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貧乏国のお姫様は、国民に愛されています

リュヒの帰国した時の話

 俗に言う所の剣と魔法の世界。

 その世界では、トーラという帝国がその大陸の覇権を狙って、侵略戦争を繰り返し、世界を騒乱の海に陥れていて。

 しかしそんな騒乱と無縁だが、とても貧乏な国、ターツのお姫様、リュヒ=ターツ。

 彼女が帝国との休戦協定の更新を終え、国に帰った話です。



「何にもありませんね」

 トーリ伯爵令嬢の言葉にミーが頷く。

「まあね、これといった観光もなければ資源もない。なんと言っても、国民に欲が無いのが致命的だよね」

「そうみたいですね」

 ニーワが不思議そうに農作業をしている国民を観察する。

「おーい、イーヌじゃないか、なに格好つけてるんだ」

 そう馴れ馴れしい様子で近づいてくる農夫に周りの兵士が不満そうな顔をする。

「イノさん、お久しぶりです」

 顔を引きつらせて挨拶をするイーヌを見てその農夫イノがトーリ伯爵令嬢を見て言う。

「ベッピンさん連れてるじゃねえか、もうやったのか?」

 いやらしい手つきに兵士の一人が切れた。

「貴様、身の程をわきまえろ!」

 何本もの槍が突きつけられるがイノは、平然としている。

「都会もんは、気がみじけえのー」

「ふざけるな!」

 怒鳴った兵士が威嚇を籠めて槍を突き出す。

「止めなくて良いのですか?」

 トーリ伯爵令嬢の言葉にミーが肩を竦める。

「あいつ等も理解するのは、早い方が良いだろうからね」

 硬い音が鳴った。

「なに!」

 突き出した槍が止まった事に兵士は、驚く。

 元々、相手を威嚇するため避けられる突いたのだが、イノは、避けず、生身で受けたのだが、槍先は、イノの皮膚で止まっていた。

「イーヌ、やっちまっていいか?」

 イノの言葉にイーヌが首を横に振る。

「止めてください。イノさんがやったらこいつ等が壊れます。お前達、前から言っているが、この国の住人には、一切攻撃するな」

「しかし、馬鹿にされて黙っているなど出来ません!」

 兵士の反論に対してイーヌが釘を刺す。

「勘違いするな、俺は、お前達の身の安全の為に言っている。この国の人間の大半が俺より強いんだからな」

「そんな馬鹿な!」

 驚愕する兵士達を他所にイノが訂正する。

「言い方が正確じゃない。大半がお前より強いんじゃなくて、お前が最低レベルに弱いだけだ」

「少しくらい見栄を張らせてください」

 イーヌの言葉は、イノの言葉を肯定していた。

 兵士達が困惑するのを見てミーが言う。

「イーヌ、あっちの子と試合なさい」

「師匠、ですから俺にも見栄って物があるんですよ!」

 イーヌのクレームにミーが断ずる。

「ちっぽけなプライドがここじゃどれだけ無意味か思い出しな。ウー、こいつと一戦してやんな」

 その言葉に答え、農作業を手伝っていた男の子、ウーがやってくる。

「OK、師匠。そんじゃやろうぜイーヌの兄貴」

「相談だが、手を抜けば後で小遣いやるぞ」

 イーヌの囁きにウーが肩を竦める。

「相変わらずだなイーヌの兄貴。でも駄目だよ」

 そして二人の戦いが始まる。

 最初に動いたのは、イーヌ。

 相手が十二前後の子供だというのに手加減抜きの高速の抜刀での不意打ちをかます。

 ウーは、それをよつんばになってかわすと、両手両足のバネを使って一気に飛び掛る。

 イーヌが体を半身にしてかわすと同時に剣を振るうが、ウーは、空中で身を捻って剣の軌道から身をそらす。

 大きく離れた所でウーが両手をブランブランさせながら近づいていく。

「そういう奇策は、止めてくれ!」

 文句を言いながらイーヌが剣に気を籠めて振り下ろす。

 気が篭った衝撃波がウーに直撃し、ウーが跳ね飛ばされる。

「おい、やりすぎじゃないか?」

 兵士達が焦り、トーリ伯爵令嬢が真剣な顔をする。

