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23章 孤独な朝

 翌日のことだ。


「おはよう諸君!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 鋼志郎がすげえテンションで挨拶した。

 挨拶というかもはや攻撃に近い。


 裁判所で争えるレベルのデシベル数だったので、鼓膜を守るべくクラスメートたちが一瞬耳を塞ぐ。

 でも音を遮断してすげえテンションで挨拶する顔だけを見るのもそれはそれでなんか不安になる光景だったのですぐ解除した。


「おっす鋼志郎。どした、朝食拡声器だった?」


 クラスメートたちが挨拶を返す中、誰か一人が不思議そうにそんなことを聞いた。

 思わずそんなことを訪ねてしまうくらい今日の鋼志郎はパワフルなのだ。


「全然寝れてなくてテンションが逆におかしくなってるんだなこれが! 多分そのうち電池切れで動かなくなると思う!」


 生ける選挙カーみたいな鋼志郎はへらへら笑い、そんなに悪びれもしていない態度だ。


「そっか、よく分かんないけど、鋼志郎がシャブに手ぇ出すならアッパー系じゃなくてダウナー系使った方がいいな」


「そうだな、今度ダウナー系のシャブ使ってみるわ!」


「いや、その結論はおかしい」


 残り僅かな体力を振り絞ってクラスメートたちと他愛ない会話を交わし、鋼志郎はふらふらな足取りで席につく。

 そしてなんか不思議な生き物を見るような目で鋼志郎を見ていた詞音と目が合った。


「おはよう闇倉!! 今日も元気そうだね!!!!」


「あなたには負けるわ」


 うわ絡まれたとでも言いそうな顔をして、詞音が少し引いている。

 彼女がそんな反応をするのもむべなるかな、今日の鋼志郎はなんか不気味というか……薄気味悪いというか……底気味悪いというか……小気味悪いというか……色々言い換えたけど率直に気味が悪い。


 だが、鋼志郎の目にできた隈、疲れ切った表情、寝坊しかけたのか少し荒れた髪型を見て、大体のことを察した詞音は何も言わずにいた。

 そして数日前、学校に泊まり始めた時の自分も、きっとこんなに分かりやすかったんだろうかと自嘲したくなる。


 たまには、少しだけ優しくして見てもいいのかも。……そんな世にも珍しいことを思う。


「……ま、体調に気をつけたら。程々に」


 さすがに今更真っ当に心配するのも気恥ずかしいので、どこか口調はぶっきらぼうになってしまった。

 だがその言葉を聞いた鋼志郎は鵺でも見たような顔になる。


「えっ、なんか闇倉が今日ほんのり優しい! おい聞いてくれ海司マストニュースだ、今日は闇倉に温かみがある! ……あれ?」


 友に感銘を伝える為に振り返ったが、海司の姿はどこにもなかった。

 目当ての人物が見当たらない鋼志郎は教室内を見回してから、詞音に尋ねる。


「……闇倉、海司はまだ来てないのか? 今日朝迎えに行った時いなかったから、てっきり先に学校来たんだと思ってたんだけど」


 尋ねられた詞音は首を横に振る。

 彼女も海司を見ていないのだろう。


 海司の席には鞄すら置いてなく、登校した形跡は見つからなかった。

 低血圧で死にそうにはなっているが無断欠席や遅刻などしない男なのに、一体何があったのかと鋼志郎は首を捻る。


「アイツ……どうしたんだろ……なにしてんのかな……」


 拍子抜けした鋼志郎が机に突っ伏す。

 体力のない中テンションを空回りさせて学校に辿り着くことはできたが、もはやそれも限界のようだった。

 その心中は完全なる諦めムード、今日の授業は全面的に犠牲となるだろう。

 起きていられる精神力などもう残ってはいない。


 ……海司に、演奏会当日の詳細事項を聞きたかったんだけどな……。


 そう思いつつ、鋼志郎の意識が闇に溶けていく。

 彼はまだ知らない、今日のまもり先生の機嫌がクッソ悪くて居眠りする輩を徹底的につるし上げようキャンペーンをやり始めることを。


 そして、海司が今、ここ一番の大勝負に出ていることも。

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