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勉強会

 移動した先は、どこにでもあるようなファミレス。

 これといって予定に変更はなく、そのまま四人(厳密に言えば五人だが)で入ってテーブル席へと案内されて、予め持ってきたリュックの中の勉強道具や教科書、テストの範囲を範囲表を広げて各々自身の苦手としている教科や課題に取り組んでいた。


 因みにシロはそこらで浮いている。


 「それにしても、シロちゃんが神様ねえ・・・」


 勉強している手を休めて最初に遠見が声を発する。

 

 あれからシロが神なのだと打ち明けて一番驚いていたのも遠見で、そのリアクションといったら一見の価値があった。

 流石クラスのムードメーカー的な存在と言えよう。

 

 「ふははは、私はきちんとえらい神様だからな。敬え!」

 

 なんと不遜な態度だろう。

 俺は三年間の付き合いもあり、完全にシロが調子に乗っていることを察知する。

 けれど、これに介入しようとは思わない。

 だって今の機嫌を損なったら絶対に面倒なことを吹っ掛けられかねないのだから。


 さわらぬ神に祟りなし、とはよくいったものだ。


 そのまんまではないか。


 「・・・」


 それと、他にも以外だったことがある。


 それは、今俺の丁度向かいで唸りに唸って必死にノートと教科書を睨んでいる静城についてだ。


 「蒼太、ここ、どうゆうこと?」


 静城の学力は、残念だった・・・。


 「えっと、確かここをちょっと応用すれば解けるはずだ。こっからこうなるんだが、こうして教科書の手順を追って理解できるか?」


 「・・・・・・。?」


 曲者だった。


 俺だって勉強ができるわけじゃない。

 むしろそっちの方は平均的と言える。

 だが静城の場合は赤点のラインを行ったり来たりと危うく、毎回テスト前にはこうして詰め込んでいるらしい。


 「えーっと・・・、ここがわかんないんならちょっと戻って・・・・、この辺はどうだ?」


 それも仕方のないことだとは思う。


 だって学校へ登校できる日が少ないということは、即ち授業への出席が出来ていないことを表している。


 これは当然わかることだが、それで出席できていないということは、静城の受けた授業は他の奴らの一歩二歩遅れている、ということだ。


 当然それでテストの範囲全てを勉強できる訳でもなく、わからない場所が溜まっていき仕舞には赤点すれすれの点数を取るようになった、という訳だ。


 「・・・・・・、ここが、こう?」


 「そうそう、それでここがわかるから次はここ。大丈夫か?」


 そして、今現在静城が俺にわからないところを聞いて俺が教える、という体制を取っている。


 それは別にこちらからも文句はない。

 けれど、予想よりも遥かに静城が理解している範囲が前過ぎた。


 本当に、教えることに苦労してます・・・。


 え?


 六組のクラス委員長さん?


 見ればわかる。


 「うぐぐぐぐぐ・・・・・」


 勉強していますよ。


 何故って?

