力総学だ。

 正直この教科は個人的に暗記が全てだと思う。


 なんせ、第二次世界大戦以降に能力者に関する問題が上がる度にそれを一つずつ虱潰しのようにして法律を作り上げていって終いにはガチガチに固まった法を、俺の様な若い学生に覚えろというのは聊か酷なのだ。


 だが、目的から考えて表面上これが駄目だとかあれが駄目だとかが分かりさえすればいいのだから、普段の授業でならった法を暗記するだけで事足りるはず。

 何せ当初こういった専門学校が設立した目的は能力者達の意識改革なのだから、目的は達成されている。


 つまり、小難しい法律を全暗記なんてしなくても重要そうな単語とかを選んで暗記しておけば十分に取れるテストなのだ。


 「あ……と、まだ帰るなよ。金曜に控えたクラス対抗戦の話がある」


 そう言って、テスト後の教室の扉から顔を覗かせた人物は我が二年六組の担任である、後藤幽鬼だ。


 「おせーって後藤センセー、もしかすると当日発表も有り得るとか考えてましたよ俺達」


 「いやすまんな、この学年には静城がいるから早く言うよりもなるべく遅めに言った方が精神的に楽だろうと思っただけだ」


 遠見の入れた茶々を軽く受け流す後藤先生。その手には普段持ち歩かない名簿の様なものを持っていた。

 恐らくこのクラスの生徒順位でも確認しているのだろう。

 教室にはちらほらと帰りたがっていたクラスメイトも後藤先生が話す内容を聞いた途端に聞く姿勢を正すくらいには、金曜日にあるクラス対抗戦が楽しみらしい。


 だが、この対抗戦のルール的に超(・)下(・)位(・)に(・)い(・)る(・)俺(・)には関係のない話だ。

 正直さっさと終わらせてもらってさっさと帰りたい所存である。


 「んじゃ発表だ。十六位の一条、八十七位の篠原、百四十五位の田辺に二百五十一位の菱田。それから―――」


 ふむ……、思っていたよりもクラスメイトの上位の順位が低い。これなら何か作戦を練るくらいしないと早々に負ける可能性がある。

 今回のクラス対抗戦、うちのクラスの成績は低いかもしれない。


 「―――三(・)百(・)二(・)十(・)三(・)位(・)の(・)黒(・)谷(・)だ」


 …………は?


 なんてことを考えていると、何か、俺の名前を呼ばれた気がしたが、気のせいだと思いたい。

よろしければ感想、コメント、誤字報告などお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。