中村との話し合い
あ、、あれ?
おかしい・・・もう、11月・・・・?
やはり前回の宣言は信用できなかった・・・すいません。
「……それじゃあ、始めようか」
いかにも高級そうな黒塗りの車に乗り込んでから後を追うようにして中村も乗り込んできた。
そして、開口一番の一言がソレだ。
「わかりました」
俺がそう言うと、中村は今まで引き締まっていた表情を若干緩める。
けれどもそれはほくそ笑むだとか、憐れんだとかではなく、今の中村はどこにでもいそうな普通のおじいちゃん然としていた。
ズボンのポケットから飴の一つでも出てきそうな程に、今までの張りつめた空気からは想像もつかないくらいには緩やかなものになっていた。
正直、吃驚した。
今から一方的に近い尋問が始まると言うのに、中村からはそんな雰囲気を一切感じさせない。
それどころか、下手をすれば気を許してそのまま絞り出されるようにして全ての情報を吐露しかねない状況だ。
それ程に、この男は人との対話に慣れているのだろう。
どうすれば相手が警戒を解くのか。
どうすれば相手が情報を吐いてくれるのか。
どうすれば相手がこちら側に飛び込んでくれるのか。
全て分かった上で実行に移しているのだ。
最早これは事情聴取や尋問などと甘いことを言っていいものではなくなっている。
これはもう歴とした『真剣勝負』だ。
俺と中村の精神力をぶつけ合う戦いだ。
それは俺が普段やっているようなお遊びとは訳が違う。
これが本当の舌戦なのだ。
「まぁ、気を楽にしてもらって構わないよ。お互いに隠し事は無しだ」
中村は笑みを浮かべてそう言った。
その時、俺は聞き逃さなかった。
―――確かに車のカギが掛かった音を。
「……わかりました」
それにとりわけ文句を言うつもりは俺にはない。
焦りはするが、冷静になればこれも相手を揺さぶるための手段でしかない。
……落ち着いて一つずつ対処をすれば、ボロは出ないはずだ。
「じゃあ……始めに聞いておこうか。君は例の『死神』と呼称される人物で間違いはないかな?」
「……!」
いきなり核心を突く質問だ。
ポーカーフェイスには自信が有ったが、今の質問でそれを保てていたかとなると正直不安を隠せない。
改めて言うまでもないが、この尋問は圧倒的に不利な状況だ。
それに、中村は既に俺が『死神』なのだと確信を得ている。
そんな相手に無理に隠そうとすれば更に墓穴を掘ることになるだろう。
この男がどこまで知っているのか、まだわからないが俺の能力のことはまだわからないはずだ。
中村は俺が『死神』だと知っているだけでそれ以上は知らないだろう。俺が一体どういう能力を持っているのか、俺の個人情報を調べても能力名は『能力複製』だと偽装してある。
それ以上辿ることができないため、俺についての情報は俺だけしかわからない。
『アクセス権』が表に出ることはまず無いと言ってもいい。
裏を返せば、今回の勝利条件はこの男に『アクセス権』のことを知られないこと。そしてできれば俺を取り巻く状況が変わらないことだ。
『死神』の正体を知られても肝心要の『アクセス権』のことが知られなければいい。
「はい。俺がその『死神』です」
だからこれは既に価値のない情報だ。
「よし、なら黒谷君」
「はい……?」
「―――取りあえず君の能力―――いや、彼女の力を解いてくれるかな?」
……は?
「……?何を……言って……」
……いや、まさか、そんなはずは……。
そんなはずはない……。
……でも、……でも!!
いや、そうとしか考えられない……!?
「……なんで、どうして知ってる……?」
知るはずがない、知れるはずがない。
本来有り得ないはずの可能性を前に俺は動揺を隠せなかった。
でも俺は確信してしまった。
「どうして、アンタがシロのことを知っている!!!」
間違いなく、中村は俺が今も展開している『アクセス権』の力を指摘した。
彼女の力と中村は言った。
決して名前を口にしてはいないが、俺は直ぐに直感した。してしまった。
中村の言う彼女が誰を指すのを俺には理解できてしまったのだ。
「そう……だね。まずは一から説明をしなきゃ君も警戒が解けないか……」
「何悠長なこと言ってんだ、俺の使う力知ってんだろ!」
色々とおかしいと思うことはあった。
最初は俺を逃がさない為にこうまでして回りくどいことをしているのかと思っていた。だが、それは全く違った。
手に入れるつもりだ、俺という戦力を。この場で。
……冗談じゃない。
誰が良いように使われてたまるか、もう例え誰がどうなろうともう構いはしない。
「上等だよ、そうまでして俺が欲しいんなら力ずくで言う事聞かせればいい……!」
結局、他人何ぞ初めから信用できない。
お前が……、お前らの様な利用することしか考えてない人間がいるから、無能力者達はずっと虐げられて―――
「……すまない」
……?
