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少しずつ、少しずつ

 「真っ暗で何も見えない!!」


 「ちょっと!今私の胸に触れたの誰!?」


 「な、何なんだ一体!」


 「お、おい!さっさとここから出ようぜ!!」


 「出たくても出入り口が何かでふさがれてるんだよ!!」


 「さっきの音といいこれは一体なんなんだ!?ふざけるなあ!!」


 「クソ・・・・」


 まずい。

 非常にまずい。

 

 何がまずいって、今の現状を詳しく把握できないことが一番まずい。


 現時点で分かることと言ったら、爆発音のようなものが地下の方から聞こえた後、少しの間を置いて急に視界が真っ暗になったことだけだ。 

  

 どうして爆発音が聞こえたのか。

 どうして急に視界が真っ暗になったのか。


 それがわからなければいくら俺が動いても原因を知らない限り無駄骨になるだけで、結果時間だけ消費することになる。

 そもそもこの真っ暗な状態で下手に動けば待っているのは、転ぶ、躓く、ぶつかる、といった悲惨な結果だ。

 少なくとも視界がどうにかできるようになってから動きたいところだが・・・。


 「えっと、みんなすぐそこに居るよな?」


 まずは安全確認からだ。

 『四人で一緒に』、という神託の内容がどこまで適用されるのかが気になる所だが、今の時点で全員揃っていなくてはそれはそれで問題だ。


 「大丈夫だ、きちんと居るぜ。真っ暗になって驚きはしたけど、特に怪我とかはないから」


 遠見の声がさっきと同じような位置で聞こえた。

 声のトーンからして普段と変わらない調子だから、遠見は全然大丈夫だろう。


 「私と風香ちゃんも居るよ。風香ちゃんは真っ暗になった時の混乱で人ごみに塗れそうだったけど、それ以外なら大丈夫」


 「ん。まいちゃんがいなかったら、危なかった」


 塚野と静城もいる、と。

 現時点じゃあまだ大丈夫そうだな。


 「よし、全員いるな。・・・遠見、さっき能力で見えた範囲って、どのくらいだ?」


 全員の無事が確認できたら、次に行うべきは情報収集だろう。

 現時点でいいから片っ端から情報を集めていかなければ、この事件を起こした奴がさっさと逃げてしまうかもしれない。

 一番避けるべき事態はそれだ。

 

 これは、俺が<アクセス権>を受け取った責務なのだから、それを達成できないなんてことはあっちゃいけない。 

 それは、前の俺の様な無能力者(まけぐみ)に対する裏切りになる。

 もし一度でも責務を達成できなければ、俺はこの能力を持つ資格を失うことに等しい。

 そうでなければ、こんな幸運を、こんな俺が受け取って良いはずがないのだから。


 「そうだな・・・、言う前にちょっと移動しないか?ここじゃあ人が多すぎて聞き逃すかもしれないし、そもそも静城さんも黒谷も、人の多いところとか苦手でしょ?」


 「ん。賛成。大賛成」


 ・・・・。

 意外と、見てるもんだな。こいつ。


 ここを離れること自体は俺も賛成だ。

 遠見も言った通り人が多いからここで戦闘なんてしようものなら、一般人にどれだけの被害が出るのか考えたくもない。

 他にも、色々聞かれたくない話もある。という理由も付け加えておこう。


 「そうだな、とりあえずここを離れよう。身動きすら取れない状態になってからじゃあ遅いし」


 「決まり!じゃあ早く行こ。もう私も風香ちゃんも嫌気が指してきそうだし」


 そして、取りあえずここを離れることになった俺たちはなるべく人の居なさそうな場所を求めて駅内を歩くことになったが、まだ解決すべき問題がある。


 そう、とても大切な問題だ。

 

 大切すぎていつもは当たり前なことなんだがな。


 「待て待て、その前にこの暗闇の中どうやって場所を把握するんだ?このままだったら危なすぎて逆に留まった方が安全なまであるぞ」


 そう、この視界だ。

 人間、五感の内一つでも失えば相当な苦労が襲うものだ。


 ある日、急に目を失えば、人は未来への恐怖と見えないこと自体の恐怖で精神的に相当追い込まれる。

 

