時間が無いんで簡潔にお願いしたい
むむ、またもや時間ががが。
速い・・・、このごろ時間が進むのが早い・・。もうすぐ投稿開始から一年なのに30話も投稿していないという事実。身に沁みます。
辺りを見る。
霧、霧、霧。
人影、人影、人影。
今視認できるものはこれくらいだ。あと隣の遠見。
霧の中で揺らめく人影はこちらに猛烈な速さで向かってきており迎撃しようにも点ではなく面で攻めてきている以上あぶれた奴は後ろへと向かっていくだろう。
「くっそ、なんでこうも立て続けに!」
遠見は苦々しげな面持ちで吐き捨てる。
確かにこの状況はまずい。
このままじゃあ、解決どころの話じゃなくなる。
その考えに行きついた時点で、それ以上の思考を捨て体を動かした。
立ち止まっていた体を前へ動かし、こちらへ向かってくる人影の方へと走り出す。
「------ッッッ!!!!」
そして<振動操作>を使い前方へ音の振動を増幅させ銃口の様に範囲を絞るとそのまま大声で叫んだ。
俺を起点とした凄まじい振動は通路にヒビが入るほど強力なもので、前方にいた人影は左右を残し真ん中にぽっかりと穴を開けた。
「静城!」
「!」
それを見て俺はすぐさま止めた足の動きを再開させ開いた穴へと突っ込んでいく。
「後を頼む!」
そして左右に残る人影を尻目に地下鉄のホームへ向けて<高速移動>で駆ける。
「わかった」
人影を抜け切ったところで、後ろから静城の声が聞こえると同時に視界の端で人影が壁に打ち付けられる様を見かける。
これなら俺が犯人の方へ行っても問題は無いだろう。
「ちょ、早ええよ黒谷!」
そこに遅れて来た遠見が息を切らしながら追いついてくる。
仕方がないから俺はそれに合わせるように<高速移動>を解除し、立ち止まる。
「早くない、お前が遅いんだよ遠見。あと十八分だぞ?さっさと行動しないでどうする」
「そりゃテメエの都合だろ!?」
俺はいいんだよ、俺は。
「んなこたぁどうだっていいんだよ。それよりも気づいてるか遠見?」
「は?何に」
俺は遠見に問いかけるも、遠見はどうやらわからないようで困惑した表情を浮かべる。
まぁ、目の前のことに精一杯であろう遠見が気づけるはずもないか・・・。
けれど、この事件が発生してから今まで、俺にはこれが不自然であり、不思議であり、不可思議で、心底疑問に思っていた。
この新宿駅内で事件が発生し、混乱が起こると、まず誰が一番最初に動かなければいけない?
もし今俺の行動が見つかれば即刻退去させられると踏んで、まだかまだかと待ち警戒していたが、一向に姿を見せる気配がないのだ。
これを不自然に思わずしてどうする。
「何って、駅員に決まってんだろ。この非常事態に警備員諸共何してんだって話にならないのかよ・・・」
「確かに!そういや今まで駅員とか警備員の人見かけてねえ!」
遠見がハッとした顔で驚くも、直ぐに思考するように表情を固くする。
「でも、そうなると一番最初とかに狙われてることになるよな。事件起こすにあたって一番邪魔になるし」
「そうなるだろうな。とすれば恐らく、爆破する前、若しくはその後に駆け付けた駅員達を一網打尽に蹴散らしたか、縛り上げて手出しできないようにしたか―――」
そこで、俺の言葉は止まる。
「黒谷?」
それを不審に思ったであろう遠見は俺を呼びかけるも、俺はそれに応えることができなかった。
遠見と喋りながら未だ濃霧が支配する通路を歩き、悪くなった視界にチラリと写りこんだものを見て言葉が詰まったのだ。
「・・・なんでもない」
それは壁を背にして倒れている駅員の姿だった。
けれどそれを今伝えてたとして、例え生きていたとしても、死んでいたとしても俺に不都合がないし、もし遠見に伝えれば人のいいコイツは駅員を介抱しようと即座に行動するだろう。
確かにそれで俺の望んだ展開になることには変わらないが、今はまだいいと伝えることを遅らせることにした。
もしも今襲われでもした場合、遠見に加え駅員まで守る範囲に入れるのは流石の俺でもキツイ。
だったらもう少し遠見に気づかせるのを遅らせて都合の良いタイミングで伝えれば、遠見はそれに釘付けになって晴れて俺はフリーに動けるというものだ。
そう判断し、俺と遠見はもう少し奥まで通路を進んで行く。
そして、もう少しで駅のホームへ辿り着くかどうかと言うところで状況に変化が生じた。
「うぅ・・・・」
うめき声がすぐ傍で聞こえたのだ。
「・・・おい、黒谷。今のうめき声って・・・」