「早く止めないと死にますよ」

 ミーが失笑する。

「あれが有効だったら、イーヌがあんな顔をしてると思うか?」

 トーリ伯爵令嬢が見るとイーヌは、冷や汗をかいて空中に浮かぶウーを睨んでいた。

 次の瞬間、イーヌに向ってウーの落下が加速した。

 イーヌが気を高め腕をクロスさせた所にウーの頭突きが決まる。

 ずりさがり、片膝をつくイーヌ。

「いまので決まったと思ったのにな」

 舌打するウーにイノが呆れた顔をする。

「ウー、イーヌだったから良いが、普通だったらカウンター食らってるぞ」

「イーヌの兄貴以外には、やらないよ」

 ウーの言葉を聞いてミーがイーヌを見る。

「あんたさーウー相手にここまで言われる程腕落として恥ずかしく無い?」

「本気でくやしいんですから、言わないで下さい!」

 半泣きのイーヌであった。

「あのーそのくらいにしておきませんか?」

 リュヒの言葉にイノが慌てる。

「リュヒ姫ちゃん、すまない」

「リュヒ姫姉ちゃんがそういんだったら僕は、良いよ」

 ウーも素直に受け入れ、イーヌが剣を納めて言う。

「そうしてくださると本当に助かります」

 その様子を見ていたトーリ伯爵令嬢が呟く。

「本気で、化け物揃いなのですね? それだけの戦力があれば、帝国は、別として他の周辺国なら十分に攻め落とせのでは?」

 ミーが手を横に振る。

「さっきも言っただろう、そういう欲が無いのがこの国の貧乏の一番の理由。その日の暮らしていければ良いのさ」

「正直、信じられませんわ」

 トーリ伯爵令嬢がそう口にしながらとんでもない戦闘力を持ちながら朗らかに会話する面子を見るのであった。



「えーとここがこの国唯一の宿屋です」

 リュヒが案内した宿を見てニーワが不満そうな顔をする。

「こんな所にお嬢様を泊めるのですか?」

「王城には、客室は、無いのでしょうか?」

 トーリ伯爵令嬢の言葉に恥かしそうな顔をするリュヒ。

「えーとある事は、あるんだけど、今は、お土産物工房になってるの」

「ここ数十年、賓客が来るなんて無かったからな。こっちの方がましだとおもうぞ」

 ミーの言葉にトーリ伯爵令嬢が呆れるのであった。



「ただいま!」

 元気に挨拶するリュヒに王妃が応える。

「お帰りなさい。今日は、御馳走よ」

「何々!」

 嬉しそうな顔をするリュヒを横にトーリ伯爵令嬢が国王にドレスの裾を掴み礼をする。

「始めまして、トーラ帝国の者です。この度は、ターツ国王に謁見させて頂きたくまいりました」

 国王は、恐縮した様子で応える。

「風のレジェンドドラゴン、カーシさんから聞いております。帝国のトーリ伯爵のご令嬢で。父上の領土より小さな小国の国王の私には、そんな大層な礼儀は、いりませんよ」

「いえいえ、帝国と同等の立場での休戦を行える王国の王に、一領主の娘である私がその様な真似は、出来ませぬ」

 トーリ伯爵令嬢の畏まった態度に困った顔をする国王。

「建前は、そんくらいにして、本題に入ったら。令嬢様の目的は、レジェンドドラゴンの力を帝国に引き込むもしくは、ターツ王国の強兵を自領土に引き入れる事でしょ」

 端的に言うミーを睨むトーリ伯爵令嬢に国王が苦笑する。

「まあそうでしょう。何度かあった事なのでこちらの対応も決まっています。レジェンドドラゴンについては、自ら交渉された方が宜しいでしょう。リュヒ、お前が案内してやれ」

「はーい、父さん」

 元気に返事をするリュヒに頷き国王が続ける。

「国民については、正直難しいと思います。帝国に将軍として使えるイーヌの様に諦めた者は、そういませんので」

「諦めたというのは?」

 トーリ伯爵令嬢の疑問にミーが答える。

「ここの国民の多くがレジェンドドラゴンへの勝利を望む連中の子孫だ。代々、その思いを引き継いでいて鍛えてる。はっきりいってイーヌみたいなおちこぼれでもなければその為にこの国を離れたりしないんだよ」