 塚野の学力を総合的に見れば、確かに上の方だと言える。


 そう、総(・)合(・)的(・)に(・)見(・)れ(・)ば(・)、だ。


 塚野には静城に勝るとも劣らない欠点となる教科が存在したのだ。


 それは、――――


 「ねえ、遠見くん。もうそろそろ休憩が欲しいんだけど」


 「え、駄目だよ?だってあれ程やばい静城さんが霞むくらい酷い有様を目の当たりにしてここで妥協なんかできると思ってんの?」


 「けど嫌なものは嫌だよ!数字を見ると頭痛がぁ・・・・」


 「大丈夫、初期症状だ。数学嫌いは皆(みな)それを超えて行く」


 そう、数学だ。


 赤点ギリギリの境界線を行き来する静城とは違い、塚野は本当にヤバかった。


 その点数、二十点取れるかどうかの境界線。


 これはヤバい。


 静城は理解力があって、まだ救いがある。

 それは理解していない部分をこちらが説明して理解させればある程度問題はないからだ。


 対して塚野。

 塚野は数学に理解もなければ学ぼうという姿勢がない。

 と言うかむしろ拒絶してまである。

 どうやって高校生活を送っているんだ、という疑問が湧いたが、それは他の教科で補ってギリギリの綱渡りをしていた模様。


 正直、塚野に静城を任せて俺と遠見と男女別になるように勉強会をしようと思っていた時期が俺にもありました。


 「もうやだー」


 ご愁傷様。

 これでは遠見のお節介スキルが働いてある程度理解するまで逃れられない呪いに陥った。


 塚野は にげられない▼


 チラリと、静城の方へ視線を向ける。


 「・・・」


 同じ教科を勉強していても、塚野と静城の姿勢は対極だ。

 静城は理解しようと積極的にわからないところを質問して、今までの清算をしようと励んでいる。


 理解力はずば抜けて高いから一回、二回と言えばすぐに吸収する。

 そうしてどんどん問題を解いていって、今は丁度テスト範囲最後の章だ。


 残るは基本の五教科の内数学以外と”能力理解”の筆記。

 ここまでみっちりやっているから是非とも高得点を出してもらいたいものだ。


 けれど、国語や社会といった文系の教科の心配はあまりない。

 静城は理解力はあるからそういった文系の教科は捗りやすいと踏んでいる。

 そうなると俺もいよいよ自分の勉強に励めるというものだ。


 正直このままできなきゃ今度は俺が点数を落としそうで本当に怖い。

 

 なんせこうして問題なく教えられているのは静城の理解力あってのことだ。

 これで俺が塚野を担当してしまえば、早々に匙を投げることになるのは間違いない。


 だって、俺だもの。

 本当にわかっていない人に教えてやれるほど、有能な人間ではないことは自分が良く分かっているのだから。


「ちょっと休憩でも挟もう。今これ以上やっても塚野が死ぬだけだし、それでテスト落ちたら意味ないだろ」


 「賛成賛成!超賛成!一回休憩しよう、そうしよう!頼む遠見くん後生だからぁ!!」


 俺の言葉に塚野は過剰な反応を示し賛成の声を上げる。


 いや、必死過ぎか。

 そんなにも数学が嫌いか塚野。

 

 けれど、根を詰め過ぎているのも事実で、一番危ういと思われる数学を中心的に勉強していたため他の教科には未だ手を付けれていない。

 それは流石に駄目だろう。


 勉強会なのに、サボって遊んでテストを落としました、では話にならない。

 けれど、仕事に休憩時間があるように、学校に休み時間があるように、何事にも休息は必要だ。

 

 「遠見、流石にこの状態で教えても頭に入らないと思うぞ」


 俺がそう言うと遠見は唸った。

 それほどまでにやばいのだろうか。

 ふと気になって、今塚野が勉強している範囲を見てみる。

 

 「あ、ちょっ―――」


 それを止めようと塚野は抵抗しようとするが、俺はそれを押しのけてノートを見る。


 「あ゛っ―――」


 「・・・・・・」


 あえて一言で表すのなら、”酷い”。


 これに尽きる。


 まず、簡単な計算問題は遠見の尽力あってか七割ほどは正解している。

 けれど、問題はその他だ。

 

 「なあ、これマジか?」


 「ああ、俺はもう心が折れそうになってる」


 まずい。


 何がまずいって、大体約二割ほどしか正解していないってことだ。


 そもそも、簡単な計算問題など、実際の中間テストで二割出題されればいい方だ。

 その他の八割は応用問題であったり、難しい方の計算問題であったりする訳で、このままでは塚野は数学の点数を落としてしまうこと間違いない。


 大体取れて赤点ギリギリ、といった所だろうか。


 本当にやばかった・・・。


 「だから、今からでも公式とか比較的簡単な計算方法とかつめこまないと勉強会やってる意味ないぜ?」


 現実を叩きつけるように、遠見は真実を述べた。

 確かに、それには納得せざるを得ない。

 というか絶対そうなる。

 半ば、というより確信に近いが、そう感じた。


 けれど、真っ白に燃え尽きそうになっている塚野を見て、俺はやはり休憩はすべきだと思う。

 思う、けどヤバイのも事実。

 

