信用
徐々に伸びつつあるUAに応えたい私はこうして一日投稿をするのであった。
次はいつになるのか・・・。
「この辺でいいだろ」
そうして歩いてきた場所は校門の近く、グラウンドの隅の方だった。
遠見は早く帰りたいという俺の意図を酌んだのか、ここは比較的勝負後に帰りやすい場所で俺としてはありがたい。
「んじゃあ、ちゃっちゃとやろうぜ?」
まあ例えそうだとしても礼は言わないが…。
「おう」
遠見の返事を聞いて俺は手首に複数着けているフィールドをはずし起動してから上へほおる。
幾何学的な音を立ててドーム型と呼べる半径十五mほどの障壁を展開し本体であるリング型の機械は限界距離を沿うようにして空中に浮遊する。
勝負の場は整った、後は開戦の合図を宣言すればいい。
俺と遠見は向かい合う形に立っていて距離はおよそ九mほど。走れば数秒もかからない距離だろう。
「それじゃあ―――」
「「―――はじめ!!」」
お互いの準備が整ったことを確認しあい勝負の宣言をする。
その瞬間から俺は前に走り、遠見は更に距離を取ろうと後ろに下がる。
<高速移動>で近づくことも考えたが対応されれば後が困るだろうと判断してこの前に走りだしたタイミングで<振動操作>を発動させる。
遠見の能力は<千里眼>であり、直接相手を傷つけるような能力ではない。
だからといって油断をしていい相手でもないのだ。
遠見の校内順位は低いのかと言えば、そうでもない。
この学校の全校生徒は平均より多少多い七百人前後である。
遠見はその七百人前後中の三百二十三、つまり三百二十三位で、非戦闘用能力者の中で唯一過半数を上回る猛者でもあり、唯一戦闘用能力者から白星を上げた人物だ。
確かに世界ランキングの中で見ればそれこそミジンコに等しい工夫なのだろうが、だからといってそれがイコール無害という訳でもない。
俺が覚えている範囲での遠見の戦法は相手の視覚を制限するものだったはずだ。
これだけ聞いただけでもはっきり言って非常に厄介といえる。
俺に音だけ聞いて遠見の居場所を判別できるような、主人公や達人じみたことなど到底できないのだから、視界を制限されただけで俺の防御力はゼロとなる。
だから勝つためにはなるべく使わせないようにするか、使われても大丈夫と言えるような状況に持っていく必要がある。
「悪く思うなよ遠見ぃ!」
「吠えてろ、サボり魔に負ける様な鍛え方してねーよ」
そして<振動操作>がその効果を発揮する。
「一体何を鍛えてんだよ」
地面を踏みしめる時にかかる右足の全振動を殺し増幅させ逆に地面へ流す。
ズドンと大きな音を立ててその振動は局地的に伝わり地面を鳴らした。
言うならば簡易的な超局所型の地震だ。
「うおっ」
当然その振動でここら一帯が揺れ遠見がバランスを崩す。
それを確認しながらも一歩一歩進むごとに能力を使いその振動を継続させてやる。
確かに遠見は俺のコピーした能力の内容を知っていて、ある程度対策を立てていただろう。後ろに下がったのは恐らく俺が持つ<高速移動>を警戒しての動きだ。
けれどその瞬間に俺の持つ<振動操作>で足元を揺さぶられて気が削がれたのであろう。<千里眼>を発動し俺の視覚を封殺することができないでいる。
このまま何もしない、できないままなら俺のストレート勝ちだ。
だがその程度で勝利を渡す遠見ではない。
「舐めんなよ」
揺れる大地に体勢を崩されながらも能力を発動した。
遠見の呟きを耳でとらえた時、俺の視界は一瞬で黒く染まった。
まるで明りの無い夜の森の中へ何の前触れもなく突然放り出された様に一瞬にして視界を奪われたのだ。
「クッソ…」
当然俺の足は止まるし能力も安易には使えない。
ここで使い続けては頼りの聴覚が活かせないからだ。
「初っ端のアレは驚いたけど、そうなっちゃ流石に派手な動きにはでれないだろ?」
遠見はそれを理解していながら、俺を煽るようにおどけた声で告げる。
実に遠見らしい的確な煽り文句だ。
勝ち誇ってニヤニヤしている様が目に浮かぶ。
俺の視覚は遠見の<千里眼>によって投影された暗闇を映すばかりで使えない。
幸か不幸か聴覚は生きているが声や足音で居場所を判別できるほどの超人じみた感覚など到底持ち合わせていない。
ある程度はわかるかもしれないがそれもかなりいい加減でザックリとした曖昧なものだ。
能力を使ってもいいが視覚が満足に働かない以上どう作用させたかという変化や状況を推察のみで進めることは流石にリスクが過ぎる。
詰み。