「レジェンドドラゴンに勝利ですか?」

 戸惑いを隠せないトーリ伯爵令嬢にミーが頷く。

「そうだ。そんな奇特な人間じゃなければこんな何にもない国の国民なんてやってないさ」

「何にも無いって言うのは、良い過ぎじゃないですか?」

 国王が困った顔をするとミーが訂正する。

「そうですね。のどかさがありましたね」

 その後、少し話を終えた後、トーリ伯爵令嬢は、リュヒに連れられて王宮(一応)から山の頂に向う。

「ミーウさん、ツーノさん、カーシさん、ヒーラさん、ヤーイさんただまいです」

 リュヒがそう挨拶すると頂に居た五体のレジェンドドラゴンが本当に嬉しそうに応える。

『無事に帰って来てくれて嬉しく思う』

「ミーウさん、治療ありがとうございました」

 頭を下げるリュヒに水のレジャンドドラゴン、ミーウが微笑む。

『良いのです。リュヒが助けが必要な時は、いつでも言うのですよ』

 そんなレジェンドドラゴンに気押されながらトーリ伯爵令嬢が声を掛ける。

「始めまして、私は……」

 言葉の途中で火のレジャンドドラゴン、カーイが舞い降りてくる。

『トーラ帝国の者が我等に何の用だ!』

 威圧されトーリ伯爵令嬢が怯む中、他のレジェンドドラゴンも冷たい視線を向ける。

『話は、聞いている。休戦協定を破棄しようとしてたらしいな。本当に懲りない奴等だ』

 呆れきったという顔をする土のレジェンドドラゴン、ツーノ。

『正直、不愉快だ。帝国の者が我等の前に居るいや、ターツ王国の足を踏み入れているのだ』

 嫌悪感を全開にする闇のレジャンドドラゴン、ヤーイ。

 その雰囲気にトーリ伯爵令嬢が口を噤むとリュヒが悲しそうな顔をする。

「皆さん、トーリ令嬢は、良い人です。それなのにトーラ帝国の人間だから嫌うのですか?」

 その顔に風のレジャンドドラゴン、カーシが慌てる。

『ち、違うのだ! ほら、お前達も何とか言え』

 光のレジェンドドラゴン、ヒーラも続ける。

『そうだな、何処の国の人間だといって人を拒絶するのは、悪癖だった。話をするが良い』

「ありがとうございます。しかし、もう話は、終わりました」

 すっかり恐縮した様子のトーリ伯爵令嬢であった。



「本当に良かったんですか?」

 王宮(一応)に戻ってからのリュヒの問い掛けにトーリ伯爵令嬢が辛そうに頷く。

「レジェンドドラゴン達の帝国への拒絶感は、実感できましたから。それに……」

 トーリ伯爵令嬢に見詰られて首を傾げるリュヒであった。



 その夜、王宮(一応)の前では、リュヒの帰国を祝ったパーティーが開かれる。

「凄い! 羊の丸焼きがある!」

 悦ぶリュヒに王妃が肉を切り分けながら応える。

「リュヒが戻ってきてパーティーだからといって皆様がお金を出し合って買ってくださったのですよ」

「ありがとうございます」

 嬉しそうに国民に頭を下げるリュヒを遠目に見ながらトーリ伯爵令嬢が呟く。

「おかしな国です」

「そうだな」

 汗を拭うミー。

「今まで何をしていたのですか?」

 ニーワの疑問にミーは、引きずってきたイーヌを見せて言う。

「こいつが鈍っていたから少し鍛えなおしてやってたんだよ。ついでにこいつの部下達ももんでやったんだが、全員リタイヤしやがった」

「帝国でも優れた兵士達なのですがね」

 トーリ伯爵令嬢の言葉にミーが肩を回しながら言う。

「人間相手のだろ? この国の連中の目標は、高くてね。そろそろ始まるぞ」

 ミーが指差した先では、土のレジェンドドラゴン、ツーノが居た。

『今宵の相手は、ワシがしよう』

「一番は、俺だ!」

 そういって昼間会ったイノが巨大な斧を持って突進すると全力を込めて振り下ろされた斧にツーノをその尻尾で受け止める。

 短い間均衡していたが、イノが弾き飛ばされる。

「ちくしょう! まだ通じないか!」

『まだまだお前等には、負けないぞ。次こい!』

 ツーノの言葉に次々と挑戦者が現れるのを見てニーワが目を見開く。

「あの人達は、どうしてあんな無茶な事が出来るのですか!」

「無茶ね? あんたは、イノがどれだけ凄いか解る?」

 ミーの問い掛けにトーリ伯爵令嬢が戸惑う。

「凄いって? 確かにレジェンドドラゴンに挑むのは、凄いことですが、あっさりと弾き飛ばされたでは、ないですか?」

 ヨロヨロな状態で立ち上がったイーヌが言う。

「その前です。イノさんは、レジェンドドラゴンの一撃に短い間ですが均衡しました。ツーノ様の尻尾の一撃食らえばそこら辺の城等一撃で崩壊する事を考えたら、どれだけ常人離れしているのかが解ります」

 その事実を踏まえてツーノとの対決を見てトーリ伯爵令嬢が顔を強張らせる。

「この国の人達は、どれだけの化け物揃いなんですか?」

 苦笑するミー。

「化け物過ぎるだろうな。だから下手に干渉しようとするな」

 長い沈黙の後、トーリ伯爵令嬢が頷く。

「はい。レジャンドドラゴンの力共々、この国に封じられるべき力ですね」



 翌日、母親の追求から逃げるように帰るイーヌと共にトーリ伯爵令嬢は、ターツ王国を後にするのであった。

 この時の旅の記録は、数少ないレジェンドドラゴンに触れた記録として長々と読まれ続けるのであった。

これで貧乏国のお姫様のお話が終わりです。

もっと大暴れさせるって案もあったんですけど、それってリュヒやターツ王国に似合わないと思ったので止めました。

何気に浮世離れしたリュヒよりトーリ伯爵令嬢の方が気にいっていたこのシリーズ。

主人公ってタイトルと違ってそっちだったかも。

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