「どうしてアンタが謝る……」
「こちらが考えていたより、彼女に関する事柄は君にとってデリケートな話だったようだ。不用意にそこへ立ち入ったのを許して欲しい」
「……」
「まずは、こちらの話をしようか」
そう言って中村はおもむろにこちらを見やるとぽつりぽつりと静かに話し始めた。
「気になるところだろう彼女のことを何故知っているか、という質問には、私は最初からだとしか答えられない。これ以上はその力の本質に関する話になってしまうからね……こればかりは彼女無くしては話すことも話せないよ」
独白した中村の話は、俺にとって無視できない驚くべき事実だった。
最初から、というのが何処までを示すのかは分からない。けれど少なくとも俺が知るよりも前なんだと雰囲気から何となく察することができる。
「ただ……そうだね。概要くらいは知る権利はあるだろう……。君は、何処までその能力について知っているんだい?」
この質問にはどう答えたものか。
状況的に俺が下の立場なのはまず揺るがない。それはさっきも今も変わらない事実だ。
決定的に違うのは、この質問に対していつもの通りに嘘をつくのも俺の裁量で決まること。
俺がどう答えようが質問に対する答えに完全で完璧な正解はない。
仮に嘘をついたとしてもバレなければそれは中村にとっての真実な訳で、中村の知る俺の知識になる。
上手く話を持っていけば帰される可能性も見えてくる場合だってあるだろう。
「……この能力は借り物で、神であるシロの持つ能力を間接的に行使するための権限に過ぎないこと。シロの了解が無ければ能力を使うことができない。この能力を無理矢理言葉に落とし込むとすれば……そうだな、『法則操作』とかになると思う」
ある程度の考えが浮かんでは消える。
この状況でももしかすれば何とかなるかもしれない、なんて打算もあった。でも俺は、俺の持つ能力について正直に話すことを選んだ。
俺が知り得る限りの知識を話すことに決めた。
「シロの了解を得た時点で能力の行使権限は俺に移るから、後は念じるだけで世界は改変する。何一つ例外無く、一切の抵抗すら意味を成さずに」
この能力を行使するための手順と効果を、なるべく理解しやすくなるように話した。
かといって、この男を信用したから話した訳じゃない。知っていると言ったその言葉に嘘は無いと思ったからだ。
それが中村の交渉技術、話術によるものだとしても問題はなかった。
「つまり、中村さんの言ったことが虚偽だった場合、即座に記憶を弄ることができる。もしこれであなたから出てくる情報がくだらないものばかりなら、今日この時間は無かったことになる」
これが俺のできる精一杯の脅しだった。
まだ俺は能力を解除していない。だから悪意あるものはすべからくその干渉は無為に帰す。
様子を見ることしかできない状況にしり込み何かしている暇なんてない。今できる精一杯を実行するだけなのだから。
「ははは……手厳しいね。それじゃあお互いに実入りが良い話になるように努力しようか」
一拍置いて中村は話し始める。
「君がどれ程理解しているかはわかった。今度はもう少し信用してもらえるようにこちらからしようか」
「黒谷君の言う通り、その能力は彼女―――今の名前は『シロ』と言うらしい神、神の中の神である最高神が持つ書き換える力を使うことができる権限だ。そして、その権限は移り変わる」
「……移り変わる?」
初めて聞いたことだった。
移り変わる、と聞いて初めて浮かんだのは「季節」だ。その「季節」の様に例えるとすれば、俺の持つ能力は巡るようにして誰かから誰かの下へと「移る」のだろう。
当然、そんなことはシロの口からは全く聞いていない。
ただ俺はシロから借り受けただけなのだから、この能力の使い方は知っていてもこの能力の成り立ちは知らない。
俺はその辺りの知識が乏しいが、逆に中村の言うことを信用すると仮定した場合、俺の知らない情報を手に入れることができる。後の事実確認はシロ本人に聞けば解決することだ。
そう考えた時、今中村の言葉に従うことは少なからずメリットになる。
話合うだけだというのなら、俺も中村もデメリットはないのだから。
「そうだとも。その能力は過去何人にも渡って継承されてきたものだ。私がその能力のことを知っているのはそこに起因する」
「それは君の前任である人物と私は浅くない関係を持っている、という訳さ」
ああ……。
「……なるほど」
ここで俺はようやく中村の言わんとすることを察した。
「つまり、それだけ君よりもその能力について知っている」
言うなれば、中村の立ち位置は俺の前任の隣に立つような人物だ。
単純にそう仮定した場合、俺よりも遥かに長い時間を掛けて能力と向き合い、知識を蓄え理解を深めた人物に新米である俺の知識量何かで勝負ができると思いこんだ。