 「あー・・・・。いや、休憩として何か頼もう。この努力を無駄にしない為にも・・・」


 葛藤。塚野の危うさと遠見の努力はわかる。

 できれば、このまま合格ラインになるまで続けて欲しいとは思った。

 けれど逆効果なのも事実として考えた。

 

 結果、やはり休憩はするべきと判断して遠見をなだめることにした。


 「さ、流石っす・・・。やっぱり黒谷くんは分かってる。私はあんたに付いていくぜぇ」


 「え?」


 ビックリした。


 塚野は俺の言葉に感動したのか、ふざけて言ったのかは知らないがしみじみとそう言う。

 けど、俺からすればそれはお断りするし、何より俺の言った言葉は優しさからくるものではない。

 というか付いてきても困る。


 「いや、休憩終わったらできるまでみっちりやってもらうからな?」


 「神は死んだー!?」


 諦めろ。塚野。


 「ふふふふ、いやぁやっぱり面白いことするなぁ蒼太」


 「いや、全く面白くないからね?勉強に面白いも何もないからね?」


 「は?人によるだろ?」


 「え?」


 と、遠見まさか、お前勉強が好きだと言う奴と知り合いなんだろうか・・・!?


 「え、いや勉強って普通黙々と理解していくもんでしょ・・・?」


 え、これが心理だろ?

 理解できない所は見たり聞いたりして、理解できるように努めて、そうやってただ黙々と積み上げていくものが勉学というものだろう。


 「え、いや、それはそうだが、それだと絶対楽しくないじゃん!」


 「勉強に楽しさを求めることが間違いだと思うが・・・」


 驚愕、を通り越して戦慄、といった風に遠見が顔を思いっきり歪める。


 何を驚く必要があるのだろう。

 所詮人生などその”単純作業”の積み上げによって成り立っているだろうに。


 「ああ、硬い・・・。硬すぎたよ・・・・・」


 「?」


 わからん。


 遠見が一体何を言い表したいのかわからない。


 「諦めろ真司。こいつは悲しいやつなんだ」


 「シロ・・・、俺、俺、もっと頑張るよ・・・。これ以上悲劇を生みたくないよ・・・」


 「真司・・・・」


 そう言って二人は固い固い握手を交わす。

 いや、何やってんのこいつら。


 店員さんとかシロのこと見えてないから心底疑惑な目で見られてんぞ・・・・。


 「とにかく、デザートか何か頼んで休憩にしようぜ。頭を使ったあとは甘いものが良いとか言うし」


 「賛成」


 「お、いいね!」


 遠見の一声により、女子勢が息を吹き返す。


 おいシロ、お前まで目を輝かせんでよろしい。


 そして女子二人組はメニューを占領する。


 「単純に甘さをとるならチョコレートパフェは捨てられないけど、イチゴパフェとかバナナパフェとかも美味しそう。ケーキも、パフェよりはカロリー少な目で食べやすそう。アイスも冷たくて持ってこいかも」