 ある日、急に聴力を失えば、人は何も聞こえないことに不安を覚え、聞きたくても聞けない音楽や友人の声を渇望し、やはり精神的に相当負担がかかる。


 味覚を失えば、人は三大欲求である食の楽しさを封じられるため、これも精神的に負担がかかる。


 触覚を失えば、やけどや怪我による痛みを感じなくなり、これはこれで別の危険と隣り合わせになる。


 嗅覚を失えば、人は何もかも無機質なものと感じることが増える。美味しいと感じるものの大半は嗅覚からくるものも多いため、味も薄いと感じてしまう。これもまた、人が生きる上でなくなっては困るものだ。


 今、その内の視界が疑似的に使えなくなっているため、周りの人間の不満も、叫びだしたくなるような不安も、俺は手に取るように分かってしまう。


 どうしても凡人気質な俺は、もしこの能力や三人の協力がなければ、あの群衆に混じる一人として叫びを上げる人々の仲間入りを果たしていたことろう。


 「いやいや、そこは俺にまかせなさい。俺の能力は<千里眼>、見ることに関しては世界中の監視カメラにだって負けない自信があるくらいだぜ?当然、<暗視>もできるに決まってんだろ」


 そういって遠見は寸分違わず近くまで歩いてくると、俺の眉間を人差し指でコンコンと突く。


 「鬱陶しい、でも、暗視か。俺もやってみる」


 俺は遠見の手を払うと、<千里眼>を起動させ、この暗闇の中を見(・)る(・)と意識して集中し始める。


 見る。見る。


 見る。 


 ・・・・見る。


 いくらか、集中していると、ぼんやりとした輪郭が俺の目に写される。


 それを感じて俺はその輪郭に一層意識を集中させる。

 

 するとどうだ。

 さっきまでの暗闇が嘘のように見え始め、終いには昼ごろと変わらないくらいの明るさが視界に確保されたところで固定される。


 「おぉすげえ、本当に見えた・・・」


 「はは、俺の能力も結構バカにならないだろう?」


 そう言う遠見の表情は、いつもと変わらない笑みを浮かべていた。


 やはり、遠見はい(・)い(・)奴(・)だ。


 「静城と塚野は大丈夫なのか?」

 

 俺は静城と塚野がどうしているのか気になって問いかける。


 静城はまだ、どう克服するのか理解できる。

 けれど、塚野の能力を俺は知らないため、移動が不便にならないかが心配だった。


 「私は・・・、うん、大丈夫。見えてはいないけど、ちゃんと把握できてるよ」


 「そうか。ならいい」


 見えてはいないが把(・)握(・)は(・)で(・)き(・)て(・)い(・)る(・)。だとすれば、十中八九塚野の能力によるものだろう。

 なら無暗にどんな能力持ってるの?なんて言うべきじゃない。

 そういう能力を持っているということをこちらが理解していればいいだけの話なのだから、それ以上を求めるのはあまりに無神経だろう。


 「聞かないの?どういう能力なのか~とか」


 「はぁ、それを聞いて俺にどういうメリットがある?知らなくてもいいことを知るつもりはないぞ俺は」


 能力を知られたくない、という人は少なからず存在する。

 

 人のと比べられたくない。

 能力だけを見て判断されたくない。

 

 


 ・・・トラブルに巻き込まれたくない。


 理由は人によりけりだろうけれど、つまりは能力だけじゃない自(・)分(・)を見て欲しい人間が大半を占めている。


 恐らく、塚野はそう言った類の人だ。


 少なくとも自分から話して来ない限りは、俺が塚野の能力を知ろうとすることは絶対にない。

 知られることに抵抗がある、というのは俺も常日頃味わっている感覚だから良く分かる。


 つまりその限りで言えば、塚野は俺と同類にあたるわけだ。

 

 なら、最適解はこれ以上言及しないことに他ならないだろう。

 

 「・・・ありがと」


 「じゃあ、さっさとここを離れよう」


 「わかった」


 「ん」


 小さく、塚野が呟く。

 恐らく俺にいったものなのだろう。

 けれど、それは俺に対して全く意味を成さないものだ。


 だから俺は、それが耳に入っていたとしても聞こえない振りをして先を急いだ。 


 俺は本当に受け取るべき感謝と、そうでない感謝の分別をしっかりとする方だ。

 今回の感謝が偶々、後者であっただけ。

 