……マヌケなのは俺の方だった。
「はぁ……」
そう考えると、軽く死にたくなる……。
「まず私の知識量については、納得がいったかい?」
「それは……まあ」
「じゃあ次に、君も気になっているであろう私の目的についてだ」
「……はい」
なんでもないように放ったその一言に、緩んだ気を引き締める。
まさかまたいきなりぶっこんでくる様な真似をされるとは思っていなかったが、これはチャンスだ。
中村の目的がこれまでの行為に合致したうえでメリットがあるのなら、それは嘘とはな成り得ないし、かの能力課に所属する中村というコネクションを手にすることだって可能なはずだから。
能力課との繋がりを持てればシロの持ち込む『神託』に他人を巻き込む様な事態は確実に減るからだ。
「私の目的は主に二つだ。一つは君とこうして関係を持つこと、力になることだ」
「……俺と?」
「ああ、言っただろう。前任と関係があると。同じ力を彼女から授かった君の力になりたいと思って、それらしい人物を追いかけていたんだよ。『死神』もその内の一人でね、前に二人程話をしたけどようやく当たりを引けたよ」
「どうして、そう思ったんですか?この能力に詳しいなら心配する意味もないと知っているでしょう?」
「それは心配する必要がない理由にはならないよ。いくら強力な能力を有していても、一人の人間であることは変わらない。私はそれをよく知っている」
「それにその能力にだって相応の反動が有る。二年前の七月に起こった大事件は君によるものなんだろう?」
……二年前。
「……確かに、それも俺です。そうそうキャパオーバーは起こさないにしても反動もあります」
「なら―――」
「だからと言って、『神託』から逃げようなんて考えません」
中村の言葉を遮って紡いだ言葉に、中村は押し黙る。
この言葉に嘘はない。
最初『神託』を言い渡された時は冗談だと思った。
けど、逃げてもトラブルは追いかけてくる。
「解決しなければそれだけ被害が拡大しますし、黙って見ていられる様な状況になったためしもありません」
この『アクセス権』を持っていることによる最大のデメリットはシロから告げられる『神託』だ。
いくら勝てるからと言っても、強制で巻き込まれる面倒なトラブルに好き好んで突っ込んで行く奴はいない。
「慣れた俺ならまだしも、他の人間はそうもいかないでしょう?」
「君は……」
「誰かがやらなきゃならないのなら、俺がやった方がまだマシですから」
誰かが闇雲に突っ込んで被害が出るよりも、『アクセス権』を持った俺が動いた方がずっと……。
ずっと―――
「……君は、とても優しいんだね」
「俺が?」
「ああそうだとも。そうでなければ今までの事件を『死神』として解決なんてしないよ。彼女の指令もあるだろうけど、一番は君が、他人の不幸をその場で見過ごすことを良しとしない、とても優しい子だからだ」
「……そう、でしょうか」
違う。
そんなんじゃない。
俺は単純に、『神託』を避けれないものだと認識しているだけだ。
誰かがやるのではなく、俺に告げられたものなのだから、それを行動に移して解決するべきは俺なのだから。解決に動くのは当然だ。
そう、全ては俺の日常のため。
平穏のために行う一種の仕事。言うなれば、警察の行いと変わらないそれを『優しさ』という言葉だけで動いているなんてとんだ思い違いだ。
「俺はそんな『できた人間』じゃないですよ」
ただ自分の保身を考え、目立たないように潜む……そんな哀れな凡人なのだから。
「……そうか。じゃあ、二つ目の方だ。私としてもこっちが本命で、君の方はオマケ感覚でね、重要度が高いんだ」
……。
あれだけ盛大なお膳立てをされた挙句俺はオマケ扱いですかそうですか。
「ある人物を二年前から追っている」
また二年前……。
「勿論君とは別件だ。名前は―――」
思えば俺は、中村の話を聞く気になってから話半分でも聞いたことにして、聞きたい情報だけ聞いてやろうという打算を持っていた。
いきなり連れてこられ、自身の正体と能力も相手に筒抜けの状態でペラペラと話し合う程俺は他人というものをとことん信用していない。
どうせ知られているのなら、とか、どうせ『アクセス権』で記憶を弄れば、なんて考えて。
煩わしいとさえ思いながらも、表にはおくびにも出さずに聞いていた俺に中村から告げられた名前を聞いた瞬間から、掌を返すようにガラリと何かが変わった。
「―――日野敦。無能力者でありながら、能力者の為を思い、世に出る能力者社会を支える『全て』を発明した天才だ」
日野敦。
それはクローバーの目的でもあった人物だった。
感想、ブクマ、評価等よろしくお願いします。
作者の筆力が上がります。