 「確かにそうだね。風香ちゃんはどんなのが好きなの?私は結構甘党だけど」


 「ん、私も。チョコレートは甘くて好き」


 俺と遠見は目を見開いて驚いていた。


 まず、普段あれ程口数が少ない静城がデザートのことになるとあれだけ饒舌になるのだから女子というものは分からない。


 次に、女子勢のデザートに対する姿勢は最早別次元過ぎて驚いた。


 というか、あれだけ力尽きそうになっていた塚野が水を得た魚のように活き活きとしている。


 「・・・普通にアイス頼もうぜ」


 「そうだな・・・」


 俺と遠見は単純にアイス系を頼むことに決めた。

 もう、好きに選ばせてあげた方がいい・・・。


 ◆◆◆◆



 結局、あれから約十分間選びまくって悩んだ結果、静城はチョコレートパフェ、塚野はイチゴタルト、遠見はストロベリーアイス、俺はバニラアイスに決定した。


 それにしても、ファミレスなのにデザートが揃い過ぎである。


 「ん、おいしい」


 やがて、俺たちが頼んだ品が運ばれ、いち早く静城はパフェスプーンでチョコレートパフェをつつく。


 パフェとしては中々の大きさを誇っており、値段は脅威の千円越えだ。

 本当、なんでこんなにもデザートに強いのかわからない。

 一介のファミレスのはずなのに・・・。


 まず口に運んだのは、上に乗っているホイップクリームだった。

 その小さな口へと運ばれていき、やや口の端にクリームを着けながらも一口、また一口と食べていく。


 その度にふわりと心底幸せそうな笑みを浮かべるので、見ているこっちとしてはドキリとしてしまいそうになる。

 

 「蒼太も食べる?」


 「え、なんで?」


 何を聞いているのだろうか、このロリ。

 そんなラノベよろしく「あ~ん」を誘うような展開は現実では起こり得ないはずだ。

 だって、よく考えてもみろ。

 必ずしもヒロイン側の人間がその時点で主人公の事を好きだとは限らない。

 そして周りの目もある中で、そんな羞恥心に訴えるような行為を行えるとでも思うか?

 

 そんなことは常識的に考えて起こり得ないに決まっている。

 作品を盛り上げるための一種のイベントでしかないのだから、現実にそんなことは起こるわけがないのだ。

 よってQED(証明終了)。


 「こっち見てたから、食べたいのかなって。はい、スプーン」


 そうやって静城が渡してきたのは何の変哲もない常(・)駐(・)の(・)ス(・)プ(・)ー(・)ン(・)だった。


 つまり、静城の使っている「パフェスプーン」などでは断じてない。


 「ですよねー・・・・」


 うん知ってた。

 

 これで普通にパフェスプーンなんて渡されたら逆に吃驚してたわ。


 「じゃあ、折角だしちょっとだけ・・・」


 「はい」


 すると静城は食べやすいように、俺の方へとパフェをずらす。

 一言断りを入れて俺は丁度チョコレートアイスの部分をスプーンの先端で少しだけすくうと一口でそれをいただいた。


 「どう?」


 口当たりはかなりなめらかで、アイス特有の気持ちの良い冷たさと共にチョコレートの甘さが口に広がる。


 俺は別に甘党ではないが、このチョコレートパフェに使われているアイスにデザートへの真摯な愛を感じられる。


 つまり、特に甘いものが好きと言う訳ではない俺でもかなりおいしいと率直な感想を抱いた訳だ。


 「な、何これ、めちゃくちゃうまい・・・」


 「でしょ?」


 「うん、めっちゃ美味い。でも一番謎なのがなんでファミレスなのにここまでデザートに本気出してるかなんだって」


 いや、ホント分からん。


 「?蒼太、知らないの?」


 「え?」


 「あれ、狙って入ったんじゃなかったの?」


 俺の言葉に静城、塚野と女子勢が反応した。

 「狙って入った」とか言われても、適当に近くにあったファミレスに直行しただけだから分かんないに決まってる。


 ふと、遠見の方へ視線を向ける。


 すると、遠見も知らないようで、視線が重なった時にぶんぶんと横に首を振っている。


 「しょうがないなあ男子どもは」


 すると、しびれを切らして塚野が説明をしようと立ち上がる。


 「このファミレスは、店長の熱い要望によって本格デザートがお手軽価格で楽しめる、言わばデザートファミレスなのだよ!」


 「因みに、ちゃんと普通のメニューもある」


 ええ・・・。


 いいのか、それで。

 

 塚野と静城の簡単な説明である程度わかったが、果たしてファミレスとしてどうなのか。


 「以外とその手の流行に敏感なんだなぁと思えばまぐれかあ」


 「悪いか。それにだ、男子は基本そんな情報なんざ知らないのが普通だ塚野」


 言い終えて、一口だけ、時間を置いた自分のアイスを口にする。


 それはやはり、今まで食べてきたアイスくリームとは一味違う、とても柔らかい味だった。



い、意外と早い投稿?

とにかく、21話の投稿です。

次は5月になりやす。はい。

次話投稿までお待ちいただけると幸いです。はい。

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