表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/42

9章 あの演奏をもう一度

 切れかかった電灯が粗大ゴミ受付センター内を仄かに照らす。

 数多の粗大ゴミに紛れてそれはある、昨晩想い出と共に捨てた大切な電子ピアノがそこにある。


 ピンク色の布が被せられたピアノに、鋼志郎がゆっくりと近づいていく。


 一度は捨てようとした、詞音との約束を棄却して音楽を捨てていた。


 彼女と関わることができないのならば、もう自分には必要ないものだと思っていたから。


 でも……それでも忘れられなかったのも事実だ。

 あの日あの時耳にした詞音の演奏が、もう八年前にもなるあの演奏が、自分の記憶から消えた日などない。


「……」


 ……詞音の演奏が、好きだった。


 たった一度きりしか聞いたことはないけれど、偽りのない事実だ。


 己の殻に閉じこもっていた自分に差し込んだ、一筋の光明。

 彼女の隣に並び立って演奏ができるかもしれないという憧れが、今の自分を構成する要素の全て。


 俺が今の自分になれたのは、あの彼女と共に演奏したいが為。

 だから、今ここにいる自分は彼女の為に在るものだ。


 詞音は無理だと言うけれど、彼女がヴァイオリンを捨てない限り望みは断ち切られない。


 もう一度、在りし日の夢を追うことができるなら……。


「……また俺と共に奏でてくれるか……?」


 毛布の奥の、その冷たい鍵盤に触れながらそう呟く。


 返答などあるわけもない。

 だからその問いかけは、単なるけじめでしかない。


 ……俺は、もう一度あの未来を夢見るよ。


 鋼志郎は、そう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