それに流石の遠見も反応を示す。
いくら濃霧で視界が効きにくいといっても、きちんと耳は聞こえるためこれはもう誤魔化しようがない。
俺は観念して遠見の意識をうめき声のした方へ向けさせようと口を開こうとした時、またもや視界に人影が写りこんだ。
釣られてそちらの方へ視線を向ける。
だが、見えた人影は複数ではなく、単体で、先ほどの人影のような曖昧な揺らめきはなくしっかりとした輪郭持っていることがわかる。
カツ、カツ、カツ。
それに付随するように足音を響かせゆっくりとこちらへ向かってくる人影。
「端に居ろ、このまま戦闘になったら邪魔になる」
「わ、わかった。気をつけろよ」
俺は遠見に声を掛けてからその人影に向かって歩いて行く。
そして人影はだんだんとその姿をだんだんと表す。
すると俺は一つ思い違いをしていたことに気づいた。
一つだと思っていた影は姿が鮮明に写るくらいの距離になっていくにつれ二つなのだと分かる。
「あれぇ?なーんでこんな事件になってんのに俺以外に一般人がいんの?」
そいつから言葉が発せられるも、俺にそれを答える余裕はなかった。
人影の正体は、一人の男と、男の右手で首を捉えられ、ぐったりとした警備員の二つ。
この異様な状況を見て俺は自分の体が強張るのを感じ取る。
「・・・何者だよ、お前」
故に俺が警戒を強めて問いただすのは必然だった。
「いやそっちこそ誰よ。俺はただ人を待ってただけで、都合が悪いからこうして駅員さんを気絶させてんだけど・・・、アンタは何の用があってこんなとこまで来たわけ?」
男はそう言って右手に持っていた駅員を壁の方へ放り投げるとこちらにまた問いを投げる。
その瞳はこちらを冷たく射貫いていた。
それはこの暗闇と濃霧の中、俺ですらうっすらと見えている程度に対して、あちらは正確にこちらが見えていることに他ならないことだ。
まるでこの状況をものともしない男に俺は警戒を怠る事無く口を開いた。
「状況を見ればわかるだろ、この事件を解決しに来てんだよ。わかったらどいてくれると助かるんだが・・・」
俺は言葉でそう言いつつも、この男が素直に頷くなど考えてなどいなかった。
俺がこの場で考えを巡らせていたことといえば、如何にしてこの男を無力化するかその一点のみだった。
それはこの男が駅員の首を捉えて近づいてきた時からずっとしてきたことだ。
まず間違いなく加害者側に立つ奴を俺が警戒しない訳がないのだから。
見る限り、コイツの身長は俺よりも下で、大体百六十cmに届くかどうか。顔はうっすらとしか見えないが、声からしてどう考えても中学生かそこらの年代のように思える。
だが、コイツの年齢が俺と同年代で、かつ年下である可能性があるといっても手加減なんてしない。ただ目の前の障害をぶっ壊すだけだ。
「んー・・・、別にいいけど、今解決されるとすごーく・・・都合が悪いんだよね」
そう言いながらも男、いや少年はゆっくりと時間を稼ぐかのようにこちらへ歩を進めてくる。
そして、ついに俺からも少年の容貌が見える位置にまで到達したところで止まった。
それは果たして俺の予想の通りだった。
眉にかからない程度には短い黒髪のスポーツ刈りで、顔にはまだ幼さが残りつつもすらっとした鼻筋により見方によっては釣り目のように見えてしまいそうな凛とした目が特徴的な、見る人が見れば背伸びをしている子供と捉えられる少年だ。
その服装はつい先ほどまで自分の部屋にいたかのような普段着で、明らかにこの場において不自然さを醸し出していた。
「だから、俺はアンタを通したくない。あぁただ―――、」
少年はそう言いつつも、少年は一度止めた足を動かし歩みを再開させ一歩踏み出した。
瞬間、俺の目の前から少年が消えた。
「・・・は?」
一瞬だった。
当然俺は全貌を目視できるようになった名も知らぬ少年が可笑しな動きを見せても即座に対応できるよう警戒を怠っていなかった。
それなのに、少年は俺の目の前で忽然と姿を消してみせたことに驚愕を隠せない。
そんな呆ける俺に突如として肩に手が乗せられる。
「―――ただ、俺の方に相応のうまみがあればどいてやるよ」
「な、んだと・・・・」
聞こえてきた声の方に首を回し視線を巡らせれば、丁度俺の後ろには一瞬にして姿が消えた少年が立っていた。
当然俺の肩に手を置いた犯人はこの少年。
つまり俺は、今完全にこの少年に出し抜かれ背後を取られたのだ。
「今、俺が何やったかわかんなかっただろ?なら動かないでいた方が身のためだぜ」
