第38話 公式サイトに全部あった
そして、一番納得がいかなかったことがある。
この文化史、全部ゲームの公式サイトに書いてあった。
俺はしばらく画面を見つめた。
全部?
全部ある。
先住民の資格儀式。
槍を向ける意味。
ジェスチャーの成立史。
爆発湿地に関する先住民の経験知。
ネルソンの岩投げ実験。
黒曜石ジジイの論文。
第一次調査団の報告書批判。
第二次調査団の人骨提示事件の再解釈。
天然地雷の現代的回避理論。
参考文献一覧。
論文リスト。
嘘だろ。
ゲームの公式サイトというのは、普通、動作環境とかスクリーンショットとか、キャラクター紹介とか、アップデート情報とか、そういうものを載せる場所だ。
この運営はそこに、文化史の山脈を置いていた。
サイトを開いた俺が悪いのか。
軽い気持ちで「攻略ヒントあるかな」と思っただけなのに、突然、百五十年分の民族学と地質学と思想史が雪崩れてきた。
論文タイトルをいくつか検索してみると、全部実在した。
黒曜石ジジイの「先住民人間説」に至っては、公式サイトにPDFが置いてあった。
原文と翻訳版の両方。
原文は、当時の論文用の古い言語で書かれている。
その時代には、学術論文を書くときだけ専用の古い文語を使うしきたりがあったらしい。話し言葉とはかなり違う。現代人が読むには専門の訓練がいる。
翻訳版があって助かった。
俺は古語の雪山まで登る気はない。
権利関係も調べた。
発表は百四十年以上前。
ちょうどネルソン登頂から五年目に発表された論文で、現在では権利上の問題はないらしい。
よかった。
運営の前科が増えなくて、本当によかった。
肖像権の崖で滑落している疑いが濃い運営なので、論文まで無断転載していたら、もう法務の雪崩に巻き込まれていた。
少なくともここは合法。
山と学問には誠実。
ハリウッドにだけなぜか喧嘩腰。
倫理のコンパスが、特定方向だけ磁場異常を起こしている。




