第39話 モーションキャプチャに命を賭けるな
公式サイトには、ゲーム内の和解モーションについても書かれていた。
あのジェスチャーは、一切簡略化していないらしい。
一切。
ゲームなのに。
普通なら、ボタン一つで済ませる。
あるいは、簡単なポーズにする。
プレイヤーが覚えやすいように、動きを少し減らす。
でもこの運営は、コマンド型UIを採用した。
プレイヤーが細かい身振りを直接操作するのではなく、コマンド選択によってキャラクターの動きを自動化する。
なぜか。
実際の儀式動作を完全再現するため。
意味が重い。
操作性より文化再現を取っている。
しかも、開発チームは現地取材までしている。
先住民にモーションを見てもらい、誤りを指摘してもらったという。
そこまでするか。
いや、するのは立派だ。
立派なのはわかる。
でも、あのガルダである。
現地入りするだけで危ない。
天然地雷の回避方法は高精度だが、百パーセントではない。
年間三人ほど死んでいる。
そのリスクを負ってまで、ゲーム内の儀式モーションを確認しに行った。
取材班が三手に分かれて、万が一誰かが天然地雷を踏んでも全滅しないようにする。
最悪、行きと帰りで一人ずつ踏み抜く大ハズレを引いても、生還者が残る。
天然地雷の現代の死者は年間三人前後なので、ここで全滅は確率的に薄い。
モーションキャプチャに腹を括りすぎだろ。
山に対してだけ、ガチすぎる。
闇運営のくせに。
族長にそのことを話したら、爆笑した族長が帰りは湿地を先導してくれたらしい。
一回で安全に帰れるのに、取材班の覚悟を汲んでわざわざ三往復して見送ってくれた、とスタッフブログに書いてあった。なんだよその異文化交流。
ハリウッドに似た顔を出して掲示板で名前を禁止ワードにする運営のくせに、先住民のジェスチャーは現地監修。
「強靭」「無敵」「最強」と胸に書いた変なスキンを出す運営のくせに、資格儀式は完全再現。
返金対応は神。
肖像権は闇。
山岳描写は学術。
公式サイトは博物館。
人格が尾根の向こうで分裂している。
俺は思わず画面に向かって言った。
「ハリウッドに喧嘩売る情熱の一割で、法務監修を入れろ」
誰も答えなかった。
画面のネルソンだけが、静かにガルダを見上げていた。
その顔は、たぶんまだ危ないくらい誰かに似ている。