少年の言葉に対する返事は俺の沈黙、即ち肯定によって返答された。
いかに俺がクソチートでなんでもありな能力を有していようとも、先に殺生与奪を握られてしまえば手も足もでない。
まさしくにっちもさっちもいかない状況に、いらだちともどかしさを感じながらも少年が起こす次の行動を待つしかなかった。
「さて、少し覗かせてもらうぜ」
少年はそう言って俺の肩に乗せている手を頭の方へと動かした。
そして俺はされるがままに身をゆだねる。
だが、少年の手は俺の頭に触れているだけで、体や体調に異変は全くない。
てっきり何かされるとばかり思っていた俺は軽く拍子抜けしていた。
本当に触っているだけなのか?
いや、それはないだろう。
自分で言って自分で否定しているけれどこの線は絶対にない。
この状況で何もしない訳がないからどう考えたって少年の能力が行使されている。そう考えるのが自然だ。
ただ、この少年の能力については謎だ。
能力で出来る事の範囲が余りにも広すぎる。
さっきまで駅員を片手で持ち上げていたような怪力に、俺の背後まで一瞬で移動した瞬間移動、そして今は覗くと言っていた。
覗くといっても、この場合除ける意味ではなく見る意味の覗くで合っていると思うが、現時点でこの少年の目的が分からなければ交渉にすら持っていけない。
要するにこのまま終わるまで待つしかなく、少年によって今後が左右されてしまう。
このままではダメだと分かってはいるが、隙の一つでもできなければ<アクセス権>を行使するためのスマホを取り出すこともままならない、か。
現状の結論を出した俺は、そのまま解放されるのを待つ。
すると間もなく俺の頭から少年の手が離れた。恐らく、覗きたいものを覗けたのだろう。
「これは・・・なるほど、そういう・・・。アンタ、すごい奇妙な因果持ってんだな。うん、これならどいてもいいよ」
その証拠に、少年から願ってもない言葉が紡がれる。少々時間が押しているが、許容範囲だろう。
「なら、解放してくれるんだな?」
「勿論。どうやら俺がここに留まってる意味も無くなったみたいだし、この事件もアンタの好きにしていいよー」
念を押すように少年へ問いかけると、しっかりとした言質と共に事件の行く末までも分投げられるが、もとよりそのつもりで来ているため問題ない。
だが、この少年の発言の要所要所が気になり俺は少年にまたも問いを投げる。
「お前は事件に関わってないのか?」
「俺は無関係だよ。服見てわかるでしょ?こっちの目的もあって詳しく言うつもりはないけど、俺はこの事件を利用しただけ。こればっかりは信じてとしか言えないね」
そういう少年の顔には、まるで踏み込むなと言わんばかりの好戦的な顔をしていて、俺に信じる以外の選択肢を許さない。
少年は暗に、信じないと言った瞬間から攻撃するぞとこちらに脅しをかけている。
そう読み取ったところで、俺はわかったと返事を返し降参する。今やりあえば間違いなく負けるからだ。
もしそうなった場合、この少年は俺に行動する余地すら与えずに意識を刈り取るか或いは、、、。ということになるだろう。
ハイリスクローリターンもいいところだ、と抗議でもしたい気分だ。
「よろしい、それじゃあ縁が有ればまたね。黒谷蒼太先輩」
そう言って少年はまるで元々そこには居なかったかのように一瞬にして消える。まるでタネ無しのトリックみたいだと場違いな感想を抱くほどだ。
「終わったぜ遠見、もう出てきても大丈夫なはずだ」
しんと静まった地下鉄の通路の影から恐る恐るといった感じで遠見が姿を現す。
どうやらきちんと邪魔にならないような場所を見つけていたらしい。
「冷や冷やさせるぜ全く・・・、もし問答無用に攻撃してきたらどうすんだよ」
「その時はその時だ。さっきはうまく誘導されたっぽいけどスマホさえ出せればこっちの勝ちだ」
「それができれば苦労しないだろうが!ったく、変なところでスイッチ入るな」
呆れたように言う遠見の姿を見て、やはり俺はイラッときていた。
なんというか、コイツに馬鹿にするようなことを言ってくるとそこはかとなく頭に来る気がする。
「入ってない。ただ荷物抱えた状態でも俺の能力が普通の能力者程度に負けるわけがないことの説明をだなーー、」
「いやもうそれムキになってんじゃねぇか!ちょっとは反省してくれ!?そりゃ俺がお荷物だってのは解ってるからこっちとしては普通に情報収集してたんですけど」
情報収集?