それがよぎってしまうのは仕方のないことだった。
「出たよ『恐怖のブラックアウト』、性格が出てるよなあの使い方…」
いつの間にそこに居たのだろうか、この密やかな勝負にどうやら観客が少なからず集まっていたようでその一人がバツの悪そうな声を出して言った。
つか『恐怖のブラックアウト』ってなんだよ、素で笑いかけたわ。
「いやなんだよ『恐怖のブラックアウト』って!テメエらみたいな物騒な能力者に勝てる冴えた使い方だろうが、あと勝手に名前つけんじゃねえーー!つけるんならもっといい名前にしてくれよ!」
お前が怒る所はそこなのか。
俺的にはお前のその評判について詳しく知りたいね。
けれど、いい茶々が入った。
見えなくともわかる。
遠見は現在外野の茶々に気が行っている。
確かに今現在の俺の状況は芳しくない。
詰みだとも思った。
だが、まだほんの一ミリも諦めてはいないんだよ。
すぅ――っ、と大きく息を吸う。
そしてこのアホったらしい勝負の幕を下ろす。
不意にニタリと、口元が三日月を表すがごとく笑う。
それを自覚しながらも、俺は後のことを思い浮かべ更に笑みを深める。
さあ、ショータイムだ。
「―――――――――ッッ!!!」
衝撃波がフィールド内で砂埃を巻き上げて目に見える形となって遠見へと迫った。
当然避けれるはずもなくそれは直撃する。
「うげっ!」
障壁へ何か重たいものがぶつかる音とともに黒かった視界が元へ戻る。
音の方を見てみると「耳がぁ…」と脱力して呟く遠見がそこに転がっていることから、どうやら俺の”全体攻撃”作戦は成功したらしい。
フィールドはこの一撃を有効打と認定し勝者を告げて障壁を解除した。
俺はそれを尻目に遠見の方へ近づいて行く。
俺がしたことは至極簡単だ。
<振動操作>をちょこっと応用しただけなのだから。
まず、そもそも”音”とは空気を振動させたものだ。
その振動を人体でいう”耳”という器官で振動として受け取りどんな音かを脳が判断する。
その”振動”に目を付けた俺は”声”という”音”の振動を<振動操作>を使い限界まで増幅させただけで、あら不思議、それは衝撃となって周りを襲う訳です。
例えば歌手やアイドルといったライブの時にスピーカーから発せられる音は、かなり大きなものだ。
それほど大きくなると、その音は空気をよく揺らすのだ。
これと同じように、振り子の様に常にもの凄い振動を繰り返すように<振動操作>で弄った俺の声は音の壁を押し出すようにして衝撃波を造りだした、というカラクリだ。
それを食らった副産物として耳がホントに痛くなる。
なんせ音速に到達した時に出る空気の層を作るほどの振動数の音なのだから。
鼓膜が破れないように調節するのには苦労した。
「やべぇ、頭いてぇ…」
そんなことを言っている遠見だが、これに関してはご愁傷様だ。
恨むのなら<千里眼>で視界を潰すなんて恐ろしいことをやったためにその対策がこれくらいしか浮かばなかった俺ではなく、うざったらしい能力の使い方を実践した自分自身を恨むがいい。
「それじゃあ、約束を果たしてもらおうか」
「ぐぬぬぬぬ…」
よほど悔しかったのか眉にしわを寄せて唸る遠見。
そんなに唸っても俺が勝負に勝ったという事実は覆らない。
「でもま、俺の持つ真の目的は達成できたから良しとするわ」
あっけらかんと言い放った遠見の言葉に俺は少なからず驚いた。
ん?
真の目的?
この勝負をすることによって遠見に都合の良いことがあったのだろうか?
この勝負は俺が勝って遠見に対する鬱憤は晴らせた。
ギャラリーだってそんなにいないし目立つのが嫌いな身としては丁度いい。
そして極め付けは校門近くで行ったためにこのまま直ぐに帰れることだ。
結論、わからん。
「なあ黒谷、ランキング見てみ」
すると悩む俺に喜々とした表情で遠見が持つアクセス機を指差して俺にそう言ってきた。
俺の持つアクセス機は学校支給の校内ラインキングしかないのでそれを起動し、遠見の態度に違和感を感じながらも言われたとおりに俺自身の順位を検索する。
すると、―――
「………ん?」
――――――俺の順位は七百位くらいから三百二十三位となっていた。
「はあ!!?…て、そうか俺普通にランキングバトルしてんじゃねえか!!」
柄にもなくアツくなって勝つことだけ考えてた。
なんという失態をしたのだろうか。
幸いにもあまり注目は集まっていないので目立つことは避けれたと思うが、急上昇した俺の順位ばかりはごまかしが効きそうにない。
・・・やはり手を抜いた方が良かったか?