 こんなちっぽけなことで感謝されても、当たり前なことで感謝されても、立つ瀬がないのは俺の方なのだから。


 

 出入り口を離れようと、俺たち四人は人の密集する反対方向、つまりは改札口のある方へと歩き出す。


 その時だった。


 チラリと、白衣を着ている男が迷いのない足取りで出入り口の方へ歩いて行くのを視界の端で捉える。


 変に気になり、振り返る。


 もう後ろ姿くらいしか見えなかったが、その男は小さ目のアタッシュケースを持っていて、この暗闇の中をまるで自分の庭のように進んでいる。


 「っ。」


 ふと、ノイズの様なめまいを感じて、たまらず俺は顔を背けるが、次の瞬間にはまるでなかったことのようにめまいは消えていた。

 疑問に思うが、特に何かされた訳でもない為、再び白衣の男へと視線を戻す。


 白衣の男は、明らかに他とは違う雰囲気を纏っている訳だが、見る限りでは何ら問題は無い。

 白衣を着ていることから、よくいる研究職に就いている人物なのだろう。

 いや、大穴を突いてコスプレイヤーということもあり得るかもしれないな。

 まあ霞む程の可能性なんだが。


 俺自身、何故気になったのだろう。


 この暗闇の中を普通に歩いているから?


 白衣にアタッシュケース持ちという容貌だから?


 いや、そこまでくればもう言いがかりの範囲か。


 「ん、どうした黒谷。さっさと行こうぜ?」


 「ああ、そうだな」


 遠見の声で、今まで思考に浸っていた己を引き戻す。


 あの白衣の男が気になったのは事実だが、それ以上でも以下でもなく、只々気になっただけだ。


 もしも犯人があの男だったとしたら、何て考えは浮かばない。

 

 それは至極単純な理由から来る根拠だ。


 まず、さっきの爆発だが、あれは恐らく能力によるものの可能性が高い。


 理由は、駅員、乗客から隠し通せるものではそうない、という事から来る。


 爆発物というのは、小さなものでも大きなものでも、一様に目立ってしまう。


 もし電車に取り付けられているものだとしたら、それは電車を点検している時に必ず外されるからああいった爆破は出来ない。


 次に地下鉄の線路を爆破する、というものだが、これもまた乗客、駅員に見つかる可能性が高いため、こちらも爆破できる可能性は低い。


 地下鉄のホームを爆破する、というものだが、これもやはり直ぐに不審がられバレるリスクがある。


 更に、爆発した時間からも考えて、時限式のものを使用したとしてもこんな所にいる訳がない。

 もし本当に爆破するとしたら、もっと別の場所でするだろう。


 こういった手間があるため、機械類で爆破しようとは考えないはずだ、という理由から、驚くほどに簡単にすむ能力者による犯行、という線が一番有り得る話だと俺は仮定している。


 よって、あの男は犯人ではないのだ。

 何故なら、能力者でもない限り、この暗闇の中をああして超然と歩くことなど不可能なのだから。


 だから、気になったのはきっと気のせいなのだと、偶然なのだと断定して俺は遠見の後を追った。


 だが、俺はこの時、また振り返って男のことを見てみるべきだったんだ。

 

 そうすれば気づいただろう。


 男もまた、こ(・)ち(・)ら(・)を(・)振(・)り(・)返(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ということを。


 その男の視線を。


 眼鏡の奥から除く指すような瞳を。


 

 「やはり、厄介な相手だな。」


 俺は知る由もないが、男は俺に対して呟いていた。


 当然、遠見の方へ歩き出している俺の耳には届かない。


 もし、俺に未来を知れる能力があったのならば。


 俺は間違いなくこの時点であの男を捕縛していただろう。

 

 けれど、それはイフ(もしも)の話であり、結果として俺は後になって重大なミスに気付くことになる。


 だが、結果は変わらずとも、この時確かに俺の記憶は微細な刺激を感じ取ることができていた。




 そういえば、校門前で俺と戦っていた少女を離脱させた、あの黒い炎から伸びた腕から見える服装は、なんだっけ・・・?


 

とてもキリがよかったので、少し短いですが一旦ここで締めました。

こっから書こうとすれば確実に自分のキャパ超えると思ったんで・・・。


よかったらブクマ、感想、コメントなどよろしくお願いします。

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