コイツ俺が捕まってる間に先の確認でもしたのか?
「そうだったのか、ならすぐ言え。このやり取りであと残り十分も無いんだ」
「いやそれ自業自得だよね?まぁ、いいや。恐らく犯人のグループだと思われる奴らは視認できた。場所は新宿三丁目方面を進んだところだ」
どうやら、本当に確認できたらしい。
俺はすらすらと遠見から出てくる情報を聞き終えると同時に、走り出す。
「あと七分もないぞー!」
後ろから茶化すような遠見のかけ声に苦笑すると、こちらも負けじと聞こえるように大きく声を出す。
「わかってるよ!」
そしてそのまま<高速移動>を発動し、遠見が言った三丁目の方へと<千里眼>をうまく使って視界を移動させる。
するとーーー、
「ーー見つけた・・・」
にいっ、と口角が釣り上る。
数は・・・男が一、二、三人だけか?・・・、いや、奥にいる男が持たれる柱の陰に一人、女が守られるようにして横になっている。
グループは恐らく見える範囲では四人。
一人は柱の影に寝ていてピクリとも動く様子が無い。人質の線もあるが、傍にいる男の視線はそれなりの優しさを含んだものと見てわかるほどの信頼があると分かることから、何かしら関係があることは確かだろう。それなら放っておいても大丈夫そうだが、果たしてどうなんだろう。
他の二人は奥の男女と違い少し手前に陣取っていることから、まずは先に二人を沈めることが出来そうだ。
今の直線で走る体を斜めに向けてそこから三角を書くような形で接近して斜めから拳か蹴りで前二人の下あごを打ち抜いて脳震盪か気絶させれば残るは一人、その後落ち着いて<アクセス権>を行使すれば合計七分もかからないだろう。
計画を立てた後は、実行に移すだけだ。
「さぁて、タイムアタックだ」
宣言をするように俺はそこから更に速度を上げて前方の二人に向けて強襲を試みる。
走って、走って、先にいるであろう爆発テロの犯人グループへ接近する。
そして、ようやくその姿が目視で確認できる距離になる。
「なっ、速い!?」
前方にいる一人目を確認した瞬間、俺は地を蹴り壁の方へ跳ぶ。
そして、勢いに任せ三角跳びの要領で壁を蹴り一人目のすぐ近くまで突進気味に移動すると空中で体を捻り、そのまま回し蹴りで下あごを狙う。
「ガッッ!!?」
それはあちらからすれば足音がした方向を見てから数秒で姿が見えたと思えば、気づけば壁を蹴って進んだ俺が目の前に現れたのだから混乱の一つもするだろう。
その隙が突かれ、俺の速さによって鞭のようにしなる蹴りが一番手前にいた男の下あごを捉え、男はあっさりと意識を落とした。
その瞬間、辺りを覆っていた濃霧が一気に晴れる。
「ッ!?クソ、サード!退け!!」
どうやら初手で霧を出している能力者を沈めることができたようだ。
だが、止まっている時間も、悠長に考えを巡らせる時間も、今は死ぬほど惜しい。
地へ着地した俺は、その勢いをなるべく殺さずに方向を転換し、二番目に近いサードと呼ばれた男へ向かって<高速移動>を行使し更に加速する。
「間に合わ―――、」
そしてすれ違いざまに体を捻り、遠心力を乗せた裏拳を先ほど同じく下あごへお見舞いする。
その効果は回避しようと後ろへ退こうとしたサードの言葉が証明してくれた。
一言の発言も許さずに、この一瞬で俺は二人の意識を刈り取ることに成功した。
残るは、目の前で向かいあっている、恐らく影使いただ一人となった。
――――残り時間、六分三十七秒。
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