24章 緊急招集
「――つまるところね! 式鳴島の先行きが危惧されているけど、伊豆諸島全体の問題でもあるわけなんですよ! 諸島全体の人口推移グラフ知ってますよね? 離島としては減少が控えめとはいえ、悠然と構えていられる数値ではないんですよねぇ」
伊豆諸島で最も大きく、最も人口の多い伊豆音島の公民館に設けられた貴賓室には、総勢三十名もの人物が集っていた。
それぞれが伊豆諸島各地の代表者、もしくはその代理人である。
神奏島、三弾島、御演島、弦ヶ島など北から南まで、それどころか本土に設置された伊豆諸島総合観光庁組合員まで出席していた。
島の代表者が呼び出されるのはそうそうない出来事、年に一度の諸島総会の時ぐらいしかない。
だが先日緊急招集がかかり、本日この場に集結する運びとなった。
無論急な呼び出しだったので代理人を派遣する島も少なくはないのだが、そうした事例を含めて全島から人物がやって来ている。
これは異例中の異例、前例無きことだ。
だからどの島から来た者も、今日今ここでどんな話が飛び出してくるのか強く警戒していた。
しかも招集人は東京都総務局の北空文人、並びに式鳴島商工会会長の長野匠海なのだ。
一番死に近い島の代表が何を考えているのか、誰もが用心深く身構えている。
今、司会者でもある文人が伊豆諸島の現状について話している。
式鳴島は勿論、先々のことを考えると他の島も危うい状態であることを今一度おさらいしていた。
「三弾島は釣りやバードウォッチングの観光資源が盛んだったものの、最近起こった火砕流騒ぎで観光客は激減したらしいですねぇ。弦ヶ島は海底光ファイバーケーブル設備が難航しているのだとか。御演島は海域汚染でハンドウイルカが生態区域を変えて、ドルフィンウォッチング産業に暗雲が立ち込めているんですって? はっは、危ういですねー、どの島も危うい! ……分かります? どの島もね、近い将来式鳴島並の財政状況に陥るんですよ」
明るくカラカラと笑いながら文人は言うが、代表者たちは一ミリも笑っていられる気分ではない。
確かに文人が言う通り、どの島も観光産業に大きな不安が付きまとっている。
明日は我が身を地で行く地域、誰だって楽観視してなんかいられない。
「……北空さん、我々は時間を割いてここに来ているんだよ。本題を手早く話してほしいねぇ」
どこかの島の代表者がそう告げる。
暗澹たるメンツの中で一人だけ底抜けに明るい文人が、上機嫌に笑いながら首を縦に振った。
「そうですよね、気になりますよね。今日私が皆さんを集めたのは、式鳴島立案の計画を皆さんにお披露目する為です」
文人の合図で、会議室の端に控えていた海司が立ち上がり、各員に資料を回し始める。
その資料を見た代表者の反応はまちまち、驚く者もいれば胡散臭そうに目を細める者もいる。
「概要は資料に記載してある通りです。この計画は皆様方の協力が無ければ遂行できません。何分、式鳴島の観光事業予算はもう雀の涙程しかないのですからね」
「我々を出資者に仕立て上げる気か? パトロン扱いされるのは心外だな」
御演島観光課課長が資料を机の上に放りながら不快そうに言う。
だが文人は首を横に振り、そして海司のほうを指さした。
「本計画の考案者は式鳴島商工会会長子息、長野海司会員です。ここからは彼に進行を引き継ぎますが、皆様方が単なるスポンサーと化すのは事実とは異なると先に述べておきましょう」
そして文人に促され、海司が会議室の誕生日席に座る。
何十人もの重鎮から視線を浴びるが、海司は全く臆する様子を見せない。
……いや、内心を隠して平静を装っているだけだ。
これぐらいでビビってたまるか、明後日コーシロはもっと大勢のいる場所で演奏するんだ。
そう内心呟いて、海司はマイクを片手に握る。
「皆様お初にお目にかかります、長野海司と申します。……先程のご意見に関してですが、要項に書かれている通り本計画は各島にて順繰りに行われます。その初回が式鳴島となるだけであり、式鳴島特有の計画になるわけではございません」
「その場合物資を輸送する海路は? 本計画が持ち回り制になるなら輸送代が嵩んでくるだろう、その辺りは採算取れるのか?」
「本計画が復興事業として認可されれば、総務局からの助成金が発生します。また観光事業支援会からの幇助も行われる予定です」
「しかしね、まあ、観光向きの話になることは認めるんだが――」
伊豆諸島総合観光庁組合員が後頭部を掻きながら呟く。
彼の眺める資料には文人が記したドラマ性の高いシナリオが綴られているが、それが現実になるかは確約されていない。
「――現実性はあるのか? 分の悪い泥船に乗る輩は少ないと思うぞ」
「それは二日後、皆様方に判断していただくことになります」
もう軽い根回しは済んでいる。
二日後、式鳴島で何が行われるのかは、既に各代表者に連絡済みだ。
「二日後、式鳴島公民会レクホールにて演奏会が行われます。この計画に乗るか否かは演奏会終了後に判断していただきますので、事前共有の通り皆様出席の程宜しくお願い致します」
この先未来がどうなるかは演奏会にかかっている。
失敗すれば計画倒れ、商工会のメンツも丸潰れだ。
それどころか現商工会は奏一の手中に収まることとなる。
でも海司は信じていた。
だってずっと鋼志郎はクラスを湧かせ続けていたのだ、今回もきっと期待通り、いや期待以上に彼らの心を湧かせてくれるはず。
それは妄信にも近い信頼。
きっとこの場にいる誰にも理解されないだろう。
だから証明しなければならない。
二日後を以て、ここにいる全員に。
「――ああそれと、先程北空様がこの計画の考案者を私だと紹介しましたが、実は違います」
海司は営業用の笑顔を浮かべ、その名を告げる。
「本計画の考案者は――琴浦鋼志郎です」




