番外編12 人類未踏の下山観光
「テント下山」。
説明を読んで、俺はしばらく何も言えなかった。
難易度ネルソン以上限定ギミック。
難易度ネルソン以上で使用するテントには、もともと耐久力無限判定がある。
ニーソンスキン、じゃなかった、限定ネルソンスキンの強靭テントは、それ以外の難易度でも使えるというもので、もともと仕様としては存在していたらしい。
生身で滑落したら死亡する場所でも、テント内にいて、テントごと滑落すれば安全。
ここまでやり込んでおいて、今さらテントの扱いを甘く見るプレイヤーはいない。
公式がそう書いている。
なぜプレイヤーのテント理解を信頼しているんだ。
そして、どうしてその信頼の行き先がこれなんだ。
この仕様を使い、山頂でテントに入ってから、麓までの五万メートルを一気に転がる。
超スピードで下山することで、安全に生還できる。
安全に。
生還。
五万メートルをテントごと転がり落ちることを、安全と呼ぶな。
人類が経験したことのない下山が展開される。
その通りだ。
人類は経験していない。
今後も経験するべきではない。
途中で谷に沿って複雑な軌道を描く。
立ちはだかる岩を豪快に砕く。
滝や崖から大ジャンプする。
空中からマップの絶景を見下ろす、数少ない手段になる。
他の空中観察手段は猛禽類が絡むため、ろくなことにならない。
テントで音速落下するほうが、まだマシな空中観光扱い。
観光とは何か。
岩は通常プレイでは破壊できない。
だが、テント下山の進路に重なる岩の一部にだけ、隠しパラメータとして体力値が設定されている。
通常はダメージ耐性でごまかしているが、加速したテントは耐性を貫通する。
テントの当たり判定が安定しているため、岩を砕いて突破する。
岩を砕くテント。
キャンプ用品の領域を越えている。
下山中、テントはどんどん加速する。
途中から音速を超え、ソニックブームが発生する。
登山ゲームで、ソニックブーム。
俺はもう驚き疲れているはずなのに、まだ驚ける自分に驚いた。
もともとゲーム内で音速を超える存在が登場することは想定しておらず、演算はかなり省略されていたらしい。
だが、テント下山を前提に、クラッシュしないよう安全マージンとしてマッハ四まで計算に対応する仕様にした。
マッハ四。
安全マージン。
言葉同士が握手を拒否している。
ソニックブームは最初はなかったが、後から要素として追加された。
その演出を最適化するために、二百回以上、ソニックブームのためだけに試走したという。
開発者、何をしているんだ。
通常プレイにおいて、テント下山以外で音速を出すギミックは存在しない。
つまり、ソニックブーム演出は、実質この狂った下山専用。
山に対して真摯というより、テントに対して異様な責任感を持ち始めている。