「ハッハッハ!やっぱりお前強いじゃんか。次回のクラス戦が楽しみですなぁ」
「うぜぇ」
おっと、心の声が。
とは言っても今の遠見には負け惜しみにしか聞こえなさそうだな。
・・・うぜぇ。
だが、約束は約束だ。
これで帰る途中にでもコイツの<千里眼>をコピーさせてもらおう。
「約束は覚えてるよな?」
「ああ、勿論だ。お前はそういう奴だしな、まぁそうじゃなくても普通に守ってるけど」
良かった、これで知らねえとか言われたら絶対キレてた。
「それじゃ、帰ろうぜ。そっちに合わせたんだからいいよな?」
「おう!」
無駄に大きい遠見の返事によって締められた。
この勝負には俺にも遠見にも、何の重要性もない、ただ単にどこにでもある高校生のありふれた日常風景。
そのうちの一コマにしか過ぎない。
それを、俺は謳歌していると心から言えるのだろうか。
◆
「それで、どうやってコピーすんの?」
帰り道、俺と遠見は通学路を一緒に帰っていた。
人通りはそこそこで少し道に逸れればほとんどなくなる程度。
見計らったのかは分かりかねないが、コピーのことを話すタイミングとしては丁度いい。
「要所だけ説明すると、俺本来の能力を応用してお前の<千里眼>の能力をデータとして複製した後、俺に複製したものを移植するだけだ」
「ふーん、結構面倒くさいのな」
これを面倒と言うか貴様は。
この単純なステップを踏むだけで相手の能力を完全コピーできる凄さがわからないのか。
「論より証拠だな、今やるからちょっと道を逸れよう。あんまり人のいる所で使いたくないんだよ」
「あいよ」
遠見は俺の言葉に相槌を打って納得した様子で、すぐそこの脇道へ入る。
少し歩けば住宅街へと入っていき、下校中の生徒らしき子供をちらほら見かける程度の人通りだ。
ふむ、これくらいならいいか。
今ここで能力を発動したとして、俺の場合何かしらのエフェクトがある訳ではないから傍目から見ると携帯で通話するようにしか見えない。
そう判断して携帯を取り出し114510の番号を打った後に告げる。
『遠見真司の能力を解析、複製』
そして目の前に現れたのは遠見真司の<千里眼>に関する全データだ。
どういう風にどういった事象を表し、どういった効果を及ぼすのか。
その全てが目の前で詳細に記されている。
それはゲームやパソコンなどのウィンドウの様な形で表れており、俺が読むよりも早くデータが解析され文字へと変換されていく。
ずらりと並ぶ文字列が凄まじい速度でスクロールして流れていく様はもはや文字を目では追えないほどだ。
そして、やがてそれは止まり一つの光として豆電球ほどの大きさになっていく。
これが、能力の解析と複製。
その全行程だ。
残された工程は俺に移植するだけ。
「えっと、何が起きてんだ?」
遠見が疑問の声を上げる。
当然だ。
今までのウィンドウから光に代わるまでの工程は他人には全く見えていないのだから。
「見ればビックリするすごい事」
遠見が「?」と首をかしげているがどうでもいい。
今は目の前に集中せねばならない。
『保管』
イメージは光を俺が吸収する姿だ。
そしてそのイメージの通りに、光は俺の頭部へと向かい、そして消えていった。
「これで完了だ。簡単だろ?」
「おお」
遠見はいまいちわからないという様な顔をしていたが、俺が実際にテストも兼ねて視界を共有させる。
「すげえ!!」
すると納得した様で驚きの声を上げていた。
「まぁ、こんなもんだ。勿論、これは秘密で。わかってるよな?」
「ああ、その辺は信じてくれ」
わかっているうえで言っているのなら、その言葉は違う。
「ああ、信用してるよ」
「・・・信用ね」
信用。
それが妥当だろう。
まさしく俺は人を信頼することなどしないのだから。
「じゃあ、また明日。駅前な」
<千里眼>を手に入れる、という用はなくなった。
これで完全に帰る理由が出来た訳で、別れる理由としては妥当だろう。
「え、でも―――」
でも、ではないだろう。
もう一緒に帰る目的は達成しているのだから。
付き合い、というものがあるのは分かるが俺にそれを求めるのは間違いだろう。
「・・・そうだな。また、明日」
それを理解したのか、遠見は言いかけた言葉を飲み込んで挨拶を返してくる。
それに俺は後ろ手を振って応えながら歩を進める。
明日の勉強会はどうなるのだろうか。




