番外編13 祈られるテント
テント下山の軌道上で、肉食動物に当たると、相手は即死ダメージを受ける。
ただし、テントの軌道には影響しない。
肉食動物が、進路上の小石みたいな扱いになっている。
生命倫理が音速で通過していく。
さらに、空を飛ぶ猛禽類と同じ高度まで上がって眺められるよう、地形の一部にジャンプ台となる形状がわざと仕込まれている。
わざと。
一定以上の標高では猛禽類が登場しないことを利用し、高度が下がって猛禽類がスポーンする場所を計算に入れ、空での邂逅をデザインしている。
ただし、衝突はしない。
ここだけ急に繊細。
音速テントで山を下ることは許す。
岩は砕く。
肉食動物は吹き飛ばす。
でも猛禽類とは衝突させない。
ガルダの頂点捕食者への敬意がある。
敬意の向きが斜めすぎる。
そして、一番変なのは先住民だ。
テントが高速すぎてほぼ見えないが、実は先住民がテントに祈りを捧げている。
俺はここで完全に笑った。
音速で山を転がり落ちる耐久無限テントに、先住民が祈りを捧げる。
絵面が強すぎる。
だが内部処理を見ると、妙に筋が通っている。
先住民AIは、脅威度最高の存在に反応して祈りモーションを発動する。
通常、その対象は猛禽類。
しかし音速テントは衝突ダメージが極大であり、脅威度判定に引っかかる。
そのため、祈りの対象になる。
理屈はわかる。
でも、それはもう祈りの対象が精霊からテントに移っている。
信仰の危機だ。
いや、彼らからすれば、空から音を割って飛んできて岩を砕く物体など、祈るしかないのかもしれない。
俺だって現地にいたら祈る。
何に祈っているかはわからないが、たぶん祈る。
最後、テントは音速のまま麓の湿地に突き刺さって着地する。
ゲーム内で地面へのめり込みが生じるのは、ここだけ。
これで下山すると、トロフィー「虚数解」がアンロックされる。
ただし、正式クリア扱いにはならない。
虚数解。
解ではある。
でも現実の解ではない。
下山ではある。
でも正規の下山ではない。
トロフィー名が完璧すぎて腹が立つ。
難易度ネルソンは道中のセーブポイントがほとんどないが、旗を三本刺し終えたところでセーブできる。
だから、テント下山で遊んだあと、リロードして改めて正規下山が可能。
旗が残っていても、山頂候補ならテント下山はできる。
ただし、旗があるとトロフィーはもらえないし、普通に登り直しになる。
遊びには厳密。
仕様には狂気。
この運営のバランス感覚は、ガルダの崖に片手でぶら下がっている。




